遺産相続手続に期限はある?期限を過ぎた場合の対策についても解説

遺産相続に含まれる各種手続には、期限があるものと期限のないものがあります。特に期限付きの手続きは、期間内に手続きを行わないとペナルティが発生するものもあるため注意が必要です。この記事ではそれぞれの手続きの期限について説明します。

 

遺産相続手続の「期限」について

遺産相続はひとつの手続きではありません。相続財産の内容や相続人の数、遺言書の有無などによってさまざまな手続きを行う必要があります。

 

時効との違い

遺産相続の期限と聞いて「時効」という言葉を連想する方もいることでしょう。どちらも時間や期間に関するものですが、期限が何かの「締切」なのに対し、時効は

  • 一定の状態が継続した場合に権利を取得・喪失する効果
  • 一定期間が経過して効力がなくなること

を指す言葉です。遺産相続に関係する「権利」の中には時効が設定されているものもありますが、各種「手続き」に設定されているのは時効ではなく、あくまで申告や申請など「期限」の方です。

関連記事:『遺産相続の時効とは?権利や手続きの時効について解説

 

期限が過ぎた場合のペナルティ

手続きの期限が過ぎた場合に法律上のペナルティがあるかどうかは、手続きの種類によります。ただし法律上のペナルティがなくても、たとえば受け取れるはずの相続財産が目減りしたり、借金を相続することになったり、余計に税金を払うことになったり…といったデメリットが発生することも少なくありません。

必要な手続きは後回しにせず、期限内のできるだけ早いタイミングで行うようにしましょう。

 

期限付きの遺産相続手続

ここからは遺産相続に含まれる各種手続について説明していきます。まずは「期限が設定されている手続き」からです。

 

相続放棄

相続放棄とは、遺産相続に関する一切の権利を放棄する手続きです。たとえば現金や不動産といったプラスの相続財産だけでなく、借金などマイナスの相続財産の方が多い場合に、借金を抱え込んでしまうことを避ける目的で使われるのが一般的です。

相続放棄の期限について、民法915条第1項でこのように書かれています。

相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

相続放棄をしたいと思う法定相続人は、申請期間は相続の開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所に申し立てが必要です(やむをえない事情が認められる場合は裁判所の判断で延長されます)。

なおマイナスの財産があるかどうか知るためには遺産の調査も必要なため、相続放棄の可能性がある方は手続き全体を急ぐ必要があるでしょう。

関連記事:『遺産相続を放棄した場合に謝礼は必要?謝礼金(ハンコ代)の相場は?

 

相続税申告

相続税申告とは、相続財産が控除額を超える場合、もしくは配偶者控除などの制度を利用する場合に行う相続税(国税)の申告と納付の手続きです。

相続税申告の期限については、相続税法第27条(一部抜粋)で次のように書かれています。

相続又は遺贈により財産を取得した者及び当該被相続人に係る相続時精算課税適用者は、当該被相続人からこれらの事由により財産を取得したすべての者に係る相続税の課税価格の合計額がその遺産に係る基礎控除額を超える場合において、その者に係る相続税の課税価格に係る第15条から第19条まで、第19条の3から第20条の2まで及び第21条の14から第21条の18までの規定による相続税額があるときは、その相続の開始があつたことを知つた日の翌日から10月以内に課税価格、相続税額その他財務省令で定める事項を記載した申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。


読みにくい条文ですが、ここに書かれている通り相続税の申告・納付期限は「相続開始を知った日の翌日から10か月」です。

なお相続税には「時効」もあります(国税通則第70条より一部抜粋)。

次の各号に掲げる更正決定等は、当該各号に定める期限又は日から5年を経過した日以後においては、することができない。
1 更正又は決定 その更正又は決定に係る国税の法定申告期限
2 課税標準申告書の提出を要する国税に係る賦課決定 当該申告書の提出期限
3 課税標準申告書の提出を要しない賦課課税方式による国税に係る賦課決定 その納税義務の成立の日


この条文によると「申告期限から5年」、つまり5年10か月で相続税の納入義務(国の徴収権)は時効消滅します。ただし意図的に財産を隠していた場合などの時効は7年10か月です。ちなみに時効が成立する前に無申告や申告漏れが見つかった場合は無申告加算税や重加算税の対象となり、悪質なケースでは刑事罰を受けることもあります。

 

準確定申告

準確定申告とは、亡くなった方(被相続人)が行うはずだった確定申告を相続人が代わって行う手続きです。手続きの期限については所得税法第124条に書かれています(一部抜粋)。

確定所得申告の規定による申告書を提出すべき居住者がその年の翌年1月1日から当該申告書の提出期限までの間に当該申告書を提出しないで死亡した場合には、その相続人は、次項の規定による申告書を提出する場合を除き、政令で定めるところにより、その相続の開始があつたことを知つた日の翌日から4月を経過した日の前日までに、税務署長に対し、当該申告書を提出しなければならない。


準確定申告の期限は、「相続開始を知った日の翌日から4か月以内」です。準確定申告書の提出が遅れると、延滞税と無申告加算税の対象となります。ただしもともと被相続人に確定申告の必要がなかった場合は、準確定申告を行う必要はありません。

ちなみに確定相続をする必要があるのは以下のケースです。

  • 事業を営んでいる場合
  • 一定以上の副収入がある場合
  • 給与額が2,000万円以上の場合
  • 確定申告をすることで還付金を受けられる場合

 

遺留分侵害額請求

遺留分侵害額請求とは、実際に相続した遺産が法定相続分に満たない場合に、差額を追加で支払うよう請求することです。民法第1048条には、遺留分侵害額請求の期限(遺留分侵害額請求権の時効)について次のように規定しています。

遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする。


この通り、「相続の開始を知った日から1年」で遺留分侵害額請求権は消滅します。ただし被相続人の死亡を知らなかった場合は「相続の開始から10年」です。

当然ですが、法定相続分より多く遺産を受け取った相続人や法定相続人でないのに遺贈を受けた人は、最長10年間は他の法定相続人から請求を受ける可能性があります。

 

相続税の還付請求

相続税の還付請求とは相続税を払い過ぎた際に、相続税額の更正を求める手続きです。この期限については国税通則第23条に書かれています(一部抜粋)。

納税申告書を提出した者は、次の各号のいずれかに該当する場合には、当該申告書に係る国税の法定申告期限から五年以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等につき更正をすべき旨の請求をすることができる。
1 当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従つていなかつたこと又は当該計算に誤りがあつたことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額(当該税額に関し更正があつた場合には、当該更正後の税額)が過大であるとき。


相続税の還付請求は「申告期限から5年以内」に行う必要があります。ただし以下に挙げる条件に当てはまる場合など、一部の条件下では期限が「4か月」に短縮されます(相続税法第32条より)。

  • 申告後に当該財産の分割が行われ、相続財産の額が変わった場合
  • 認知や相続人の排除、およびその取り消しによって相続人の数が変わった場合
  • 遺留分侵害額請求が行われ、相続財産の額が額が変わった場合
  • 遺贈を定めた遺言書が見つかった、あるいは遺贈の放棄があった場合、など

 

埋葬料・葬祭費の請求

埋葬料や葬祭費というのは、国民健康保険や高貴高齢者医療制度の加入者が亡くなった場合に支払われるお金です。

健康保険の加入者が亡くなった場合、埋葬(葬祭)を行った人に5万円が支給されます。申請の期限は「葬祭を行った日の翌日から2年以内」です。なお社会保険にも同様の制度があります。

後期高齢者医療制度に加入している人が亡くなった場合の葬祭費は7万円です。こちらもやはり「総裁を行った日の翌日から2年以内」に手続きが必要です。

 

生命保険の請求

亡くなった方生命保険に加入していた場合、死亡保険の受取手続も必要です。申請期限は保険会社にかかわらず「被保険者が亡くなった日から3年間」です。ただし、かんぽ生命の場合は「5年」となっています。

 

期限のない遺産相続手続

ここでは期限の定められてない相続手続を紹介します。ただしいずれも遺産相続の重要な手続になるため、早めに行うに越したことはありません。

 

遺産分割協議

遺産分割協議とは、被相続人が遺言書を残していなかった場合や遺言書で遺産の分配方法について指示されていなかった場合などに、相続人同士で遺産相続の内容を話し合うことです。遺産分割協議は原則として、すべての法定相続人が参加しなければなりません。

遺産分割協議では相続財産の具体的な分配方法が話し合われます。参加者全員の合意がとれたら「遺産分割協議書」にまとめ、全員が署名・捺印(実印)をします。遺産分割協議書は銀行口座の払戻手続に必要となるほか、相続登記の際も全員の印鑑証明書と一緒に提出します。

関連記事:『他の相続人に遺産相続手続の「お礼」は必要?お礼の相場やお礼状の例文も紹介

 

預貯金の名義変更手続

被相続人名義の銀行口座がある場合、被相続人の死亡を銀行が把握した時点でいったん凍結されます。凍結は遺産分割協議書の完成後に解除してもらえるため、その後に口座名義の変更や預金の払戻を行います。

株式などの有価証券の名義変更や自動車などの名義変更も、できるだけ早めに済ませておいた方が良いでしょう。

 

相続登記はこれから期限が発生

注意が必要なのは「相続登記」です。相続登記とは不動産を相続した際の名義変更手続のことで、現時点(2021年)で申請期限はありません。

しかし多くの不動産が大昔に亡くなった方の名義で長年放置されており、結果として現在の権利者(相続人)が不明な土地や建物が急増していることから、民法・不動産登記法の改正によって今後は「取得を知った日から3年以内」という申請期限が設けられることになります。これに違反した場合は10万円以下の過料というペナルティ付きです。

ちなみに国会で改正法が成立したのは2021年4月21日(公布は28日)で、少なくとも公布から2年以内、つまり2023年4月28日までには新制度が施行されるため、注意しておきましょう。

 

遺書がある場合の注意点

被相続人の死亡後に「自宅や金庫などで」遺言書が見つかった場合は、すぐに家庭裁判所に提出して「検認」という手続きを受ける必要があります。なお家庭裁判所に持ち込むまで、遺言書を開封してはいけません(公正証書遺言を除く)。検認前の遺言書を開封した場合、5万円以下の過料というペナルティを受ける可能性があります。

なお表に「公正証書遺言」と書かれている遺言については、公証人役場というところで公的な手順で作られているため、家庭裁判所の検認は必要ありません。

 

まとめ

遺産相続手続には、期限があるもの・ないもの・時効があるものなど、さまざまな手続きが関係しています。もちろん期限のあるなしに関係なく、どの手続きも重要なものです。法律で定められたペナルティを含め、おもわぬ不利益を受けないためにも、できる限りスピーディーに手続きをするよう心がけるようにしましょう。

 

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