銀行口座を持っている人が亡くなると、その口座は「凍結」されます。いったん凍結された口座は、遺産分割協議が終了するまで払い戻しができません。この記事では銀行で行う相続手続の期限と方法、注意点について解説します。
銀行預金は相続財産の一部
社会人として生活している人であれば、少なくとも1つか2つは銀行などの金融機関(以下、銀行)に口座を持っているものです。当然ながら、その口座に入っているお金はその人の財産で、本人が亡くなった後は遺産の一部になります。
このため相続が発生したら、相続人は「どの銀行の口座にいくら入っているか」を調査して、だれがそれを相続するか遺産分割協議で決めなくてはなりません。
銀行預金の相続手続に期限はあるか
被相続人の口座があることが判明した場合、まずはその銀行に相続が発生したことを(名義人が死亡したことを)伝え、で相続手続を開始します。
手続きの期限は存在しない
銀行での相続手続に法律上の「期限」はありません。相続発生後すぐに始めても構いませんし、数か月後に始めても(手続上は)大丈夫です。ただ、いずれやらなければいけないことなら後回しにする意味はありません。相続手続は可能な限り早く始めた方が良いでしょう。
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早めに手続きすべき理由
「後回しにする意味がない」以外にも、できるだけ早く相続手続をすべき理由があります。
- 消滅時効がある
銀行預金の消滅時効は5年で完成します(信用金庫・労働金庫・信用共同組合は10年)。このため口座を放置したまま5年ないし10年が経過すると、法律上は預金債権の消滅を主張される可能性があります。もっとも実務上は銀行が消滅時効を主張するケースはほぼないと考えられますが、それでも相続手続を早めに行うに越したことはないでしょう。
なお消滅時効は主張されなくても、銀行によっては数年以上放置されている口座に未利用口座管理手数料をかけているため注意が必要です。また長期間放置することで休眠口座扱いになり、その後の手続が非常に面倒になります。
- 相続税申告に期限がある
銀行の相続手続を急いだ方が良い最大の理由が、相続税申告期間との関係です。相続税の申告と納付は「相続を知った日から10か月以内」に行わなければなりません。当然ながら、相続税を正確に計算するには銀行口座の中身も遺産分割しておく必要があります。
申告期間を超過すると延滞税や無申告加算税というペナルティが発生するため、相続税が発生しそうなら(相続財産の金額が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を超える場合)、必ず相続税の申告期間内に銀行での相続手続を終わらせるようにしましょう。
- 相続放棄に期限(熟慮期間)がある
相続放棄をする場合、相続の開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所で相続放棄の申述をしなければなりません。相続放棄をすべきかどうかを正しく判断するためにも、銀行での相続手続を早めに行い遺産の総額を確定しておくべきです。
- 相続が複雑化する
相続手続を何年も放置しているうちに、共同相続人の誰かが亡くなってしまうケースもあります。そうなると亡くなった共同相続人が本来相続したはずの財産を共同相続人の法定相続人が相続することになり、手続が一気に複雑化します。また共同相続人が認知症になった場合も、成年後見人や特別代理人の選任などで余計な手続が増えてしまいます。銀行を含むすべての相続手続は、相続人同士の事情が変わってしまう前に済ませるべきでしょう。
銀行預金の相続手続の流れ
銀行預金の相続手続は銀行(銀行以外の金融機関も含む)によって多少異なりますが、おおむね以下のような流れで行います。
①口座の把握
まずは大前提として、どの銀行に被相続人の口座があるかを調べます。一緒に生活していた相続人ならある程度事情を知っている可能性がありますが、それでも複数の銀行に口座を持っていたり家族にも知らせていない口座がある可能性もあるため、遺品に含まれる通帳やキャッシュカード、被相続人宛ての郵便物、銀行のノベルティグッズなどを手がかりに徹底的な調査が必要です。
②銀行への連絡
口座のある銀行がわかったら、名義人が死亡したこと(相続が始まったこと)を連絡して相続手続を開始します。連絡方法は支店の窓口に申し出る、電話で連絡する、WEBフォームに記入など、銀行ごとに指定されているため注意してください。
なお銀行に連絡した時点で被相続人の口座は凍結されます。原則として相続手続が終了するまで払い戻しができなくなるため、もし公共料金の支払いやクレジットカードの引き落とし口座になっている場合はあらかじめ支払い方法や支払い口座の変更手続を済ませておく必要があります。
③必要書類の準備と提出
銀行から相続手続に必要な書類を案内されるので、それに合わせて書類収集をします。収集する書類は、主に戸籍謄本や印鑑証明書などです。「発行から6か月」のように有効期間が設定されていることもあるため案内をしっかり読み、必要であれば問い合わせをして確認してください。市町村役場などに行く時間がない場合、行政書士などの専門家に依頼して収集してもらうこともできます。
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必要書類が揃ったら、銀行の窓口に直接、もしくは郵送などで提出します(銀行によって異なります)。
④払い戻し
書類に不備がなければ1週間〜1か月ほどで払い戻しが行われ、相続手続が完了します。払い戻しは申請者が指定した口座に行われるのが一般的ですが、銀行によっては払戻証書(一種の小切手)での支払いや、口座名義の書き換えを選べることもあります。
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相続手続中に預金を引き出す場合
原則として、遺産分割協議が終了するまで被相続人の銀行口座に手を付けることはできません。もし勝手に生活費などを引き出した場合、その行為が「単純承認」とみなされ、それ以降は相続放棄ができなくなります。また他の相続人とのトラブルに発展する危険もあります。
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葬儀代としての利用は可能
とはいえ、相続財産の中から「葬儀費用」を引き出すことは可能です。相続財産に手をつけないに越したことはありませんが、どうしても必要な場合は実際に発生する費用を上限に使っても構いません。なお後からトラブルにならないよう、葬儀費用にかかったお金の明細(領収書やメモなど)はきちんと記録しておくようにします。
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口座凍結後の仮払い制度
口座凍結後に葬儀代を引き出したい場合、「相続預金の仮払い制度」を利用すれば預金の一部を引き出せます。仮払いを受けられる額の上限は「相続開始時の預金額 × 1/3 × 申請した相続人の法定相続分」か「150万円」の多い方です。
相続預金の仮払いを受けるための書類は銀行によって異なるため、もしも制度の利用を考えているなら事前に問い合わせすることをお勧めします。
まとめ
銀行預金の相続手続に明確な期限はありませんが、他の相続手続との関係を考えると、できるだけ早く手続をした方が無難です。手続きの方法は銀行によって多少異なるため、この記事だけでなく各銀行の公式サイトなどを参考にしたり、最寄りの銀行窓口に相談しながら準備を進めるようにしましょう。
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