労働者の生活を支えることを目的に運営される「ろうきん(労働金庫)」。銀行とは目的も運営形態も異なるため、相続の手続きをどのように進めれば良いか迷っている方もいることでしょう。この記事では中央労働金庫のケースを例に、ろうきんの相続手続の流れや必要な書類について解説します。
ろうきん(中央労働金庫)とは
中央労働金庫は、首都圏とその近隣エリア(東京都・栃木県・群馬県・茨城県・埼玉県・千葉県・神奈川県・山梨県)に営業拠点を置くろうきんです。
そもそもろうきんとは「労働者の経済的地位の向上」を目的に労働組合や生協が資金を出し合って設立・運営される組織で、銀行のような営利目的の企業ではありません。しかし取り扱う商品やサービス内容は銀行とほとんど変わらないため、首都圏で暮らしている方の中には「中央労働金庫に口座を開いている」という方も大勢います。
ろうきんの相続手続の流れ
ろうきんに口座を持っている方が亡くなると、その口座は凍結され、お金の出し入れができなくなります。これは他の金融機関(銀行など)でも同じですが、細かな手続きは金融機関によって多少異なるため注意が必要です。
ここでは被相続人の死亡から口座の凍結、そして相続人への払い戻しまで、「ろうきんの相続手続の流れ」について説明していきます。
①ろうきんの店舗に連絡
まず最初に、口座名義人の死亡(相続の発生)をろうきんに連絡します。連絡び方法は、電話か来店のどちらでも構いません。
連絡先は名義人の取引店です。ただし複数の店舗に口座を持っているケースもあるため、念のため確認してもらうと良いでしょう。
連絡の際には、今後の取引の内容や相続のケースに応じて具体的な必要書類などの説明があります。また連絡の時点で口座は凍結され、相続手続の完了まで自由な入出金ができなくなります。
②ろうきんから書類を郵送
連絡時に指定した住所に、ろうきんから「相続手続のご案内」と「相続届」が送付されます。
③必要書類の準備と提出
ろうきんから送付された「相続届」に記入し、その他の必要書類を収集します。なお必要書類は相続のケースによって多少異なるため注意が必要です(後ほど『用意する書類について』の見出しで説明します)。
必要な書類が準備できたら、名義人の取引店に来店、もしくは郵送で提出します(遠方で来店が難しい場合は最寄りのろうきん店舗でも受け付けてくれます)。
④書類確認と相続手続
提出された書類をろうきん側が確認し、その後、相続手続(代表相続人の口座に振り込み、もしくは口座の名義変更)が行われます。
⑤ろうきんから計算書を郵送
相続手続終了後にろうきんから代表相続人に「計算書」などが郵送され、すべての手続が終了です。
手続きの所要日数
相続発生の連絡から手続きの終了(上記①〜⑤)までの期間は、おおむね1〜2週間程度です。ただし提出した書類に不備がある場合は修正や再提出のやりとりが発生するため、トータル1か月程度になることもあります。
用意する書類について
ろうきんの相続手続に必要な書類は、遺産分割協議(遺産分割協議書)の有無や遺言書の有無、遺言執行者・遺産整理受任者の有無など細かな条件ごとに異なります。
ここでは、
①相続人間の協議による場合
②遺産分割協議書を作成する場合
③遺裁判所の遺産分割審判による場合
④公正証書遺言書による場合
⑤自筆証書遺言書による場合
⑥遺言執行者や遺産整理受任者がいる場合
⑦親権者・未成年者がともに相続人の場合の追加書類
⑧成年後見人制度を利用している相続人がいる場合の追加書類
の8パターンに分けて紹介します。なお遺言書や遺言執行者については『遺言が見つかったらどうすればいい?執行の手順と遺言執行者への報酬について』を参考にしてください。
①相続人間の協議による場合
相続人同士で遺産配分の話し合い(遺産分割協議)が行われているか、被相続人名義の口座の取り扱いについて同意が得られている場合は以下の書類を用意します。
【被相続人の戸籍謄本(除籍謄本)】
被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(除籍謄本)です。ただし相続人に関する記載がない場合(相続人がすべて確認できない場合)、相続人の戸籍謄本も必要となります。
【相続人全員の印鑑証明書】
原則として発行後6か月以内のものを提出します。
②遺産分割協議書を作成する場合
遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成している場合は以下の書類を用意します。
【被相続人の戸籍謄本(除籍謄本)】
被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(除籍謄本)です。ただし相続人に関する記載がない場合(相続人がすべて確認できない場合)、相続人の戸籍謄本も必要となります。
【相続人全員の印鑑証明書】
原則として発行後6か月以内のものを提出します。
【遺産分割協議書】
遺産分割協議書には相続人全員の署名捺印が必要です。
関連記事:『行政書士に遺産分割協議書作成を依頼するといくらかかる?費用相場について解説』
③裁判所の遺産分割審判による場合
相続人同士の話し合いがまとまらず、家庭裁判所の調停などを受けている場合は以下の書類を用意します。
【被相続人の戸籍謄本(除籍謄本)】
被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(除籍謄本)です。ただし相続人に関する記載がない場合(相続人がすべて確認できない場合)、相続人の戸籍謄本も必要となります。
【和解調書謄本・調停調書謄本・審判書謄本・確定証明書など】
裁判所が交付する書類です。
【審判等で指定された人の印鑑証明書】
原則として発行後6か月以内のものを提出します。
④公正証書遺言書による場合
【被相続人の戸籍謄本(除籍謄本)】
被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(除籍謄本)です。ただし相続人に関する記載がない場合(相続人がすべて確認できない場合)、相続人の戸籍謄本も必要となります。
【ろうきん口座の預金を相続する人の印鑑証明書】
原則として発行後6か月以内のものを提出します。
【公正証書遺言書】
⑤自筆証書遺言書による場合
【被相続人の戸籍謄本(除籍謄本)】
被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(除籍謄本)です。ただし相続人に関する記載がない場合(相続人がすべて確認できない場合)、相続人の戸籍謄本も必要となります。
【ろうきん口座の預金を相続する人の印鑑証明書】
原則として発行後6か月以内のものを提出します。
【自筆証書遺言書】
【家庭裁判所の検認済証明書】
⑥遺言執行者や遺産整理受任者がいる場合
【被相続人の戸籍謄本(除籍謄本)】
被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(除籍謄本)です。ただし相続人に関する記載がない場合(相続人がすべて確認できない場合)、相続人の戸籍謄本も必要となります。
【遺言執行者・遺産整理受任者の印鑑証明書】
原則として発行後6か月以内のものを提出します。
【遺言執行者・遺産整理受任者を確定できる書類】
委任状や、選任に関する審判書(家庭裁判所が選任した場合)などです。
⑦親権者・未成年者がともに相続人の場合の追加書類
- 特別代理人の選任審判書謄本
- 特別代理人の印鑑証明書(発行後6か月以内)
⑧成年後見人制度を利用している相続人がいる場合の追加書類
- 家庭裁判所の成年後見人等の選任書謄本(または後見登記等の登記事項証明書)
- 成年後見人等の印鑑証明書(発行後6か月以内)
ろうきんの残高証明書について
被相続人の預金額を正確に把握する際は、「残高証明書」や「預金入出金明細証明書」の確認が必要になります。ろうきんの残高証明書の取得方法は以下の通りです。
申請者
相続人など
手数料
残高証明書…1通につき税込220円
預金入出金明細証明書…1口座、依頼期間1か月につき税込220円、上限は税込5,500円
必要書類
①「残高証明書発行依頼書(相続用) 」または「預金入出金明細証明書発行依頼書」
②被相続人の死亡日が記載された 戸籍謄本、または法定相続情報一覧図」
③相続人であることがわかる戸籍謄本、または法定相続情報一覧図」(②と③は兼用可能)
④相続人の印鑑証明書 (発行日から6ヶ月以内)
申請の流れ
①手数料を「ろうきん相続サポート振込口」に振り込む
②必要書類を郵送、もしくは窓口に持ち込む
③簡易書留郵便で証明書が郵送される(手続きから1〜2週間程度)
ろうきんの手続きを専門家に任せるメリット
ろうきんでの相続手続は原則として相続人や遺言執行者が行うものですが、行政書士などの専門家に依頼することもできます。専門家に手続きを任せる主なメリットは次の通りです。
- 時間の節約になる
- ミスのない手続きをしてもらえる
- 相続に関する相談ができる
ちなみに専門家にはいろいろな種類があるため、相続の状況に合わせて最適な相手を選ぶ必要があります。専門家選びをする際は、ぜひ『遺産相続は誰に頼むのがベター?各専門家の業務範囲や費用・注意点についても解説』も参考にしてください。
まとめ
ろうきんに被相続人の口座がある場合、その口座の預金も相続財産の一部になります。遺言書が残されていればその内容通りに、遺言書がなければ遺産分割協議を通して預金の払い戻しを受ける人を決め、ろうきんの相続手続を行ってください。専門家を上手に活用しながら、スムーズな相続手続を目指していきましょう。