相続手続をしなかったらペナルティはある?想定されるリスクと対策について解説

相続関係の手続きは、死亡届から相続税申告、相続登記(不動産の名義変更)などさまざまなものがあります。今回はそれらの手続きを失念したり、放置してしまった場合のリスクについて解説していきます。

 

相続手続が放置されやすいケース

相続にはさまざまな手続きが含まれるため、その一部が放置されることも珍しくありません。たとえば以下のようなケースです。

 

相続の発生に気付かない

親族との付き合いが疎遠だと、相続が発生したこと(被相続人が死亡したこと)に気が付かないこともあります。ある日突然連絡を受けたものの、すでに相続発生からかなりの時間が経過していた、ということもあるでしょう。そもそも相続の発生を知らなければ、相続手続も進めようがありません。

 

相続関係が複雑

孫やその子、あるいはおい・めいに代襲相続が発生していたり、今まで存在を知らなかった腹違いの兄弟が登場するなど、相続関係が複雑になるほど相続手続も面倒になります。このような場合、相続人の調査に時間がかかる、なかなか連絡がとれない、全員の都合が合わないなどの理由で相続手続が放置されやすくなります。

 

他の相続人と連絡がとれない

上のケースと似ていますが、他の相続人に連絡をしても音信不通だったり、無視されたりして相続手続を進められないこともあります。

 

相続人の中に未成年者がいる

18歳未満の未成年者は、法律行為を単独で行えません。遺産分割協議も法律行為に含まれるため、未成年者の代わりに法定代理人や特別代理人が協議に参加する必要があります。代理人の選任手続には手間や時間がかかることもあるため、相続手続が後回しにされる可能性もそれだけ高くなるでしょう。

関連記事『特別代理人が必要なケースとは?選任の手続きについても解説

 

相続人の中に認知症の人がいる

相続人の一部が認知症を発症していたり、精神障害などにより判断能力を欠いている場合も代理人が必要です。

 

相続手続をしなかったらどうなるか

相続手続を後回しにしたり、手続きを放置したからといって、必ずしも何らかのリスクが発生するとは限りません。しかし相続手続の中には「期限」が設定されているものも少なくありませんし、手続きをしないことで損をしてしまうこともあります。

関連記事:『遺産相続手続に期限はある?期限を過ぎた場合の対策についても解説

 

ペナルティを受けるリスク

手続きに期限が設定されている場合、その期限を過ぎてしまうと以下のようなペナルティの対象になりかねません。

  • 加算税や延滞税の対象になる
    準確定申告の期限は「相続開始を知った日の翌日から4月を経過した日の前日まで」、相続税の申告期限は「相続開始を知った日の翌日から10月以内」です。この間に申告と納付が行われない場合は無申告加算税や過少申告加算税、延滞税、重加算税などが発生します。また相続税額が確定したのに納付しない場合、財産が差し押さえられるリスクもあります。

関連記事『相続税の仕組みとは?相続税申告が必要なケースと申告の手順について

  • 過料の対象になる
    相続登記(相続した不動産の名義変更)はこれまで義務ではありませんでした。しかし法改正により、遅くとも2023年4月には「取得を知った日から3年以内」の登記が義務とされ、これに違反した場合は「10万円以下の過料」の対象となる可能性があります。

 

権利を失うリスク

法律上のペナルティが発生しなくても、相続手続を放置することで本来得られるはずの利益や権利を失ってしまうことが少なくありません。

  • 第三者に権利を主張できない
    不動産を相続した場合、自分の名義に登記しなければ第三者にそれを主張できません。もし相続登記をしていない(被相続人の名義のままの)土地を家族が勝手に売却したとしても、事情を知らない買い手(第三者)に自分の権利を主張して、土地を取り戻すことはできません。

 

  • 預金の払い戻しができなくなる
    預金口座の相続手続を放置し続けると民法上の時効が成立します。預金債権は「5年間」取引を行わないことで成立するため、もし銀行が時効の成立を主張すれば、その後は払い戻しを受けることができなくなります(実際には銀行が時効を主張することはほぼありませんが、油断は禁物です)。

関連記事『銀行預金の相続手続に期限はある?手続きの手順や注意点について解説

  • 株主の権利を行使できない
    株式を相続しても、相続手続(名義変更)をしなければ株主総会の案内や配当金を受け取ることができません。また放置期間が5年続くと「株主所在不明」という扱いになり、株式発行会社によって競売にかけられることもあるため要注意です。

 

  • 遺留分侵害額請求ができなくなる
    遺留分侵害額請求とは相続財産のほとんどを他の相続人や第三者に取られた場合に、遺留分(法定相続人が受け取れる最低限度の相続分)を主張できる権利です。遺留分を侵害された相続人は遺留分相当額を金銭で受け取ることができますが、遺留分侵害額請求を行えるのは「相続開始と遺留分侵害を知ってから1年以内」です。

関連記事『遺留分侵害請求権とはどのような権利?請求方法や請求を受けた場合の対応について

 

  • 相続回復請求権を行使できなくなる
    相続回復請求権とは、本来の相続人(真正相続人)が他の共同相続人や偽の相続人から相続権を取り戻す権利です。この権利は5年で時効消滅してしまいます。

 

  • 相続分の取戻権を行使できなくなる
    相続分の取戻権とは、相続人が第三者に譲渡した相続分を、他の共同相続人が取り戻す(買い取る)権利です。ただしこの権利を行使できるのは「譲渡から1か月以内」です。

関連記事『相続分の譲渡は可能?手続きの流れや相続税の取り扱いについても解説

 

相続関係が複雑化するリスク

相続人は一人とは限りません。複数の相続人(共同相続人)がいる場合、相続手続を先延ばしにすることで相続関係が複雑化する可能性があります。

  • 代襲相続の発生
    代襲相続とは、相続発生時に本来の相続人が死亡している場合に、その子供(もしくは孫など)に相続権が引き継がれることです。たとえば被相続人の「子」が死亡するとその直系卑属(子、孫、ひ孫…)が代襲相続しますが、結果として共同相続人の数が増えたり、客観的に誰が相続人かわかりにくくなる可能性があります。

 

  • 相続登記の手間が増える
    親から不動産を相続した人が相続登記をしないまま亡くなり、さらにその子供が不動産を相続した場合、「先々代→先代」「先代→自分」という2世代分の相続登記が必要です(相続登記にかかる手間も時間も大幅に増えます)。

 

借金を背負うリスク

相続財産はプラスの財産ばかりではありません。もし被相続人が借金や未払金を残して亡くなった場合、相続人はそれらも引き継ぐことになります。これを回避するには「相続放棄」や「限定承認」が有効ですが、これらの手続きは「相続の開始を知った時から3か月」に行わなくてはなりません。相続手続を放置したまま期間が過ぎた場合、相続人は借金を含む相続財産を無条件で相続(単純承認)したとみなされてしまいます。

関連記事『相続放棄できる期間はどれくらい?期間を延長できる可能性についても解説
関連記事『限定承認とはどのような手続き?相続放棄との違いや手続きの流れについて解説
関連記事『相続を単純承認するとはどういう意味?成立要件と注意点について解説

 

特に注意すべき相続手続

相続手続の中には、特に注意を要する(放置のリスクが高い)ものがあります。

 

銀行預金の相続手続

金融機関の預金口座は、相続が発生すると「凍結」されます。いったん凍結された口座からは入出金が行えません。仮にその口座が公共料金の支払口座だった場合、引き落としができないため電気・ガス・水道が利用停止になるリスクもあります。

口座が凍結される前に相続人が預金を引き出すのもトラブルの元です。引き出したお金を生活費などに充てた場合、その行為は「単純承認」とみなされ、その後の相続放棄や限定承認ができなくなります。もちろん他の相続人とのトラブルにも要注意です。

またすでに説明した通り、預金口座の時効は5年間です。しかし仮に銀行が消滅時効を主張しなくても、10年間放置された預金口座は「休眠口座」となり、預けられていた預金は預金保険機構に移され、民間公益活動に使われる可能性があります。ちなみに10年間の起算日は相続発生日ではなく、最後の入出金が行われた日です。

このように、銀行預金の相続手続にはさまざまなリスクがあります。相続手続を進める際はくれぐれも注意してください。

 

遺産分割協議

遺産分割協議そのものに「期限」はありません。しかし相続財産の額によっては相続税が発生し、遺産分割協議が長引く(もしくは放置する)ことで申告期限に間に合わなくなる可能性もあります。

また遺産分割協議を成立させるには相続人全員の合意が必要です。相続発生時は協力的だった共同相続人が時間の経過とともに心変わりするケースは十分に考えられますし、病気(特に高齢の場合は認知症)やケガをしたり、死亡してしまうリスクもあります。音信不通になってしまうこともあるでしょう。

遺産分割協議は先延ばしにするほど難易度が高くなるため、可能な限り速やかに行うべきでしょう。

 

長期間放置した相続手続を開始するには

すでに相続手続を長期間放棄していても、そのまま放棄し続ければリスクやデメリットがさらに増えてしまいます。「どうしていいかわからない」場合は弁護士などの専門家に相談して、手続きを速やかに開始・完了するようにしましょう。

関連記事『遺産相続は誰に頼むのがベター?各専門家の業務範囲や費用・注意点についても解説

 

まとめ

相続手続には手間や時間がかかるため、つい先延ばしにしたり、放置してしまうこともあるでしょう。しかし相続手続をしないとさまざまなリスクが発生します。一人では対応できないなら専門家を上手に活用して、スムーズな相続手続を目指すようにしてください。

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