遺産相続の時効とは?権利や手続きの時効について解説

遺産相続には時間がかかります。しかし相続に関係するさまざまな権利や手続きには期限が設定されているものも多く、いつまでも相続手続を引き伸ばすことはできません。この記事では遺産相続に関連する期限や時効について説明していきます。

 

遺産相続の手続きには時効がある?

遺産相続の時効について説明する前に、まずは「時効」という言葉について確認しましょう。おおまかに説明すると、時効には

  • 一定の状態が継続した場合に権利を取得・喪失する効果
  • 一定期間が経過して効力がなくなること

という2つの意味があります。遺産相続にはさまざまな権利や手続きが関係しており、(厳密にいうと)時効があるのは「権利」の方です。

一方「手続き」には締切や申請期限はありますが、基本的に時効とは関係ありません。ただし多くの方は申請期限などが過ぎてしまうことも時効と表現することがあるため、この記事では便宜上、遺産相続手続の締切や申告期限も含めて「時効」という表現を使っていきます。

 

遺産相続に関連する時効

遺産相続に関係する権利と手続きには、さまざまなものがあります。

 

遺産分割請求権

遺産分割請求権というのは、法定相続人に与えられた「遺産分割協議を請求する権利」のことです。この遺産分割協議については、民法第907条第1項・第2項で次のように書かれています。

1 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。

2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。

ここにある通り相続人は遺産の分割を受ける権利があり、その分割内容は(原則として)遺言書で指定されるか、相続人同士で話し合う遺産分割協議で決めます。もし何らかの事情で遺産分割協議が開かれない場合、それぞれの相続人は「遺産分割請求権」を行使して遺産分割協議を開くよう要求できますし、場合によっては遺産分割について家庭裁判所に訴えることもできます。

なお遺産分割請求権に時効はありません。ただしいったん遺産分割協議が成立(相続人全員が遺産分割協議書に署名・捺印)すると権利は消滅します。

 

遺留分侵害額請求権

遺留分侵害額請求権とは、遺言書による指定などで「本来もらえるはず(法定相続分)の遺産をもらえなかった」法定相続人が、法定相続分との差額を取り戻す…つまり追加で相続財産を支払うよう請求する権利です。民法第1046条にはこのように書かれています。

遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

この遺留分侵害額請求権の時効は次の通りです(民法第1048条)。

遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする。

この通り、相続の開始(被相続人の死亡)を知った日から1年で遺留分侵害額請求権は消滅します。ただし被相続人の死亡を知らなかった場合は、相続の開始から10年です。

なお法定相続分より多く遺産を受け取った相続人や、そもそも法定相続人でないのに遺言書などの指定で遺産を受け取った人は、最長10年間は他の法定相続人から請求を受ける可能性があることを覚えておきましょう。

相続回復請求権

相続回復請求権とは本当は相続人ではない人、たとえば相続排除や相続欠格などで相続権を失った元・相続人(不真正相続人/表見相続人)が遺産を相続してしまった際に、権利を侵害された法定相続人が遺産を取り戻す(権利を回復する)ための請求権です。民法884条ではこの権利について、次のように書かれています。

相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から20年を経過したときも、同様とする。


この条文に書かれている通り、相続回復請求権の時効は権利の侵害を知った日から5年です。ただし権利の侵害を知らないまま(相続の開始から)20年が経過すると、相続回復請求権は消滅します。

 

相続放棄

相続放棄とは、法定相続人としての権利(一切の遺産を相続する権利)を放棄する「手続き」です。民法915条第1項にはこのように書かれています。

相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

 

原則として、法定相続人は被相続人の現金や不動産といった「プラスの財産」だけでなく、借金などの「マイナスの財産」も相続します。当然、プラスの財産よりマイナスの財産の方が多い場合は負債を抱え込むことになるわけです。

相続放棄の手続きは、こうした事態を避けるために利用されます。相続放棄をする場合は家庭裁判所に申し立てを行いますが、申請期間は相続の開始を知った日から3か月以内です(やむをえない事情が認められる場合は裁判所の判断で延長されます)。

関連記事:『遺産相続を放棄した場合に謝礼は必要?謝礼金(ハンコ代)の相場は?

 

相続登記

相続登記とは、不動産を相続した際の名義変更手続のことです。現在(2021年3年)の時点で相続登記に申請期限はありません。

しかし多くの不動産が大昔に亡くなった方の名義で長年放置されており、結果として現在の権利者(相続人)が不明な土地や建物が急増していることから、民法・不動産登記法の改正によって今後は「取得を知った日から3年以内」という申請期限が設けられることになります。これに違反した場合は10万円以下の過料というペナルティ付きです。

ちなみに国会で改正法が成立したのは2021年4月21日(公布は28日)で、少なくとも公布から2年以内、つまり2023年4月28日までには新制度が施行されます。

 

相続税申告

相続税申告とは、相続財産が控除額を超える場合、もしくは配偶者控除などの制度を利用する場合に行う相続税(国税)の申告・納付手続です。相続税法第27条(一部抜粋)には次のように書かれています。

相続又は遺贈により財産を取得した者及び当該被相続人に係る相続時精算課税適用者は、当該被相続人からこれらの事由により財産を取得したすべての者に係る相続税の課税価格の合計額がその遺産に係る基礎控除額を超える場合において、その者に係る相続税の課税価格に係る第15条から第19条まで、第19条の3から第20条の2まで及び第21条の14から第21条の18までの規定による相続税額があるときは、その相続の開始があつたことを知つた日の翌日から10月以内に課税価格、相続税額その他財務省令で定める事項を記載した申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。


読みにくい条文ですが、ここに書かれている通り相続税の申告・納付期限は「相続開始を知った日の翌日から10か月」です。

なお相続税には期限とは別に、時効もあります(国税通則第70条より一部抜粋)。

次の各号に掲げる更正決定等は、当該各号に定める期限又は日から5年を経過した日以後においては、することができない。
1 更正又は決定 その更正又は決定に係る国税の法定申告期限
2 課税標準申告書の提出を要する国税に係る賦課決定 当該申告書の提出期限
3 課税標準申告書の提出を要しない賦課課税方式による国税に係る賦課決定 その納税義務の成立の日


こちらもわかりにくい条文ですが、まとめると「申告期限から5年」、つまり5年10か月で相続税を納める義務(正確には国の徴収権)は時効消滅します。ただし意図的に財産を隠していた場合などの時効は7年10か月です。ちなみに時効が成立する前に無申告や申告漏れが見つかった場合は無申告加算税や重加算税の対象となり、悪質なケースでは刑事罰を受けることもあります。

 

生前贈与税申告

生前贈与税申告とは、被相続人から生前に譲り受けた「年間110万円以上の財産」にかかる贈与税の申告手続です。相続税法第28条(一部抜粋)には、申告期限ついて次のように規定しています。

贈与により財産を取得した者は、その年分の贈与税の課税価格に係る第21条の5、第21条の7及び第21条の8の規定による贈与税額があるとき、又は当該財産が第21条の9第3項の規定の適用を受けるものであるときは、その年の翌年2月1日から3月15日までに、課税価格、贈与税額その他財務省令で定める事項を記載した申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。


生前贈与税の時効は次の通りです(相続税法第36条・一部抜粋)。

税務署長は、贈与税について、国税通則法第70条(国税の更正、決定等の期間制限)の規定にかかわらず、次の各号に掲げる更正若しくは決定又は賦課決定を当該各号に定める期限又は日から6年を経過する日まで、することができる。


つまり生前贈与税の時効は、贈与を受けた翌年の3月15日から5年間(悪質なケースでは7年間)になります。

 

遺産の時効取得

共同相続人の一人が遺産(不動産)を占有し続けた場合に、その不動産を時効取得するケースもあります。たとえば「2世代以上にわたり相続登記がされていない不動産」に住んでいる人が、その不動産を自分の親から相続したと思い込んでいる(しかし実際には祖父や曽祖父などの名義で、他の共同相続人が存在している)場合などです。

この場合の時効期間は10年、もしくは20年です。詳しくは『遺産相続と時効取得の関係を解説!相続不動産は時効取得できる?できない?』をお読みください。

 

まとめ

遺産相続には、さまざまな時効や申請期限が関係しています。うっかり期限を間違えると貴重な権利を失ったり、厳しいペナルティを受けることもあるため十分注意が必要です。もし遺産相続に関する権利や手続きの内容、あるいは時効や期限のことで不安があるなら、行政書士などの専門家にぜひご相談ください!

 

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