遺産相続は、多くの場合「何人もの相続人」が関わる手続です。中には相続が発生してから初めて親族の存在を知ったり、長年疎遠だった相続人と連絡をとらなければならないケースもあります。今回は、あまり親しくない他の相続人との接し方について説明します。
遺産相続手続には他の相続人の協力が必要
被相続人が亡くなると、まず最初に「相続人の確定」を行います。このとき、仮に親族がほとんどいない、あるいは自分の知っているや身近な人ばかりという人も注意が必要です。相続人の調査は戸籍謄本を収集して行いますが、調査の結果「今まで知らなかった親族がいた」というケースも少なくないからです。
今まで存在を知らなかった親族や交渉のなかった親族でも、法定相続人である限り法律上の相続権があります。このため遺産相続手続に加わってもらうなど、何らかの協力を仰がなくてはなりません。
遺産分割協議のケース
遺産相続手続きで一般的なのは、「遺産分割協議」で相続人それぞれの相続分を決めることです。この遺産分割協議には、原則として相続人全員の参加が必要です。遺産分割協議の成立には、相続人すべての同意と遺産分割協議書への署名捺印が欠かせません。
仮に「初めて存在を知った親族」や長年の間「疎遠だった親族」がいたとしても、それらの人たちにも必ず声をかけて遺産分割協議に参加してもらいます。
相続放棄のケース
相続人が自分の意思で遺産相続を希望しない(遺産分割協議に参加しない)場合は「相続放棄」という手続きが必要です。相続放棄とは相続に関する一切の権利を放棄することで、預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなくマイナスの財産、つまり借金なども放棄の対象となります。逆に相続放棄しない場合は借金も相続対象です。
相続放棄の手続きには「相続放棄の申述書」や放棄する人の戸籍謄本などが必要なため、放棄する人が直接家庭裁判所に出向くか、もしくは家庭裁判所に書類一式を送付しなければなりません。
なお相続放棄には「代償分割」という方法もあります。これについては「ハンコ代」と一緒に説明します。
他の相続人に遺産相続手続の協力を仰ぐには
ここでまで法律上の手続きについて説明しましたが、現実に「他の相続人の協力を得る」ことは簡単ではありません。特に「いままで存在を知らなかった親族」の中には、現在どこに住んでいるのかわからない人もいるでしょうし、何らかの事情で疎遠になっていた親族の中には、事情を説明しても非協力的な人がいるかもしれません。
それでも遺産相続手続には相続人全員の協力が必要です。戸籍謄本で相続人をすべて確定したら、以下のようなステップでコンタクトをとっていきます。
Step1 相続発生について連絡する
特に初対面や見ず知らずの親族の場合、最初は書面で連絡するのがベターです。相手にとっても相続発生や他の相続人の存在は寝耳に水のことが多いので、書面でていねいに事情を説明していきます。
そのうえで遺産分割協議への参加(場合によっては相続放棄についても)を案内し、相手の意向を確認するとともに、必要な協力を失礼のない形で依頼します。
Step2 「ハンコ代」を渡す
相手から何らかの意向を伝えられたら「ハンコ代」を渡します。ハンコ代は法律上の制度ではありませんが、一般には遺産分割協議書に署名や捺印をしてくれる人へのお礼、あるいは相続放棄手続へのお礼といった意味合いがあります。
またハンコ代を授受することで、協議の内容や遺産の放棄に異議がないことの証明になります。
Step3 お礼状を書く
最後に、遺産相続手続が終了した段階で、報告とお礼の手紙を送ります。
相続発生の連絡で書くべきこと
最初に送る「相続発生について連絡」では、必ず以下の内容を伝えなければなりません。
- 簡単な自己紹介
- 相続が発生したこと(亡くなった被相続人の名前や相手との関係)
- 相続財産の内訳(動産、不動産などに加え、借金などのマイナス財産も含む)
- 相手の法定相続分(法律で決められた相続の割合)
- 遺産分割協議の予定(相手の都合も合わせて伺う)
- 遺産分割の提案(これはケースバイケースです。相手に相談のないまま分割案を提示することが失礼にあたる場合は書いてはいけません)
- 返答の期限
このほかにも遺産相続手続に関係することがあれば、相手に失礼のない限り記載してかまいません。
相手への連絡は、確実に相手に届くよう、あるいは届いたかどうかを確認するために「書留」などで送ります。
ハンコ代の相場はどれくらい?
ハンコ代には相場がありません。あくまで相手との関係や、相続財産の規模などに応じて個別に決定するものです。一般には10〜30万円程度というケースが多いですが、中には法定相続分の半分近くを渡す場合もあります。ただしハンコ代が110万円を超えると贈与税がかかるため注意してください、
■代償分割について
代償分割というのは、自分以外の相続人(特定の相続人でも、他の相続人全員でも)に金銭を支払う代わりに相続を放棄してもらうという遺産分割方法です。
一般には分割しにくい資産(不動産など)があるときに、特定の人が不動産をまるごと相続する代わりに、他の相続人に法定相続分に相当する金銭を支払うといった使い方をします。
代償分割で支払う金銭はハンコ代と考えることもできますが、この場合は110万円を超えても贈与税がかからない(そもそも贈与ではない)うえ、家庭裁判所での相続放棄手続も不要です。
お礼状には何を書けばいい?
遺産相続手続が終了したあとのお礼状は、シンプルなもので構いません。ていねいな言葉で「報告」と「お礼」を伝えるようにします。
お礼状の例文
背景
○○様。この度は(被相続者)の件で大変お世話になりました。
相続に関する手続きがすべて無事に完了いたしましたこと、謹んでご報告させていただきます。
この度はまことに有難うございました。
有難
相続手続をスムーズに進めるコツ
他の相続人との交渉は一筋縄ではいきません。
他の相続人の存在や所在を確認する、
疎遠になっている親族に連絡をとる、
遺産分割や相続放棄について同意を得る、
署名や捺印をしてもらう、
など、どれも状況次第では非常な難題です。
このような場合に手続をスムーズに進めるには、とにかく誠意を尽くすこと、ていねいに対応することが重要です。それでも厳しいようなら、弁護士や行政書士といった専門家に相談してアドバイスを受けたり、一部の手続を代理してもらうのも良いでしょう。
まとめ
遺産相続手続を進めていくうえで、他の相続人との関わりは避けられません。真摯な姿勢で必要な協力を仰ぎ、協力してくれた親族にはしっかりお礼をすることが大切です。必要に応じて専門家のアドバイスも活用しながら、スムーズな相続手続を目指しましょう。
行政書士・富樫眞一事務所は横浜市を中心に遺産相続や遺言書作成などを行っております。
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