相続財産には、現金や不動産などさまざまなものが含まれます。中には財産の性質上「分割」が難しいものも少なくありません。この記事では相続財産を分割する4つの方法について解説していきます。
遺産分割の手順について
相続人が複数の場合、相続財産は相続人ごとに分割されます。この分割方法を決める手順は原則として、「遺言書による指定」と「遺産分割協議」の2種類です。
遺言書による指定
遺言書は遺言者(被相続者)の意思を伝え、それを実現するために作られる書面です。遺言書には「自筆証書遺言」や「公正証書遺言」「秘密証書遺言」などさまざまな種類がありますが、目的や効果はどれも変わりません。相続発生後に遺言書が見つかった場合、相続人はその内容を尊重し、遺言書の内容に従って遺産を相続します。
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もっともすべての相続人が遺言書を作成しているわけではありませんし、遺言の内容を相続人が受け入れない場合もあります。もし遺言書が存在していないなら、あるいは遺言で相続人や受遺者(遺贈を受ける人)に指定された人が一致して遺言内容と違う遺産分割を望むなら、遺産分割協議によって遺産の分割方法が決められます。
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遺産分割協議
遺産分割協議は、相続人全員による「話し合い」です。民法には相続人ごとに標準的な「法定相続割合」が規定されていますが(表1、表2参照)、遺産分割協議はこの法定相続割合に縛られないため、(相続人全員の同意があれば)話し合いの中で自由に相続割合を決めることができます。
表1:配偶者の法定相続割合
他の相続人の存在 | 法定相続分 |
なし | すべて |
子が存在する | 1/2 |
直系尊属が存在する | 2/3 |
兄弟姉妹が存在する | 3/4 |
表2:子・直系尊属・兄弟姉妹の法定相続割合
相続人 | 配偶者がいる場合の法定相続分 | 配偶者がいない場合の法定相続分 |
子 | 1/2(複数の場合は均等に配分) | すべて |
直系尊属 | 1/3(複数の場合は均等に配分) | すべて |
兄弟姉妹 | 1/4(複数の場合は均等に配分) | すべて |
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遺産分割の4つの方法
では遺産分割協議では具体的にどのような「遺産分割」が行われるのでしょうか。実は遺産分割には「現物分割」「換価分割」「代償分割」「共有分割」の4種類があり、相続財産の内容や性質、相続人同士の関係など、さまざまな条件に応じて使い分けられます。
現物分割
- メリット:財産をそのままの形で分割できる
- デメリット:厳密な分割が難しく不公平につながりやすい
現物分割とは、財産を「そのままの形」でそれぞれの相続人に分割することです。たとえば「自宅の不動産は妻に、自動車と有価証券は長男に」といった分割方法が考えられます。
現物分割には特別な手続きが必要ないため手軽です。なにより財産をそのままの形で残せるのが一番のメリットと言えるでしょう。一方、法定相続割合のように厳密に財産を分割するのが難しく、相続人同士の不公平感につながりやすいのがデメリットです。
換価分割
- メリット:公平な分割が可能
- デメリット:課税で財産が目減りする、売却に手間や時間がかかる
換価交換とは、財産をいったん現金化したうえで、それを相続人同士で分割することです。
換価交換には法定相続割合(あるいは相続人同士で合意した相続割合)を公平に実現し、公平な分割が可能というメリットがあります。しかし売却益は所得税などの課税対象になりますし、売却に手間や時間がかかることもあります。
代償分割
- メリット:財産をそのまま残しつつ公平な分割が可能
- デメリット:財産の評価で意見が別れる、利用には一定の資金力が必要
代償分割とは、特定の相続人が不動産などの現物をそのまま取得して、他の相続人には相続分に応じた金銭などを支払うことです。
代償分割は財産をそのままの形で残しつつ、相続人同士の不公平も解消できるというメリットがあります。一方で不動産などの評価で意見が別れることがあるほか、相続人に一定の資金力がないと利用できないのがデメリットと言えます。
共有分割
- メリット:財産をそのまま残しつつ公平な分割が可能
- デメリット:相続後の財産活用が難しい、将来の相続が難しくなる
共有分割とは、財産を相続人同士で共有することです。具体的には「自宅の1/2を妻が相続し、長男と次男が1/4ずつ相続する」といった形で分割(共有)します。
共有分割ではそれぞれの「相続割合」を指定するため、公平な分割が可能です。また財産を売却せず、そのまま残すことができます。一方で財産の利用や処分には他の相続人全員の同意が必要なため財産活用が難しいことや、次の代への相続で利害関係が複雑になるというデメリットがあります。
遺産分割協議で注意すべき点
4つの分割方法のどれを採用するか(あるいはどれとどれを組み合わせるか)は、遺産分割協議で自由に決めることができます。ただし遺産分割協議では以下の点に注意が必要です。
代理人・特別代理人が必要なケース
相続人の中に未成年者や、判断能力が欠ける程度の精神障害や認知症を患っている方などがいる場合、その相続人は遺産分割協議に参加できません。もし本人を参加させたまま遺産分割協議書を作成しても無効です。
このような場合は代理人(法定代理人)を立てるのが原則ですが、法定代理人が共同相続人(たとえば未成年の子供とその親がそれぞれ共同相続人)の場合は利害関係が発生するため、家庭裁判所に「特別代理人」を選任してもらう必要があります。
関連記事『特別代理人が必要なケースとは?選任の手続きについても解説』
寄与分を考慮すべきケース
特定の相続人が被相続人の看護をしていた場合や、事業を手伝って財産の維持に貢献していたようなケースでは、その相続人を他の相続人よりも遺産分割で優遇する「寄与分」という制度を利用できます。
ただし寄与分の主張には一定の要件が必要ですし、寄与分が相続人同士のトラブルに発展しないよう互いにしっかり話し合う必要があります。
関連記事『親の面倒を見た人は遺産相続で優遇される?寄与分の要件について解説』
遺産分割請求権について
遺産分割請求権とは、民法第907条第1項に基づく権利です。
共同相続人は、次条第1項の規定により被相続人が遺言で禁じた場合又は同条第2項の規定により分割をしない旨の契約をした場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。 |
すべての相続人は、被相続人が遺言で遺産分割の方法を定めている場合や相続人同士で「遺産分割をしない」という契約を交わした場合を除き、いつでも遺産分割協議を要求できます。遺産分割請求権が行使されたら、他の相続人は遺産分割協議の話し合いに参加しなければなりません。
なお遺産分割請求権には期限が存在しないため、相続開始から数年後に(産分割協議が成立していなければ)権利を行使することもできます。
関連記事『遺産分割請求権に時効はある?権利を行使する方法と注意点について解説』
遺産分割がまとまらない場合
遺産分割協議がまとまらない場合、あるいはいくら呼びかけても遺産分割協議に参加しない相続人がいる場合は、家庭裁判所の「遺産分割調停」や「遺産分割審議」を利用できます。
遺産分割調停
遺産分割調停とは、家庭裁判所が選任する「調停委員」が仲介する話し合いです。調停委員がそれぞれの主張を公平に聞き、専門家として妥当な分割案(調停案)を提示してくれるため、比較的スムーズに話し合いを進めることができます。
相続人全員が調停案に同意すれば調停成立となり、遺産分割が行われます。
関連記事『遺産分割調停の内容と活用方法とは?審判・訴訟との違いについても解説』
遺産分割審判
遺産分割調停でも話し合いがつかない場合、自動的に遺産分割審判に移行します。遺産分割審判は話し合いではなく、裁判官が強制的に分割割合を決める手続きです。最終的な判断が下されたあとは、たとえ内容に不服があっても従わなければなりません(従わない場合は強制執行の対象になります)。
まとめ
遺産分割には換価分割、換価分割、代償分割、共有分割の4種類があります。相続人はどの方法で遺産分割しても構いませんが、それぞれにメリット・デメリットがあるため相続人同士でよく話し合うことが重要です。これから遺産分割協議を行う方はぜひ参考にしてみてください。