親が法定相続人に遺産をくれないケースとは?パターンごとの対処方法について解説

親子の関係が極端に悪い場合、法律上の相続人であるにもかかわらず親が子供に相続財産を与えないケースがあります。この記事では「親が遺産をくれない」トラブルとして考えられるいくつかのケースと、その対策について解説していきます。

 

親が遺産をくれないケースとは

何らかの理由で親が子供に遺産を残したがらないケースは決して少なくありません。しかし民法によれば子は親の法定相続人です。では「親が子供に遺産を渡さない」ことは可能なのでしょうか?

 

遺言

子に遺産を渡さないための手段として実際に使われているのが「遺言書による相続人の指定」や「遺贈」です。たとえばAという子供に遺産を相続させない目的で

「相続人Bにすべての財産を相続させる」
「(相続人ではない)Cに全財産を遺贈する」

という内容の遺言書を作成するケースです。あるいはもっと直接的に、「Aには一切の財産を相続させない」という内容で遺言書を作成する可能性もあります。

遺言書をどのような内容にするかは基本的に被相続人の自由なので、遺言書としての形式が整っている限りこのような内容も一応有効です。

 

生前贈与

遺言書による指定ではなく、他の相続人などに生前贈与を行うことで遺産そのものを減らす(あるいはなくす)ケースもあります。遺産がなければそもそも相続分を主張することすらできないため、遺言書よりもより巧妙な手段と言えるかもしれません。

ただし「特定の相続人に相続分や遺留分を渡さない」目的で相続発生前1年以内に行われた生前贈与や、相続発生前10年以内に行われた生前贈与の一部は相続財産として取り戻せる可能性があります。

 

相続廃除

「相続廃除」も、子供に財産を相続させない手段のひとつになります。相続排除とは

  • 被相続人に対する一方的な虐待や重大な侮辱を加えたとき
  • 著しい非行があったとき

に相続人の相続権と遺留分など一切の権利を喪失させる手続きのことです。相続廃除は被相続人が家庭裁判所に申し立て、家庭裁判所が「相続廃除の審判」を行うことで成立します。

なお相続廃除と似た制度に「相続欠格」がありますが、これは被相続人や他の相続人の殺害を図ったり、詐欺や脅迫で遺言作成を迫った場合のような明らかな犯罪行為が原因で相続人が相続権を喪失する制度です(被相続人の意図で相続人を廃除するものではありません)。

 

親が遺産をくれない場合の対処法

親が子供に相続財産を渡さない場合、子供はいくつかの手段で相続分や遺留分を取り戻すことができます。

 

遺言書の無効を主張

遺言書の指定によって財産を受け取れない場合、遺言書そのものの無効を主張することができます。

もし遺言書が法律(民法)上の形式を満たしていなければそれを理由に、あるいは詐欺や脅迫で作成されたり、偽造の疑いがある場合はそれを裁判で主張することで無効が認められるかもしれません。親が認知症を患っていたなら、遺言能力の欠如を理由に「遺言無効確認調停」や「遺言無効確認訴訟」を起こせます(詳しくは『認知症でも遺言書の作成は可能?判断の目安と事前対策についても解説』をご覧ください)。

裁判所が遺言書を無効と認めれば相続人全員による遺産分割協議が行われるため、そこで自分の相続分を主張すれば良いでしょう。

 

遺留分侵害額請求を行う

遺言書の無効が認められない場合は、遺留分侵害額請求をすることで遺留分(法定相続分の半分)に相当する金銭の支払いを受けられます。また相続開始前の1年以内に行われた生前贈与や、相続開始の1年以上前に「遺留分権利者に損害を加えることを知って」行われた生前贈与も遺留分侵害額請求の対象です。

遺留分侵害額請求の相手方は実際に相続を受けた相続人や遺贈を受けた人です。手順としては

①口頭や手紙などで遺留分侵害額請求をする旨を伝える(一般には内容証明郵便が使われます)
②相手と直接交渉する
③(相手が交渉に応じない場合)家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停を申し立てる
④(調停が不成立になった場合)家庭裁判所に遺留分侵害額請求訴訟を起こす

という流れで行います。なお遺留分侵害額請求の時効は「続開始と遺留分を侵害する遺言・贈与を知ってから1年間」のため、できるだけ速やかに①の手続を開始すべきでしょう。

関連記事『遺産相続の時効とは?権利や手続きの時効について解説

 

廃除の取消しをしてもらう

相続廃除されている場合、相続人の側でできる対抗手段はほとんどありません。ただし相続排除をする側(被相続人)はいつでも自分の意思でこれを取り消せるため、もし親子関係が改善されているのであれば「相続廃除の取り消し」を依頼すべきです。

被相続人が相続廃除を取り消す場合は、家庭裁判所に取り消しの請求をします(理由は問われません)。また生前に取り消しの請求をしなくても、遺言書によって死後に(遺言執行者を通して)取り消し請求ができます。

相続廃除が取り消された場合、相続人は相続発生時に遡って相続権を取り戻します。

 

他の相続人に遺産を独り占めされた場合

ここまでは親(被相続人)が子供(相続人)に遺産をくれないケースについて解説してきました。これに関連して、ここからは「他の相続人が財産を独占しているケース」を取り上げます。

関連記事『父の遺産は母が独り占めできる?予想されるトラブルへの対処方法について解説

 

遺言書を確認する

相続財産を他の相続人に独占されるケースとして考えられるのは、「遺言書にそのように書いてある」と嘘をつかれることです。もし他の相続人からそのように言われた場合、まずは遺言書を自分の目で見て内容を確認する必要があります。

 

財産調査を行う

別のケースとしては、相続財産の一部を隠されてしまうことも考えられます。これを防ぐには財産調査を相手任せにせず、自分でもしっかり調べることが必要でしょう。

もし他の相続人が財産調査をしているなら、遺産分割協議の場で(あるいは遺産分割調停や遺産分割審判の中で)調査内容の開示を要求できます。

関連記事『相続発生後の財産調査はどうすればいい?財産ごとの調査手順について解説

 

相続人全員で話し合う

相続財産を独占している相続人から自分の相続分を取り戻すには、財産を独占している相手との対話も欠かせません。他の相続人がいるならその人も交えて遺産分割協議を行い、それぞれが納得できる遺産配分を話し合います。

この際、他の相続人とのトラブルが予想されるなら弁護士に依頼して代理人になってもらうことも有効です。

 

家庭裁判所に調停を申し立てる

相続人同士の話し合い(遺産分割協議)が成立しなかったり、そもそも話し合いに応じてもらえない場合は家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てます。

遺産分割調停とは、家庭裁判所が選任する調停委員が相続人同士の間に入って行われる話し合いです。調停委員は遺産分割の専門知識を持った専門家として、公正・公平な立場から双方が納得できる調停案を提案してくれます。

もし調停案に双方が合意すれば調停成立となり、調停案の内容に従って遺産分割が行われます。もし当事者同士が合意しない場合は調停不成立となり、自動的に遺産分割審判(裁判官が遺産分割内容を決める審判手続)に移行します。

関連記事『遺産分割調停の内容と活用方法とは?審判・訴訟との違いについても解説

 

不当利得返還請求訴訟を起こす

相続財産を独占している相続人に対しては、「不当利得返還請求訴訟」を起こすこともできます。特に財産の一部が使い込まれてしまった場合、法定相続分に応じて使い込まれた財産を取り戻すことが可能です。

 

遺留分侵害額請求を行う

親が遺産をくれない場合と同じく、他の相続人が相続財産を独占している場合も遺留分侵害請求が有効です。

 

まとめ

親が子供に遺産をくれないケースはさまざまです。一方、子供がそれを不服とする場合はそれぞれのケースに合った方法で対抗措置をとることができます。もしこのようなトラブルを抱えているなら、ぜひこの記事を参考にして問題解決を目指してください。

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