遺産相続の手続きを進めるには、相続人同士で遺産配分を話し合う必要があります。しかし家族が亡くなったばかりのタイミングでお金の話をするのは「不謹慎」と考える人もいるため、どのタイミングで遺産分割協議を行うべきか迷う人も少なくありません。この記事では遺産分割協議をするベストなタイミングとその理由について解説します。
遺産分割の話し合いに「期限」はない
遺産相続の手続きには、相続人ごとの遺産分配を決めることも含まれます。特に亡くなった方が遺言書を残していない場合は、相続人全員が集まってそれぞれの相続分を決める「遺産分割協議」が欠かせません。
遺産分割協議について
遺産分割協議は非常に重要な手続きです。しかし意外なことに、民法には遺産分割協議をするタイミングや期限について指定されていません。つまり「いつ話し合いをするか」「いつまでに結論を出すか」は、相続人に任されているということです。
遺産分割協議の他の相続手続の関係
とはいえ、遺産分割協議をずるずると先延ばしにするのは得策ではありません。遺産相続の手続きには期限の定めのあるものも多く、それらの中には遺産分割協議と関連の深い手続きもあるからです。
たとえば相続人の誰かが「相続放棄」をしたい場合、あらかじめ遺産分割協議の場などで他の相続人にその旨を伝えておく方がスムーズですし、被相続人(故人)の準確定申告手続きを行う場合も、誰が手続するかを話し合う必要があります。また相続税申告の必要があるかどうかの判断や、各種控除や特例制度を利用するためには、相続人それぞれの相続分を確定させておく必要があります。
関連記事『相続放棄すべきケースとは?相続放棄の申述方法についても解説』
関連記事『相続税の仕組みとは?相続税申告が必要なケースと申告の手順について』
相続人同士が話し合う最適な時期とは
では遺産分割協議はどのタイミングで、いつまでに行えば良いのでしょうか?
目安は「四十九日法要」以降
しばしば目安とされるのが、「四十九日法要が終わった後」です。仏教では亡くなってから四十九日目に亡くなった方が仏様のもとに向かうとされ、同時に遺族が日常生活に戻るタイミングとされています。このため四十九日法要が終わるまでは喪に服し、その後に相続人同士でお金の話(遺産分割協議)をするのがふさわしいというわけです。
もっとも四十九日法要はあくまで仏教の風習なので、法律的な根拠は何もありません。実際、遺産分割協議のタイミングはもっと早くても(被相続人が亡くなった直後)、もっと遅くても(数か月後)問題ないといえます。
しかし遺産分割協議は相続人全員の参加と合意が必要です。もし仏教や日本の伝統的な風習にこだわる相続人がいるなら、その人の心情にも配慮する必要があるでしょう。
すべての人が納得できるタイミングという意味で、「四十九日法要」を目安にするのは正しい判断と言えるかもしれません。
できるだけ10か月以内に
遺産分割協議はすぐに終わる場合もあれば、なかなか合意できずに長引く場合もあります。協議自体が全員参加を原則とするため、相続人それぞれの都合を考慮してスケジュールを組む必要もあります。
どれくらいの時間がかかるかは遺産の内容や相続人同士の関係性も影響するため一概には言えませんが、他の相続手続、特に相続税申告の期限を考えると、少なくとも相続開始から「10か月以内」に終えるようにすべきです。
相続税の申告(および納付)期限は相続発生から10か月以内とされています。もし申告が遅れれば「延滞税」などのペナルティが課されるため、それまでに相続財産の金額を確定させて「相続税申告の必要があるかどうか」を判断し、必要があれば納税申告書を作成しなければなりません。
特に「配偶者控除」や「小規模宅地等の特例」といった優遇制度の適用は遺産分割協議が成立していることが条件となるため、制度の利用を検討しているなら「必ず」10か月以内に遺産分割協議を終わらせる必要があるでしょう。
関連記事『遺産相続は何から始める?相続手続の注意点も解説』
関連記事『遺産相続の時効とは?権利や手続きの時効について解説』
遺産相続の話し合いに必要な準備と流れ
遺産分割協議を行うには事前の準備が必要です。また「遺産分割協議書」の作成についてもいくつか注意すべき点があります。
相続人の確定
遺産分割協議はすべての相続人が参加しなければなりません。そのためにはまず「相続人を確定」する必要があります。具体的には被相続人の戸籍などを集め、そこから親族関係を辿っていきます。
相続人の中には海外など遠方に住んでいる人や消息不明の人もいるかもしれません。それでも可能な限りの手段で連絡をとり、相続が発生したことと相手が相続人であること、遺産分割協議を行うことを連絡します。
相続財産の確定
それと並行して必要なのが相続財産の確定です。被相続人が持っていた口座や有価証券、被相続人名義の不動産、その他価値のある所有物はすべて相続財産の一部としてカウントします。
「マイナスの財産」、具体的には借金や未払金も忘れてはいけません。相続放棄をしない限り、相続人はマイナスの財産も相続する必要があります(プラスの財産よりもマイナスの財産の方が多い場合、相続人には自分の財産から借金等を返す義務があります)。
これらすべての財産情報をきちんと開示したうえで、遺産分割協議が行われます。
関連記事『相続発生後の財産調査はどうすればいい?財産ごとの調査手順について解説』
遺産分割協議
遺産分割協議では基本的に「誰がどの財産を相続するか?」を話し合います。民法では「法定相続分」という標準的な相続割合を規定していますが、遺産分割協議では(全員が同意する限り)法定相続分に従う必要はありません。遺産分割協議の場でいきなり話し合っても結論を出すのが難しそうな場合は、あらかじめ「遺産分割案」を用意しておくのも良いでしょう。
相続人全員が遺産分割内容に同意したら、その内容を「遺産分割協議書」に記載することで話し合いは終了します。ここで注意すべきなのは、遺産分割協議書には「相続人全員の署名捺印が必要」という点です。もしひとりでも署名や捺印が欠けていればその遺産分割協議書は無効ですし、遺産分割協議が成立したとはみなされません。
遺産分割協議書は原則として相続人本人が作成しますが、行政書士などの専門家に依頼して作成してもらうこともできます。詳しくは『行政書士に遺産分割協議書作成を依頼するといくらかかる?費用相場について解説』もご覧ください。
遺産分割協議がまとまらない場合
数回にわかり遺産分割協議を開いても、相続人全員の同意が得られないというケースは珍しくありません。相続人の数が多ければ多いほど、また相続人同士がもともと疎遠だったり険悪な仲だったりするほどこうしたリスクは高くなりますし、いくら遺産分割協議の連絡をしても協議に参加しない(返事すらしない)相続人も存在します。
では遺産分割協議が話し合いでまとまらない場合(あるいは遺産分割協議を開くことすらできない場合)はどうすれば良いのでしょうか?
こうしたトラブルの解決手段として用意されているのが「遺産分割調停」です。遺産分割調停では家庭裁判所が選任する調停委員(弁護士資格や相続の専門家)が相続人同士の話し合いを仲介し、双方に配慮した現実的な解決策を提案してくれます。
なお遺産分割調停の詳しい内容とメリット・デメリット、手続きの流れについては『遺産分割調停の内容と活用方法とは?審判・訴訟との違いについても解説』をご覧ください。
もし遺産分割調停でも合意できない場合は、自動的に「遺産分割審判」に移行して裁判官による遺産分割が行われます。
まとめ
遺産についての話し合いは「相続人全員が集まって」「できるだけ早い時期」に行うことが重要です。遺産分割協議の具体的な時期は相続人それぞれの事情や心情に合わせて決める必要がありますが、もし話し合いのタイミングや内容について不安があれば、行政書士や弁護士といった専門家に相談するのも有効です。