口約束による遺産相続は可能?トラブルにならない遺産相続方法について解説

遺産相続をめぐるトラブルのひとつに「口約束」があります。特定の遺産を譲ってもらう約束をしていたものの、証拠が残っていなかったために、他の相続人と遺産の取り合いになってしまうケースは珍しくありません。この記事では口約束による遺産相続が有効に成立するかどうか、トラブルを防ぐにはどうすれば良いかについて解説していきます。

 

口約束による遺産相続はトラブルの元?

「私が死んだら、この家をあげる」。遺産相続についてこのような「口約束」を交わすことがあります。しかしその後の遺産相続手続で相続人同士がトラブルとなり、結果として口約束が果たされないことも少なくありません。

現実問題として相続人が複数いる場合、生前の「口約束」通りに遺産相続が行われるケースはあまり多くないでしょう。相続人同士が疎遠だったり、関係が良好でない場合はなおさらです。

では、口約束による遺産相続はそもそも有効に成立するのでしょうか?

 

口約束の法的性質について

口約束が有効に成立するかどうかを知るために、口約束の法律上の性質を考えて見ましょう。

 

口約束でも契約は成立する

遺産相続の指定は一種の契約と考えられます。民法によると、契約が成立するための条件は次の通りです。

民法第522条 第1項

契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。


民法第522条 第2項

契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。


契約は当事者同士の意思表示と承諾によって(つまり口頭だけで)成立します。原則として書面などの作成は、法律上は必要ありません。

 

口約束がトラブルになる理由

では多くの契約で契約書が作成されるのはなぜでしょうか?そして口約束による遺産相続がトラブルになりやすいのはどうしてでしょうか?

その理由は、口約束だけでは証拠が残らないからです。たとえ当事者同士が口約束をしていても、その場にいなかった人にはその内容が分かりません。特定の遺産を相続させるという約束も、その人にとって都合の良い「うそ」と思われても仕方ないでしょう。仮に口約束の現場に他の相続人がいたとしても、「そんな話は聞いていない」と主張されたらそれまでです。

このように利害関係者が多ければ多いほど、口約束による遺産相続は実現が難しくなります。被相続人が自分の意思を実現させるには、書面による証拠(遺言書)を残すなどの一手間が必要です。

 

口約束を実現するには

被相続人が自分の意思を実現させる「一手間」には、いくつかの手段があります。

 

遺言書を作成する

最もポピュラーな方法は「遺言書」を残すことです。相続発生時に遺言書があれば相続人同士の話し合い(遺産分割協議)は必要ありません。原則として被相続人が遺言書で指定した通りに遺産相続が行われます。たとえば、本来は相続人ではない人を相続人に指定することも可能です。

一方で遺言書にはいくつかの形式があり、法的に有効に成立させるには一定の形式に従って遺言書を作成しなくてはなりません。形式通りに作成されていない遺言書は無効とみなされるため、かえって混乱の元となってしまいます。

 

死因贈与を行う

被相続人の意思を実現する別の方法は「死因贈与」です。死因贈与(死因贈与契約)とは贈与者の死亡によって効力が発生する贈与契約で、贈与者と受贈者(受け取る側)の合意によって成立します。

もちろん口約束だけの死因贈与契約では他の相続人とのトラブルになりかねないため、合意内容を贈与契約書などの書面にしておくことが重要です。

ちなみに死因贈与契約は、贈与者にとって「贈与に条件を付けられる」というメリットがあります(負担付死因贈与)。たとえば「死後に財産を譲る代わり、生前は生活の面倒を見る」といった具合です。

また贈与の対象が不動産の場合、贈与者の承諾があれば「始期付所有権移転仮登記」ができるため、受贈者にとっても確実に財産を取得できるというメリットがあります。

 

生前贈与を行う

死因贈与ではなく、贈与者が生きている間に財産を譲る「生前贈与」を利用する方法もあります。この場合も贈与者の死後に他の相続人との間でトラブルにならないよう、贈与契約書を作成するのが一般的です。

生前贈与のメリットは、年間110万円の基礎控除があることです。一方で課税部分の税率は死因贈与(2%・4%)と比べて大幅に高く、「200万円以下」で10%、最大の「3000万円超」では55%にも上ります。

 

遺産分割協議

被相続人が遺言書を残さずに亡くなった場合や遺言書が無効の場合、相続人同士の話し合いで口約束を実現させるしかありません。この話し合いのことを「遺産分割協議」といいます。

とはいえ相続人同士が険悪な場合は遺産分割協議でもめることも多く、被相続人の意思が尊重されるかどうかは難しいところです。特に特定の法定相続人に主な財産が集中する場合や、法定相続人以外の人に遺産相続させるという「口約束」があるケースではトラブルに発展することが多いでしょう。

遺産分割協議が成立した場合も、合意内容を書面(遺産分割協議書)にするのが一般的です。

 

有効な遺言形式について

ここからは口約束を実現させるための「最もポピュラーな方法」である遺言について、もう少し詳しく説明していきます。

遺言は「遺言書」の作成によって法的な効力を持ちます。ただし先ほど説明した通り、遺言を有効に成立させるには一定の形式に従った遺言書が必要です。この形式は遺言の種類によって異なります。

 

自筆証書遺言

自筆証書遺言とは、遺言者(被相続人)が自分で書いて作成する遺言書です(代筆は不可)。日付や捺印のない遺言書は、有効な遺言書とは認められません。

民法968条(自筆証書遺言)

自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。


作成した自筆証書遺言は自宅などで保管することもできますが、相続人による改ざんや破棄を防ぐため法務局で預かってもらうこともできます(参考:法務局『自筆証書遺言保管制度について』)。

 

秘密証書遺言

秘密証書遺言とは、遺言の内容を他人に知られないようにしながら遺言者が自分で作成する遺言書です。秘密証書遺言を成立させるには、署名捺印や封筒への封印、公証人1名、証人2名以上の立ち会いが必要になります。

民法970条(秘密証書遺言)

秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。

1 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
2 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
3 遺言者が、公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
4 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。


秘密証書遺言は遺言者自身が保管します(法務局や公証役場で預かってもらうことはできません)。

 

公正証書遺言

公正証書遺言とは、遺言者が遺言の内容を口頭で伝え、公証人がそれを筆記して作成する遺言書です。公正証書遺言にも証人2名以上の立ち会いと遺言者・証人それぞれの署名捺印が必要ですが、もし遺言者が署名できない場合は公証人がその旨を書くことで遺言が成立します。

民法969条(公正証書遺言)

公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。

1 証人2人以上の立会いがあること。
2 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
3 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
4 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
5 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。


公正証書遺言の原本はは公証役場で保管されます。

 

その他の遺言

上に挙げた3つの遺言の他に、非常時などに作成が認められる特殊な遺言書もあります。

  • 死亡の危急に迫った者の遺言(民法976条)
  • 伝染病隔離者の遺言(民法977条)
  • 在船者の遺言(民法978条)
  • 船舶遭難者の遺言(民法979条)

これらはいずれも遺言者に生命の危険が迫るような状況下で作成する遺言書です。実際に利用されるケースはほとんどありませんが、万一の場合に備えて覚えておくと良いでしょう。

 

まとめ

口約束による遺産相続は法律上は有効ですが、現実にはトラブルの元です。トラブルを避けつつ、被相続人の意思で相続財産を配分するには「遺言書」を作成するか、死因贈与、生前贈与などの制度を活用しなければなりません。もしどの方法を利用するか迷ったなら、ぜひ行政書士などの専門家に相談してください。

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