他の相続人に相続放棄をお願いする場合、依頼した相手に謝礼を渡すことがあります。この記事では相続放棄の依頼に謝礼が必要かどうか、そして謝礼を渡す場合の相場や注意すべき点について説明していきます。
相続放棄には本人の手続が必要
相続放棄をお願いする場合に、必ず謝礼を渡さないといけないという法律はありません。ですが実際のところ、謝礼を渡すのは「ほぼ必須」といえます。なぜなら相続放棄は、他の法定相続人が本来持っている法律上の権利(法定相続分)を本人に放棄させる手続だからです。
そもそも相続放棄とは?
相続放棄とは、相続人(法定相続人)が遺産分割協議に参加する権利を放棄する意思表示のことです。相続人が家庭裁判所で所定の手続をすると、その後はプラスの財産・マイナスの財産(借金など)を含む一切の相続権を失います。
なお、相続放棄の手続の流れは以下の通りです。
手順①財産調査
まず最初に被相続人の財産調査をします。現金や預金の残高や不動産の存在をしっかり調べて、正確な相続財産を確定します。この際、特に大切なのは「マイナスの相続財産(借金)がないかどうかを確認する」ことです。
もし借金の残高がプラスの財産を上回っているなら、相続放棄をするかどうかの需要な判断材料になります。
手順②書類の準備
相続放棄には以下の「基本書類」と「申請者ごとの書類」、そして申請手数料として、収入印紙代800円が必要です。
【基本書類】
- 相続放棄申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 戸籍謄本
【被相続人の配偶者が追加で用意する書類】
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
【被相続人の子供が追加で用意する書類】
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
【被相続人の孫(代襲相続人)が追加で用意する書類】
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
- 本来の相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
【被相続人の直系尊属(親・祖父母など)が追加で用意する書類】
- 被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
- 被相続人の子供で死亡者がいる場合、出生時から死亡時までの戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
- 被相続人の直系尊属に死亡者がいる場合、死亡の記載のある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
【被相続人の兄弟姉妹が追加で用意する書類】
- 被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
- 被相続人の子供で死亡者がいる場合、出生時から死亡時までの戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
- 被相続人の直系尊属に死亡者がいる場合、死亡の記載のある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
【被相続人のおい・めいが追加で用意する書類】
- 被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
- 被相続人の子供で死亡者がいる場合、出生時から死亡時までの戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
- 被相続人の直系尊属に死亡者がいる場合、死亡の記載のある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
- 本来の相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
手順③家庭裁判所への手続
①家庭裁判所に申し立てる
被相続人の住民票住所を管轄する家庭裁判所に「相続の放棄の申述」を行います。手続をおこなう期限は、被相続人の死亡から原則3か月以内です。なお未成年が申し立てを行う場合、親などの法定代理人が申し立てを行います。
②照会書に回答する
申し立てが受理されると、しばらくして家庭裁判所から「相続放棄照会書」が届きます。照会書に回答を記入したら家庭裁判所に送り返します。
③相続放棄申述受理通知書が交付される
相続放棄が許可されると、家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が交付されます。これで手続きは完了です。
相続放棄のスケジュール
財産調査や書類準備にどれくらいの時間がかかるかにもよりますが、相続放棄の流れは一般的に2週間〜1か月程度といわれています。
相続放棄に協力してもらう手順
相続放棄を他の相続人にお願いする手続について説明します。
相続発生について連絡&相続放棄を依頼
被相続人が死亡した時点で相続の発生について連絡します。特に相手との面識がない場合、失礼がないよう書面でていねいに連絡するのが良いでしょう。相続放棄を依頼する場合も、ていねいに事情を説明したうえでお願いします。
謝礼(ハンコ代)を渡す
相続放棄を承諾してもらったら、相手に謝礼(いわゆる「ハンコ代」)を渡します。これは相手へのお礼という意味合いが大きいですが、受け取った相手にとっては「意義がない」という意思表示にもなります。
お礼状を書く
遺産相続の手続がすべて終わったら、相手にお礼状を書きます。内容はシンプルなもので構いませんが、相手に失礼のないよう丁寧に書きましょう。
関連記事:『他の相続人に遺産相続手続の「お礼」は必要?お礼の相場やお礼状の例文も紹介』
相続放棄の謝礼はどれくらいが適当?
相続放棄の謝礼は法律上の義務ではないため、金額に決まりはありません。ただし一般的な相場は存在します。
一般的な相場とは
相続放棄の謝礼として多いのは「10〜30万円程度」というケースです。中には法定相続分の半分近くを渡すケースもありますが、具体的な金額よりも相手に気持ちよく納得してもらえるかどうかが重要です。
なお、謝礼が110万円を超えると贈与税がかかるため注意してください。
贈与に認定されないよう注意
贈与税の対象にならないための手段として「代償分割」という手段があります。
代償分割というのは、自分以外の相続人(特定の相続人でも、他の相続人全員でも)に金銭を支払う代わりに相続を放棄してもらうという遺産分割方法です。
一般には分割しにくい資産(不動産など)があるときに、特定の人が不動産をまるごと相続する代わりに、他の相続人に法定相続分に相当する金銭を支払うといった使い方をします。
代償分割で支払う金銭も一種のハンコ代といえますが、この場合は110万円を超えても贈与税がかからない(そもそも贈与ではない)うえ、家庭裁判所での相続放棄手続も不要です。
相続放棄手続をせずに相続を放棄してもらう方法
上で説明した代償分割は、相続放棄手続をせずに相続を放棄してもらう方法のひとつです。ただし代償分割をするには、相続人全員で話し合いをして「遺産分割協議書」を作成しなければなりません(代償分割をする旨とその金額を遺産分割協議書に記載します)。
遺産分割協議をする場合も、まずは相続発生時点で他の相続人への事前の連絡が必要です。その際は書面で以下の内容を伝えると良いでしょう。
・簡単な自己紹介
・相続が発生したこと(亡くなった被相続人の名前や相手との関係)
・相続財産の内訳(動産、不動産などに加え、借金などのマイナス財産も含む)
・相手の法定相続分(法律で決められた相続の割合)
・遺産分割協議の予定(相手の都合も合わせて伺う)
・遺産分割の提案(必要に応じて)
・返答の期限
まとめ
他の相続人に遺産相続の放棄を依頼する場合、相手に最大限の礼儀を尽くさなくてはなりません。それには「謝礼金(ハンコ代)」を渡すことも含まれます。何らかの事情で相続放棄をする(依頼する)のであれば、十分に気を付けて手続を進めてください。
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