公正証書とはどのようなもの?相続手続との関係について詳しく解説

生活やビジネスの場でしばしば活用される「公正証書」は、私たちにとって身近な公文書のひとつです。この記事では相続手続きと関係のある公正証書、公正証書遺言について解説していきます。

 

公正証書は「公文書」

公正証書と聞いて、すぐになんのことかピンと来る人は少ないかもしれません。実際に日常生活の中で「公正証書を作成したことがある」という人はもっと少ないでしょう。ではまず、公正証書とはどういうものか説明します。

 

公証人が作成する

公正証書を作成するのは「公証人」と呼ばれる公務員です。公証人は「公証人法」という法律に基づき、裁判官や検事、法務事務官などを長く務めた人の中から法務大臣が任免します。公証人の数は全国で約500人です。

 

公証役場で作成する

公証人がいる役場は「公証役場」です。公正証書は原則として公証役場で作成されるため、利用する(作成してもらう)場合は公証役場に出向く必要があります。

公証役場はすべての都道府県に1か所以上配置され、中には10以上の公証人役場が置かれている都道府県も少なくありません。公証役場の数は全国で約300か所です。

参考:公証役場一覧 | 日本公証人連合会

 

証明力・執行力・安全性

公正証書は国の役人が作る公文書なので、民間人が作る文書(私文書)より強力な「証明力」があります。また誰かに何かを義務付ける内容であれば、それを強制的に実現する「執行力」もあります。

さらに公正証書の原本は公証役場で保管されるため、紛失や盗難、改ざんのおそれがほとんどありません。「安全性」の高さも公正証書の特徴です。

 

公正証書の種類

公正証書には大きく分けて3つの種類があります。

 

①契約に関する公正証書

不動産売買や賃貸借、お金の借り入れなどの「契約」の際に作られる公正証書です。他にも「土地の境界線についての合意」や「フランチャイズ契約」などに利用されるケースもあります。基本的には法令違反や公序良俗に反するものでない限り、どのような契約でも公正証書にできます。

 

②単独行為に関する公正証書

一人の当事者が「意思表示」する場合に作られる公正証書です。たとえば、後ほど説明する「公正証書遺言」はこの典型例といえるでしょう。

 

③事実実験公正証書

権利義務や法律上の地位に関係する「事実」を公証人が実際に確認し、その結果を記録する公正証書です。たとえば土地の境界線の現状を確認する、銀行の貸し金庫の中に保管されているものを確認する、発明品の存在を確認するなど、さまざまな目的のために利用されます。

 

相続に活用される公正証書

公正証書にはさまざまな用途がありますが、ここでは相続手続きに関係のある公正証書を紹介します。

 

公正証書遺言

「公正証書遺言」は公正証書の形で作成される遺言書のことです。

よく利用される遺言書(形式)としては「自筆証書遺言」が挙げられますが、自筆証書遺言よりも公正証書遺言の方が法的信頼性が高い(トラブルになりにくい)とされています。

公正証書遺言のメリットは主に以下の3点です。

①法律的に整った遺言になる
遺言書の作成は法律(民法)の規定通りに行わなければなりません。しかし遺言書を作成する人のすべてが法律を理解しているわけではありません。このため自分で遺言書を作成する自筆証書遺言では法律の要件を満たさず無効とされるケースもあります。一方、公正証書遺言は法律に精通した公証人が作成するため、法律的に整った遺言を残すことができます。

②偽造や隠匿のおそれがない
公正証書遺言の原本は公証役場で保管されます。このため自筆証書遺言や秘密証書遺言のように、相続発生後に一部の相続人によって内容を改ざんされたり隠されたり(あるいは破棄されたり)する心配はありません(自筆証書遺言についても、2020年7月から法務局で遺言書を預かる「自筆証書遺言保管制度」が開始されました)。

③検認が不要
自筆証書遺言は相続発生後に「家庭裁判所の検認(遺言書の存在や内容を確認する手続き)」が必要です。一方、公正証書遺言は検認の必要がないため手間が省けます。なお自筆証書遺言の場合も、自筆証書遺言保管制度を利用すれば検認は必要ありません。

 

任意後見契約

公正証書は「任意後見契約」にも利用されます。

任意後見とは成年後見制度の一種です。具体的には認知症などを患っている人が将来の病状悪化に備え、信頼できる人(任意後見員)を選んで将来の看護や法律行為の代理、財産管理の委任についての契約を結びます。

任意後見契約の成立条件は、公正証書で契約書を作成することです。

関連記事『成年後見人による相続手続き代行とは?選任の流れと注意点についても解説

 

公正証書遺言の作成方法

公正証書の作成方法は公正証書の種類によって異なります。ここでは公正証書遺言を作成する際の流れについて紹介します。

 

遺言書の原案を作成

公証役場に行く前に、まずは遺言をする人が遺言書の原案を作成します。内容は主に「財産に関する事項(相続配分など)」、「身分に関する事項(子供の認知など)」「遺言執行者の指定」です。

また遺言書には「付言事項」といって、法的効力はもたないものの「家族への思いや感謝、遺言内容についての説明」などを書くこともできます。

 

必要書類を準備

次に必要書類を準備します。具体的な内容は公証役場によって異なる場合がありますが、一般的には以下の通りです。

  • 印鑑登録証明書(発行から3か月以内)※印鑑登録をしていない場合は運転免許証やパスポート
  • 遺言者の戸籍謄本
  • 遺言者と相続人の続柄が分かる戸籍謄本
  • 相続人以外の人に財産を譲る場合は相手の住民票の写し
  • 不動産の登記簿謄本(登記事項証明書)、固定資産税納税通知書または固定資産評価証明書
  • 預貯金の通帳のコピー
  • 証人の名前、住所、生年月日、職業を書いたメモ(あらかじめ依頼している場合)
  • 遺言執行者の名前、住所、生年月日、職業を書いたメモ(あらかじめ依頼している場合)

 

証人の依頼

公正証書遺言を作成するには「2名の証人」が必要です。基本的には知人や友人に依頼して構いませんが、以下の欠格要件に当てはまる人は証人になれません。

  • 未成年者
  • 推定相続人、受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
  • 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人

なお行政書士などの専門家に依頼して証人を揃えてもらうこともできます。その場合は報酬の支払い(一人あたり1万円程度)が必要です。

 

公証人と事前打合せ

実際に遺言書を作成する前に、遺言書の原案を公証人にチェックしてもらうための事前打合せが必要です。まずは最寄りの公証役場に連絡して面談予約をとり、指定された日時に遺言書の原案と必要書類一式を持参します(健康上の問題がある場合は公証人に出向いてもらうことも可能です)。

事前打合せは1回で終わることが多いものの、場合によっては2回以上の打合せが必要になることもあります。なお最後の打合せ時に、遺言作成の日時を決めます。

 

公証役場で遺言を作成

遺言書の原案と必要書類一式、証人2名と一緒に公証役場に出向き、遺言を作成します。当日のおおまかな流れは以下の通りです。

  • 遺言者の口述を公証人が筆記
       ↓
  • 筆記した内容を遺言者と証人の前で読み上げる
       ↓
  • 遺言者と証人が署名押印する
       ↓
  • 公証人が署名押印し、民法969条の方式に従い真正に作成された旨を付記する
       ↓
  • 公正証書遺言の原本、正本、謄本を作成し、正本と謄本を遺言者に渡す(原本は公証役場で保管)
       ↓
  • 公正証書遺言の作成費用(公証人手数料)を支払う

公正証書遺言の作成費用は、以下の①〜⑤を合計したものです。ほとんどのケースでは3~8万円程度が相場といわれています。

①公証人手数料一覧

目的財産の価格 手数料
〜100万円 5,000円
100万円超〜200万円 7,000円
200万円超~500万円 11,000円
500万円超~1,000万円 17,000円
1,000万円超~3,000万円 23,000円
3,000万円超~5,000万円 29,000円
5,000万円超~1億円 43,000円
1億円超〜3億円 43,000円に、5,000万円超過ごとに13,000円を加算
3億円超〜10億円 95,000円に、5,000万円超過ごとに11,000円を加算
10億円超〜 249,000円に、5,000万円超過ごとに8,000円を加算


②遺言加算
目的財産が1億円までは、基本手数料に11,000円を加算

③枚数加算
公正証書遺言の枚数が4枚を超えたときは、超えた枚数に応じて1枚あたり250円を加算

④交付手数料
公正証書遺言(正本・副本)の枚数に応じて1枚あたり250円を加算

⑤出張加算など
公証人が遺言者の指定する場所に出張する場合、以下の手数料を加算
病床執務加算:基本手数料の10分の5
日当:往復4時間までは1万円、4時間を超える場合は2万円
交通費:実費

参考:手数料 | 日本公証人連合会

 

公正証書遺言を作る際の注意

公正証書遺言はトラブルになりにくいと説明しましたが、それでも遺言の内容や遺言書の作成状況によっては「もめる」可能性もあります。

関連記事『公正証書遺言があっても相続がもめることはある?もめないための遺言書作成方法とは

 

遺留分をめぐるトラブル

もっとも起こりやすいのが「遺留分」をめぐるトラブルです。

遺留分は相続人に認められた「最低限の相続分」で、たとえ遺言書でもその割合を変更したり無効にすることはできません。このため遺言の内容が一部の相続人の遺留分を侵害している場合、侵害された相続人が他の相続人に対し、遺留分に相当する金銭の支払いを要求する可能性があります。

関連記事『遺留分侵害請求権とはどのような権利?請求方法や請求を受けた場合の対応について

 

遺言能力をめぐるトラブル

「遺言能力」の有無をめぐるトラブルも考えられます。遺言能力とは遺言の内容や影響の範囲を理解できる能力のことです。原則として15歳以上で通常の判断能力や思考能力を持っている人なら遺言能力を持っていると考えられますが、重度の認知症を発症している人や、知的障害・精神障害の程度が重い場合は遺言能力が認められません。

遺言能力がなければ、公正証書遺言を作成しても無効になります。遺言能力があるかどうかを正確に判断することは難しく、公証人が気付かずに公正証書遺言を作成してしまう可能性もあるため注意が必要です。

関連記事『認知症でも遺言書の作成は可能?判断の目安と事前対策についても解説

 

証人をめぐるトラブル

事由に相当する人を証人にしていた場合や、証人が席を外している間に公証人が証書の読み上げをしてしまった場合なども、公正証書遺言は無効です(後者はあまり考えられませんが、可能性としてはゼロではありません)。

まとめ

公正証書は相続手続きでも活用できる、重要な制度です。特に遺言を作成する方は、トラブルの原因に十分注意しながら公正証書遺言を作成することをお勧めします。なお遺言の原案作成や公証人(公証役場)との交渉が難しい場合は、行政書士などの専門家にぜひご相談ください。

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