株を相続した場合、株主としての権利を行使するにせよ現金化するにせよ「名義変更」が必要です。この記事では株式の名義変更について、上場株式・非上場株式ごとに手続きの流れと注意点を解説していきます。
株の相続と名義変更の関係
被相続人が保有していた株式は、そのままでは相続人が権利を行使したり現金化することはできません。まずは相続発生直後の時点から、相続財産に含まれる株式の取り扱いを見ていきましょう。
相続発生直後は相続人全員の共有
相続発生後の株の取り扱いは、遺言の有無によって異なります。有効な遺言書で株の相続人が指定されている場合はその通りに相続が行われますが、遺言書がない場合、株は相続人全員の「共有」となるのが原則です。
いったん共有となった株は、遺産分割協議によって相続人が決まります。複数の株がある場合は一人の相続人がまとめて相続することもできますし、いくつかに分割して複数の相続人で分けることも可能です。いずれにしても遺産分割協議で相続人を決定し、名義を書き換えるまで株式の譲渡などはできません。
名義変更は遺産分割後に行う
株の名義変更は、遺産分割協議によって相続人が決まった後に行います。具体的な手順は後ほど説明しますが、上場株式の場合は証券会社や信託銀行の窓口で、非上場株式の場合は株式を発行している会社と直接やりとりをして名義を書き換えるのが一般的です。
現金化にも名義変更が必要
株を現金化する場合、原則として遺産分割協議と名義変更が必要です(名義を書き換えた株式は名義人の所有財産なので、そのまま保有するのも売却するのも本人の自由です)。
ただし相続人全員が株の現金化を希望する場合、遺産分割協議の前に株式を一括売却することもできます。もっともこの時点では株は相続人全員の共有なので、まずは代表となる相続人を決めて、他の相続人が委任状で株式売却を委任することが必要です。売却で得た現金は、その後の遺産分割協議で分配されます。
株の調査方法
遺産分割協議で株の相続人を決めるには、事前に「株の存在」と「その内容」を調査しておかなければなりません。なお株には上場株式と非上場株式があり、それぞれ調査方法が異なります。
上場株式の調査
上場株式は2009年1月より電子株式となり、ペーパーレス化されています。電子株式は証券会社や信託銀行などの専用口座で管理されるため、基本的に株の調査はそれらの窓口に問い合わせるだけです。
ただし「どの証券会社」「どの信託銀行」で株を監理しているか不明な場合は、被相続人が保管している書類や被相続人宛に届く郵便物などから手がかりを探します。取引残高報告書は取引があれば3か月に1度、取引きがなくても残高があれば1年に1度送付されるため、過去1年以内の書類を集中的に探すことで取引先が判明するかもしれません。
口座がわかったら「取引残高証明書」の発行を依頼します。取引残高証明書には株の銘柄や数量、相続時の時価が記載されるため、相続発生時の正確な株価を把握できます。
仮に被相続人の口座について何の手がかりもつかめない場合は、「証券保管振替機構(ほふり)」に照会して口座の開設先を調べます。
非上場株式の調査
非上場株式も原則としてペーパーレスです(2004年以降)。ただし非上場会社の株は発行会社との直接取り引きになるため、被相続人が保管している書類や被相続人宛の書類から株式を発行した会社の手がかりを探しましょう。
なお2004年より前に発行された「紙の株券」が流通しているケースもあるため。自宅の金庫や銀行の貸し金庫なども調査が必要です(紛失している場合は株券喪失の手続きが必要です)。
非上場株式の存在がわかったら、発行会社に残高証明書を請求します。
相続した株の名義変更
それでは相続した株を名義変更する手順について、上場株式と非上場株式のケースごとに説明していきましょう。
上場株式の名義変更
上場株式の名義変更を行う場合、被相続人の証券口座を管理する証券会社・信託銀行に相続人の証券口座を開設したうえで、指定された「株券名義書換依頼書」を提出します。この際、まずは相続人の証券口座に被相続人の証券口座から株式が移管され、次いで株式自体の名義が書き換えられます。
株券名義書換依頼書を提出する際は、以下の書類も必要です。
遺言書がある場合
- 遺言書謄本
- 家庭裁判所の検認証明書(公正証書遺言の場合は不要)
- 被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
- 株を相続する人の印鑑証明書
- 株を相続する人の戸籍謄本
遺産分割協議書がある場合
- 遺産分割協議書
- 被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
- 相続人全員の戸籍謄本
家庭裁判所の調停や審判を経ている場合
- 調停調書の謄本、審判書の謄本
- 被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
- 株を相続する人の印鑑証明書
- 株を相続する人の戸籍謄本
なお2009年以前に発行された電子化されていない株式が残っている場合、通常の証券口座ではなく信託銀行などに開設される「特別口座」で株式が管理されている可能性があります。特別口座の株式は譲渡や売買ができないため、相続手続きについて証券保管振替機構(ほふり)に連絡する必要があります。
非上場株式の名義変更
非上場株式の名義変更では、まず株式の発行会社に連絡して必要書類や名義変更の手順を確認します。ただし会社によっては株主名簿をきちんと管理していないケースもあるため、不安な場合や不明点がある場合は弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
譲渡制限付株式の名義変更
非上場会社によっては自社株の売却を制限していることも少なくありません。この場合「相続」や「遺産分割」は問題なく行なえますが、相続した株の現金化は困難です。
株の現金化を検討している場合、売却を認めてもらえるかどうか、あるいは株式を会社に買い取ってもらえるかどうかを相談する必要があります。
株の相続税評価額について
遺産分割協議を行い、相続税の申告を行うためには株の「価格」を評価しなければなりません。しかし株の価格は日々変動します。ではどのようにして(どのタイミングで)株の相続税評価額を決めれば良いのでしょうか。
上場株式
上場株式の場合、原則として「相続開始日の終値(相続開始日が取引所の営業日でない場合は最も近い日の終値、また3連休の中日であれば前後の取引価格の平均)」が評価額です。
ただし、以下の3つの株価のうち最も低いものを選ぶこともできます。
①相続開始月の終値の平均
②相続開始日前月の終値の平均
③相続開始日前々月の終値の平均
①〜③では月ごとの全営業日の終値を調べる必要があるため、終値の一覧が表示された残高証明書の活用が便利です。
非上場株式
非上場株式の評価額の計算方法は発行会社によって変わります。経営者一族の相続など、株の相続に合わせて経営権も取得する場合は以下のいずれかで計算を行います。
- 類似業種比準方式
業種が類似する上場会社の株価を基準にした評価方法で、複数企業の株式の平均値などを基準に計算します。主に大会社などが採用する評価方法です。
- 純資産価額方式
会社を清算すると仮定した場合の、株主1人あたりの分配額を基準に計算します。主に小会社が採用する評価方法です。
- 併用方式
上記の2つを併用する計算方法で、主に中会社で採用されています。
これに対し、経営権の取得を伴わない株の相続で使われる計算方式は「配当還元方式」です。配当還元方式では株式の配当額を基準とします。
まとめ
株の相続では名義変更が欠かせません。上場株式の名義変更はそれほど難しくありませんが、相続の状況に合わせて用意する書類が変わる点に注意してください。また非上場株式の名義変更では複雑な評価計算が必要になるため、専門家に相談することをお勧めします。