父の遺産は母が独り占めできる?予想されるトラブルへの対処方法について解説

遺産相続で発生するトラブルに「特定の相続人が遺産を独り占めしてしまう」というものがあります。特に被相続人の配偶者と子が相続人になっている場合、配偶者がすべての財産を一括して相続しようとするケースは少なくありません。この記事ではこうしたケースの発生パターンと、トラブルへの対象方法について解説していきます。

 

父の遺産を母が独り占めできるケースとは

一家の父親が亡くなった場合に、「母親と子」が相続人になることがあります。この場合の法定相続分は、母親(配偶者)が二分の一、子が残りの二分の一(複数の子がいる場合は均等に分割)です。

しかしこれはあくまで法律上の原則であって、実際にこの通りに遺産分割されるとは限りません。場合によっては母親がすべての遺産を独り占めしてしまうこともあるのです。

なぜ、どのようにして「遺産の独占」が可能になるのでしょうか?

 

遺言書が存在する場合

考えられる理由のひとつは「遺言書による指定」です。たとえば遺言書の中に「すべての財産を妻に相続させる」という文言があれば、基本的にはその通りに遺産相続が行われます。遺言書は被相続人が自由な意思で作成できるため、こうした指定は決して違法なものではありません。

もっともこのような遺言内容について他の相続人(子)が不公平に感じることもあるでしょう。この場合に子が遺留分(最低限受け取れる相続分)を主張すれば、母(妻)には遺留分に相当する金銭の支払義務が発生します。

 

相続人間で合意した場合

被相続人の妻(他の相続人の母)が遺産を独り占めする別のケースは、遺産分割協議で相続人全員の同意がある場合です。

通常、相続税の基礎控除額は【3,000万円+600万円×相続人の数】ですが、被相続人の配偶者については【1億6,000万円または全遺産の半分】まで非課税になります。このため相続税の軽減を目的として、このような極端な相続配分にすることも珍しくありません。

また節税目的でなくても、子供たち同士が面倒な相続配分で悩むことがないよう、「とりあえず」母親が一括で相続するというケースもあります。

 

強引に独り占めするパターン

上記の2例は合法的な独り占めですが、これらとは別に、強引な手法で遺産が独り占めされてしまう可能性もゼロではありません。

たとえば被相続人の妻が遺産分割協議に応じないまま夫名義の不動産に居座ったり、夫名義の預金や他の財産を勝手に処分してしまうような場合です。

 

強引な独り占めを防ぐ方法

遺産相続の発生後に遺産が強引に独り占めされそうな場合、他の相続人はできるだけ素早く行動を起こす必要があります。

 

銀行口座をすぐに凍結する

特に急いで行うべきなのは、被相続人名義の銀行口座の凍結です。銀行口座は名義人が死亡すると凍結され、引き出しも入金もできなくなります。ただし役所と銀行は基本的に情報を共有していないため、役所に死亡届を出しても銀行に(名義人の)死亡を通知するまでは口座は凍結されません。

口座が凍結されなければ、通帳と印鑑、もしくはキャッシュカードを持っている人は口座から自由にお金を引き出すことが可能です。これを放置するとすべての現金が特定の相続人に勝手に処分されてしまうため注意が必要でしょう。

もし他の相続人による使い込みが疑われるなら、入出金履歴を取り寄せて確認することも重要です。

 

速やかに遺言書の内容を実行する

遺言書そのものに有効期限はありませんが、もし遺言書の存在が確認できているなら、できるだけ早く内容を実行するようにしましょう。

ただし遺言書は相続人が勝手に開封することはできません。まずは原則として、家庭裁判所による検認を受ける必要があります(公正証書による遺、法務局で保管されている自筆証書遺言を除く)。

 

強引に独り占めされた場合の対処方法

とはいえ、それでも「父の遺産を母が強引に独り占めする(母の遺産を父が独り占めする)」ケースは起こり得ます。このような場合、他の相続人は以下のような方法で自分達の相続分を取り返すことが可能です。

 

遺言書を確認する

まずは遺言書の確認をしましょう。遺言書が存在しているかどうかはもちろん、仮に遺言書があっても、(特に遺言書の内容が「妻に遺産をすべて相続させる」というようなものである場合は)その遺言書が有効なものかを確認する必要があります。

民法第968条第1項

自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。


遺言書が「自筆証書遺言」の場合、それが被相続人本人の手書きで、作成した日付が書かれており、自筆のサインと押印がなければなりません。これらの要件を満たしていない自筆証書遺言は無効です(2019年1月13日の民法改正により、財産目録のみ自筆ではなくワープロ等で作成しても良いことになりました)。

なお内容の異なる複数の遺言書が発見された場合、一番新しい日付のものが有効となります。

仮に存在するすべての遺言書が無効なら、遺言書による遺産分割は認められません。遺言書がない場合と同様に遺産分割協議による話し合いが必要です。

 

相続人全員で話し合う

遺言書が無効な場合や存在しない場合、遺産を独り占めした相続人が素直に話し合いに応じるかどうかはともかくとして、まずは話し合いを呼びかけます。

話し合いの場を設けることができたら相続人全員で話し合いを行い、独占されていた分を返還してもらうなり、あるいは母による独占を他の相続人が追認するなりして「遺産分割協議書」を作成します。もちろん遺産分割協議書の作成には、相続人すべての同意が必要です。

 

家庭裁判所に調停を申し立てる

話し合いが決裂してしまった場合や、そもそも遺産を独占している相続人が話し合いに応じない場合は家庭裁判所の出番です。

ただし家庭裁判所は自動的には動いてくれません。相続人の一部が「遺産分割調停」を申し立てることで第三者である調停委員が間に入り、相続人同士の話し合いがまとまるようサポートしてくれます。

それでも話がまとまらない場合は「遺産分割審判」となり、家庭裁判所が遺産の分割割合を決定します。ちなみに家庭裁判所が特定の相続人に遺産の独占を認めることはまず考えられません。

また遺産の勝手な使い込みが発覚した場合は、家庭裁判所での調停や審判とは別に、地方裁判所に不当利得返還請求や損害賠償請求を訴えることもできます。

 

遺留分侵害額請求を行う

相続人が最低限受け取れるはずの遺産ももらえない場合、遺産を独占している相続人に「遺留分侵害額請求」を行えます。

遺留分侵害額請求は「遺留分を金銭で支払うよう要求する」ことで、通常は相続人同士の話し合いによって行われます(その際、内容証明郵便を送るのが一般的です)。ただし相手が話し合いや請求に応じない場合は家庭裁判所の調停手続を利用できます。

なお遺留分侵害額請求の権利は、

①相続の開始と遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知った時から1年
②(①の内容を知らなかった場合)相続開始の時から10年

のいずれかで消滅します。もし請求を行う場合は速やかに行動しましょう。

関連記事:『遺産相続手続に期限はある?期限を過ぎた場合の対策についても解説

 

配偶者控除の利用は二次相続に注意

相続税の配偶者控除【1億6,000万円または全遺産の半分】を利用するため、相続人全員が同意して母が遺産を独占する場合も注意が必要です。

配偶者への相続は「一時相続」といいますが、一時相続をした配偶者(この場合は妻)が亡くなると子供たちへの「二次相続」が発生します。当然ながら二次相続では配偶者控除が適用されません。相続税の控除額は通常の【3,000万円+600万円×相続人の数】で計算しなければならないため、場合によっては一時相続で均等に相続した場合よりも相続税のトータルが高額になってしまうこともあるのです。

配偶者控除の利用は、将来の二次相続まで見越したうえで計画的に行う必要があるでしょう。もし不安な点があれば、あらかじめ相続に強い税理士に相談することもオススメします。

関連記事:『遺産相続は誰に頼むのがベター?各専門家の業務範囲や費用・注意点についても解説

 

まとめ

父の遺産を母が独り占めするケースは、意外と多いのが現状です。その中には父(被相続人)の遺言によるものや相続人全員が同意しているものもあれば、母の独断によるものもあるでしょう。もし同意のない遺産の独り占めなど「相続をめぐるトラブル」が予想されるなら、あらかじめ専門家に相談するなどして未然に防ぐことも重要です。相続人みんなが納得できるような、スムーズな相続を目指していきましょう。

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