遺産相続手続には、さまざまな細かい手続きが含まれています。こうした手続きは相続人自身が行うこともできますが、手続きにかかる時間や手間、必要な専門知識などを考えると、専門家に任せてしまった方が安心です。この記事では遺産相続の専門家「行政書士」にスポットを当てて、行政書士を利用する場合のポイントや注意点について説明します。
遺産相続手続は依頼できる
遺産相続には、相続人や相続財産の調査、他の相続人との話し合いや遺産分割協議書の作成、相続登記などさまざまな手続きが含まれます。これらの手続きは本人(相続人)が行うこともできますが、実際には専門家に依頼するのが一般的です。
専門家に依頼するメリット
遺産相続の専門家を利用するメリットは、相続人の負担を減らせることです。
身内を亡くしたばかりの方にとって、遺産相続手続は大きな負担になります。手続きの種類が膨大なだけでなく、多くの手続きにタイムリミットが設定されているため、故人を悼む時間さえ十分に取れないことも少なくありません。
遺産関係の書類作成には専門知識が必要ですし、場合によっては市役所や法務局、税務署などに何度も足を運ぶ必要があります。普段会社勤めをしている人の場合、こうした時間を確保することも困難でしょう。
専門家に依頼すれば、こうした時間や手間のかかる手続きをすべて任せることができるため、心理的な負担も体力的な負担も大きく減らすことができます。
関連記事:『遺産相続手続に期限はある?期限を過ぎた場合の対策についても解説』
依頼できる専門家の種類
遺産相続の専門家にはさまざまな種類がありますが、一般に利用されることが多い専門家は次の4種類です。
- 弁護士
- 司法書士
- 行政書士
- 税理士
これらの専門家には、それぞれに得意分野や強みがあります。また専門家によって「できること・できないこと」が変わってくるため、依頼する内容に合わせて上手に使い分ける必要があるでしょう。
関連記事:『遺産相続手続は自分でできる?専門家に依頼した方が良い場合についても解説』
遺産相続の専門家「行政書士」
4種類の専門家のうち、最も身近な存在といえるのは「行政書士」です。行政書士はひとことで言うと「書類作成の専門家」で、契約書や役所に提出する書類などを作成するほか、作成した書類を本人に代わって役所に提出することもできます。
遺産相続と行政書士
行政書士が遺産相続関連で行う業務には次のようなものがあります。
- 相続人調査(住民票・戸籍謄本の取り寄せ)
- 相続財産調査(財産目録の作成)
- 遺産分割協議書の作成
- 自動車の名義変更
- 預貯金の払戻し
- 有価証券の名義変更
加えて遺産相続が発生する前の準備段階でも、以下の業務を担当できます。
- 遺言書(公正証書遺言)の作成手続き
- 成年後見人の受任
行政書士にできないこと
一方、ほかの専門家にできて行政書士にできないこともあります。具体的には以下の業務です。
- 法律相談
- 他の依頼人との交渉
- 相続放棄の申述手続
- 遺言書の検認手続
- 不動産の名義変更(相続登記)
- 相続税申告
これらの業務は弁護士、司法書士、税理士などの専門分野で、行政書士がこれらの専門家に代わって行うことはできません(弁護士法違反などになってしまいます)。
関連記事:『遺産相続は誰に頼むのがベター?各専門家の業務範囲や費用・注意点についても解説』
行政書士ならではの強み
このように、行政書士は万能ではありません。それでも相続業務で行政書士を利用する人が多いのはなぜでしょうか?
理由のひとつとして挙げられるのは「対応できる業務が幅広い」ことです。一般に行政書士が対応できる書類作成業務は一万種類以上と言われています。相続だけでなく会社法人の設立手続や各種事業の許認可・届出、補助金申請なども行政書士の専門分野です。経営者が関係する相続ではこうした手続きが必要になることも少なくありませんが、行政書士なら「どんな手続きが必要か?」も含めて相談に乗ることができます。
別の理由は「費用が安い」ことです。実は行政書士が行える業務のほとんどは弁護士でも対応可能できます。弁護士は行政書士とは違い「代理人」にもなれるため、遺産相続で相続人同士が揉めそうな場合は特に有利です。
しかし「できることが多い・より高度な業務ができる」反面、弁護士への依頼には高額な費用がかかります。これに対し行政書士への依頼費用は弁護士費用の数分の1から十分の1程度なので、他の専門家と比べて気軽に利用できるのが強みと言えるでしょう。
行政書士に依頼するには?
相続手続で行政書士に依頼すべきかどうか迷っている場合、あるいはどの行政書士に頼むべきかわからないという場合に、参考になるポイントを説明します。
依頼した方がいいケース
行政書士に依頼した方がいいケースの典型は「相続人同士でトラブルがない(トラブルが発生する可能性が少ない)」場合です。相続人同士が協力的で遺産分割協議を円満に進められそうなら、行政書士だけで十分に対応できます。
できるだけ費用を抑えたい場合も、費用の安い行政書士が有利です。ただし不動産を相続したり一定額以上の財産を相続する場合は、「不動産登記」や「相続税申告」の手続きを自分でやるか、司法書士や税理士に依頼する必要があります。
選ぶ際のポイント
行政書士を選ぶ場合は、以下のポイントに留意しておくと良いでしょう。
- 相続業務を専門にしている
行政書士の業務は一万種類以上もあります。このためひとくちに行政書士といっても、得意分野はさまざまです。中には「会社設立専門」「ビザ(在留資格)取得専門」のように対応業務を絞っている行政書士もいるため、相続業務も「相続業務専門」の行政書士に依頼するのが基本となります。 - 他の士業と兼業している/士業のネットワークを持っている
行政書士は相続業務の「すべて」を行うことはできません(これは他の士業も同じです)。ただし行政書士と司法書士、行政書士と税理士などいくつかの資格を持っている事務所なら、できる業務の範囲が広がります。司法書士や税理士と提携している行政書士も同じです。このように複数の資格を持っているか、幅広いネットワークを持っている行政書士を選ぶと良いでしょう。 - 料金設定が明確でわかりやすい
ホームページなどで業務内容と費用(料金設定)を明記していることも重要です。追加業務(追加費用)が発生する可能性があるかどうか、他の士業と連携する場合に費用をどのように支払うかなど、可能な限り細かくていねいに説明してくれる行政書士を選んでください。 - コミュニケーションをとりやすい
行政書士も人間ですから、それぞれ独自の個性があります。専門性や経験を重視するのはもちろんですが、説明がていねいでコミュニケーションをとりやすい相手を選ぶことも重要です。
費用の相場
行政書士の費用は事務所によって違います。たとえば「遺産分割協議書の作成」だけを「6万円程度」で行っている事務所もあれば、「遺産相続業務一式」を「30万円」で請け負っている事務所もあるといった具合です。一般的には、遺産相続手続全体でおおむね20万円〜40万円程度が相場といわれています。
行政書士費用の他にも、遺産相続手続きには以下のような「手数料(実費)」が必要です。
- 戸籍謄本の取得:450円/1通
- 住民票の取得:300円/1通
- 印鑑証明:450円/1通
- 自動車の移転登録手数料:500円
上記の手数料はあくまで一例ですが、これらが積み重なることで「数千円〜1万円程度」になることも珍しくありません。遺産相続手続について行政書士に相談する際は、こうした手数料がトータルの費用に含まれるのか、それとも実費として別に支払うのかもあらかじめ確認しておくと良いでしょう。
まとめ
遺産相続手続を専門家に依頼すれば、手間や時間の節約やストレスの軽減につながります。他の専門家と比べて「業務範囲が広く」「費用が安い」行政書士を上手に活用することで、スムーズな遺産相続を目指してください。