成年後見人による相続手続き代行とは?選任の流れと注意点についても解説

相続人の中に認知症や知的障害を持つ方がいる場合、本人に代わって成年後見人が相続手続きを行います。この記事では成年後見制度と相続手続きの関係に加え、成年後見人の選任の流れと成年後見人を活用する際の注意点について解説します。

 

相続にも活用される「成年後見人」

相続は「財産を受け継ぐ」重要な手続きです。しかし相続人が重度の認知症を患っていたり、知的障害や精神障害で十分な判断能力を持たない場合、他の相続人や利害関係者の言いなりになってしまい、不利益を被ることがあります。これを防ぐために用意されたのが「成年後見人」です。

 

成年後見人と成年後見制度

成年後見人は「成年後見制度」の一部です。成年後見制度は認知症や知的障害・精神障害などの影響で判断能力が低下した人の保護を目的としており、大きく「法定成年後見」と「任意後見」の2つに分けられます。

法定成年後見はさらに「成年後見」「保佐」「補助」の3類型に分かれており、サポートを受ける人の判断能力の程度によって使い分けられます。それぞれの違いは次の通りです。

  成年後見 補佐 補助
サポートする人 成年後見人 保佐人 補助人
本人の呼称 成年被後見人 被保佐人 被補助人
本人の状態 判断能力を常に欠く状態 判断能力が著しく不十分 判断能力が著しく不十分
サポートの範囲 原則としてすべての法律行為 本人が必要とする法律行為 本人が必要とする法律行為
同意権 なし あり(民法13条1項の法律行為) あり(民法13条1項の法律行為から選択)
取消権 あり あり(保佐人の同意なく行った行為のみ) あり(補助人の同意なく行った行為のみ)


上の表にある通り、成年後見は本人(製人被後見人)が「判断能力を常に欠く状態」にあります。このため成年後見人は本人の同意を得ずに「原則としてすべての法律行為」を行い、さらに本人が行った法律行為は、本人や成年後見人が後から取り消すことができます。

ちなみに「民法13条1項の法律行為」は以下の通りです。

  • 元本領収及びその利用
  • 借財または保証
  • 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為
  • 訴訟行為
  • 贈与契約、和解契約、仲裁契約
  • 相続の承認、放棄、または遺産分割協議
  • 贈与・遺贈の拒否、負担付の贈与・遺贈の受諾
  • 建物等の新築、改築、増築及び大修繕
  • 長期の賃貸借契約

成年後見人になれる人

成年後見人を選任するのは家庭裁判所です。あらかじめ親族などを「候補者」として届け出ることも可能ですが、候補者を認めるかどうかは家庭裁判所の判断になります。実際には弁護士や司法書士、社会福祉士といった「専門家」を指定されるケースも多いようです。

 

成年後見人と任意後見人の違い

先ほど、成年後見制度は大きく「法定成年後見」と「任意後見」の2つに分けられると説明しました。このうち後者の任意後見とは、家庭裁判所による選任ではなく「公正証書による契約」で後見人(任意後見人)を指定する制度です。

基本的には本人の判断能力がしっかりしているうちに任意後見人を選んで契約を結び、本人の判断能力が低下してから財産管理を委任するという形になります(本人の判断能力があるうちから財産管理を委任する契約も可能です)。ただし任意後見人は成年後見人と違い、取消権がないため注意が必要です。

あらかじめ「自分が選んだ人」に法律行為の代理や財産管理を任せたいという場合は、成年後見人より任意後見人を利用する方が確実といえるでしょう。

 

成年後見人が共同相続人の場合

成年後見人として親族、特に「親」や「兄弟」が選任されている場合は要注意です。これらの人は相続発生時に共同相続人になる可能性があり、もしそうなると「成年後見人が本人を代理して、自分(成年後見人)と遺産分割協議をする」というおかしな状況になってしまうからです。

これは「利益相反行為」といい、相続手続きでは認められません。もし成年後見人が共同相続人になってしまった場合は、家庭裁判所が選任する「成年後見監督人」が成年後見人に代わって本人の相続手続きを代行します。

 

相続で成年後見人が代行する手続き

成年後見人は原則としてすべての法律行為を代行します。もう少し具体的にいうと、成年後見人は「日常の買い物」を除き、本人の財産にかかわる行為すべてを本人に代わって行います。当然ながら、これには相続手続きも含まれます。

 

遺産分割協議

相続手続きで最も重要な法律行為は「遺産分割協議」です。遺産分割協議はすべての相続人が参加しなければなりません。また協議が成立するには全員の同意が必要です。もし相続人の中に判断能力が不十分な人がいる場合、(正常な意思に基づく話し合いや同意ができないため)成年後見人を選任しない限り遺産分割協議は成立しません。

なお成年後見人が遺産分割協議に参加する場合、あくまで成年被後見人の利益になるよう行動する必要があります。正当な理由もないのに、他の相続人より相続分が少ない遺産分割案に同意することはできません。最低でも法定相続分と同等かそれ以上になるよう話し合いを進めるべきです。

ちなみに「法定相続分」通りに遺産を分ける場合は遺産分割協議を行わなくても相続手続きを進められますが、それでも金融機関の手続書類に署名や押印をしたり、相続税申告書に押印するなどの行為は成年後見人が行う必要があります。

 

相続放棄

プラスの財産よりマイナスの財産の方が多い場合、「成年被後見人の利益」のために相続放棄を決断することもあります。

ただし相続放棄が認められると相続人の権利がすべて失われるため、慎重な判断が必要です。相続放棄ありきではなく、徹底的な財産調査を行った上で相続放棄の決断をすべきでしょう。

関連記事『知的障害者の相続放棄は可能?成年後見制度や家族信託制度についても解説

 

財産の処分

相続した財産の処分も成年後見人の役目です。これには相続登記(不動産の名義変更)や現金化なども含まれます。いうまでもなく、どのような「処分」も成年被後見人にとって利益になることが重要です。

 

成年後見人の選任の流れ

成年後見人は自動的には選任されません。まずは本人や親族が家庭裁判所に申立てを行い、選任手続きを進めてもらう必要があります。

 

申立人

成年後見人の選任を申立てることができるのは、主に以下の人たちです。

  • 本人(成年被後見人)
  • 本人の配偶者
  • 4親等以内の親族
  • 市町村長
  • 検察官

 

流れ① 医師の診断書を入手

成年後見は「判断能力を常に欠く状態」にある人をサポートする制度です。ですからまず、本当に「成年後見制度の利用が必要か」を判断するために医師の診断書を入手しなければなりません。

診断を下すことができる医師は、かかりつけ医や神経内科・精神科・心療内科・脳外科などさまざまです。診断書を出してもらえるかどうか相談してみるとよいでしょう。

なお、診断書の書式は家庭裁判所が用意しています。家庭裁判所によって様式が異なる場合があるため、必ず申立て先の家庭裁判所から取り寄せてください。

 

流れ② 必要書類を揃える

次に必要書類を揃えます。こちらも家庭裁判所によって異なる可能性があるため注意してください。ここでは参考までに、「横浜家庭裁判所(本庁)」の必要書類を紹介します。

  • 申立書
  • 申立事情説明書
  • 後見人等候補者事情説明書
  • 本人の戸籍謄本(戸籍の全部事項証明書)
  • 本人の住民票(注:マイナンバーの記載のないもの)
  • 後見人等候補者の住民票(注:マイナンバーの記載のないもの)
  • 本人の登記されていないことの証明書
  • 診断書及び鑑定についての照会書
  • 本人情報シートのコピー
  • 本人の健康状態に関する資料(例:介護保険認定書,療育手帳(愛の手帳)などのコピー)
  • 財産目録および収支予定表(本人の財産に関するもの)
  • 相続財産目録(被相続人の財産に関するもの)
  • 財産や収支を裏付ける資料(不動産登記事項証明書,預貯金通帳のコピー,各種資料のコピー)
  • 親族の意見書
  • 親族関係図

申立てに必要な費用は「収入印紙」と「郵便切手」で収めます。

  • 800円分の収入印紙(申立費用)
  • 2,600円分の収入印紙(登記嘱託費用)
  • 500円切手×3枚
  • 84円切手×10枚
  • 50円切手×20枚
  • 10円切手×10枚
  • 5円切手×4枚
  • 1円切手×10枚

参考:横浜家庭裁判所『後見(保佐,補助)開始の 申立ての手引』

 

流れ③ 家庭裁判所に書類を提出

必要書類が集まったら家庭裁判所に提出します。ただし家庭裁判所ならどこでもよいというわけではなく、原則として「本人の住所地(住民票上の住所)を管轄する家庭裁判所」が申立て先です。

申立てから選任までの期間は提出のタイミングによって多少異なりますが、おおむね2〜3か月程度を見ておけばよいでしょう。

 

成年後見人制度の注意点

成年後見人制度の利用には、いくつか注意すべき点があります。

 

報酬の支払いが必要なことも

弁護士や司法書士などの専門家が成年後見人になる場合、それらの専門家に支払う「報酬」が必要です。もちろん家族や親族などが成年後見人ならこうした費用は発生しないのですが、すでに説明した通り家族・親族を成年後見人候補として届け出ても、家庭裁判所がそれを認めてくれるとは限りません。

また法定後見人に選ばれた人が被相続人と生計が同一の場合や、保有財産の額が大きい場合などは後見人等を監督する「成年後見監督人」が選任され、その人(専門家)にも報酬が必要です。

報酬の額はケースごとに異なりますが、目安としては年間25万円〜70万円程度の定期報酬と、特別な業務(不動産売却など)ごとに数十万円の特別報酬が発生します。

 

相続完了後も解任できない

いったん成年後見制度を利用すると、原則として本人が亡くなるまで続きます。つまり「相続手続きの間だけ代理してもらう」ことはできません。成年後見人の選任は慎重に行うべきでしょう(基本的には家庭裁判所に任せてしまう方が安心です)。

 

まとめ

認知症や知的障害・精神障害を抱える方が相続人になった場合、成年後見人の利用が不可欠です。ただし成年後見人の選任手続きには時間がかかるため、もし「必要がある」とわかっているなら、ある程度早めに準備しておくことをお勧めします。成年後見人が必要かどうか迷っている場合、あるいは選任手続きでわからないことがある場合は、行政書士などの専門家に相談してみてください。

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