遺言書の内容は放棄できる?遺言と遺産分割協議の関係について解説

遺言で相続分を指定されたものの、相続したくない…。そのような場合に、遺言書の内容を放棄することは可能でしょうか?この記事では遺言書と異なる相続が可能かどうかについて、わかりやすく解説します。

 

遺産相続は遺言書通りに行うのが原則

遺言書に書かれている内容は、遺言者(被相続人)の意思です。相続では被相続者の自由意思が尊重されますから、遺産相続は原則として遺言書の通りに行わなければなりません。

一方で相続人の側にも都合があります。相続を受けることが不都合な場合、あるいは心情的に財産を受け取りたくない場合にまで、「遺言書に書いてあるから」と強制するのは相続人にとって酷な話でしょう。

ですから原則としては遺言者の意思を尊重しつつも、相続人が自ら進んで望むなら、相続人自身に関する遺言書の内容を放棄することも可能です(他の相続人についての内容を放棄することはできません)。

 

遺言の放棄について

遺言書の放棄は可能ですが、放棄するための方法や手続きは遺言の内容(相続なのか遺贈なのか、遺贈なら特定遺贈なのか包括遺贈なのか)によって異なります。

 

相続を放棄する場合

相続とは「法定相続人に財産を与える」ことです。法定相続人の範囲は民法に規定されていて、具体的には被相続人の配偶者、子(および直系の子孫)、直系尊属(親や祖父母など)、兄弟姉妹(およびその子供)を指します。

遺言書に相続人と相続財産の具体的な内容が指定されている場合、それを拒否(放棄)するには原則として「相続放棄」の手続きが必要です。

相続放棄は相続の開始を知った日から3か月以内に、家庭裁判所に対して「相続放棄の申述」を行わなければなりません。なお相続放棄の詳しい要件や手順については『相続放棄すべきケースとは?相続放棄の申述方法についても解説』をご覧ください。

 

特定遺贈を放棄する場合

特定遺贈は遺贈の一種です(遺贈とは相続人以外の人に財産を与えること)。具体的には「○○(住所地)の土地を与える」という内容の遺贈が特定遺贈とされています。遺贈の相手や遺贈する財産の内容は特に限定されませんが、マイナスの財産を遺贈することはできません。

遺言書で特定遺贈の指定を受けた人が遺言書の内容を放棄する場合、単に相続人や遺言執行者に「遺贈を受けない」という意思表示をするだけで十分です。特別な手続きは必要ありませんし、意思表示の期限も特に指定されていません。

もちろん他の相続人にとって、遺贈を受けるかどうかわからない状態がいつまでも続くのは不都合です。このため相続人は遺贈者に対し、遺贈の承認か放棄を催促できます(これに返答しない場合は承認とみなされます)。

 

包括遺贈を放棄する場合

包括遺贈とは「財産の割合を指定して与える」遺贈です。具体的には「財産の半分を与える」「財産をすべて与える」といった内容で、この場合マイナスの財産もプラスの財産を一緒に「割合で」引き継いでしまう可能性があります。

包括遺贈を放棄するには、家庭裁判所で「包括遺贈放棄」の手続きが必要です。なお包括遺贈放棄の手続きは相続放棄とほとんど変わりません。遺言者の死亡、および遺贈を知ってから3か月以内に手続きする必要があるのも同じです。

 

特定財産承継遺言は放棄できない?

遺言の放棄について調べたことがある方なら「特定財産承継遺言は放棄できない」という話を聞いたり目にしているかもしれません。

特定財産承継遺言とは、文字通り特定の財産(○○にある土地、××銀行の口座預金、△△社の株券、遺言者が所有していた自動車、特定の美術品など)を指定して相続させる内容の遺言です。こうした遺言は相続の発生と同時に(何の手続きも必要とせず)実現します。

では特定財産承継遺言は本当に放棄できないのでしょうか?

裁判所の判断(東京高裁決定平成21年12月18日)によれば、特定財産承継遺言は「遺産分割の対象にならない」、つまり特定財産の相続を指定された相続人(だけ)の意思で相続内容の変更はできないとされています。

しかしこれは「相続放棄ができない」という意味ではありません。特定財産を相続したくない相続人は、その財産を含む一切の相続財産を放棄することで「遺言の放棄」が可能です。相続放棄をした場合、その人は相続発生時にさかのぼって相続人ではなかったとみなされます。

一方、相続放棄をしなくても「利害関係人全員の同意」があれば、遺言とは異なる内容の遺産分割協議が可能です。この方法なら相続財産をまるごと放棄することなく遺言の内容を放棄できます。

 

遺言と異なる遺産分割協議

「利害関係人全員の同意」があれば遺言とは異なる内容の遺産分割協議が可能、と説明しましたが、この利害関係人には「共同相続人」や「受遺者(遺贈を受ける人)」が含まれます。

なお遺産分割協議の手順や成立要件は通常のものと変わりません。相続人全員が協議に参加し、自分の意思で分割内容に同意したうえで遺産分割協議書に署名捺印します(相続放棄の詳しい手順については『行政書士に遺産分割協議書作成を依頼するといくらかかる?費用相場について解説』もご覧ください)。

遺産分割の内容は原則として自由です。相続人本人が望むなら「自分は一切の財産を受け取らない」という内容でも構いませんし、すべての財産を特定の相続人に相続させることもできます。

 

遺言を放棄する場合の注意点

相続放棄や遺産分割協議によって遺言の内容を放棄することは可能です。ただしここまでの説明で触れてきた通り、相続放棄や遺産分割協議にはいくつかの注意点があります。ここであらためて振り返ってみましょう。

 

①部分的な放棄はできない

相続放棄をする場合、特定の財産だけを指定して放棄することはできません。相続放棄には「すべての相続をまとめて放棄する」効果があり、相続放棄をした人は相続開始のときにさかのぼって「相続人ではなかった」とみなされます。

もし「遺言書で指定された財産は相続したくないけれど、現金は相続したい」という場合は利害関係者全員の同意を得た上で遺産分割協議をする必要があります。

 

②相続放棄と包括遺贈の放棄は3か月以内に行う

相続放棄の手続きも、包括遺贈の放棄の手続きにも「相続の開始を知ってから(遺贈を知ってから)3か月以内」という期間が定められています。この期間が過ぎてしまうと相続(包括遺贈)を認めたとみなされるため、意思決定はできるだけ素早く行わなくてはなりません。

なおどうしても財産調査などが間に合わない場合は、裁判所に期間の延伸(延長)を申し出ることもできます。

 

③遺産分割協議は利害関係者全員の同意が必須

遺産分割協議で遺言書と異なる内容の相続をする場合、他の相続人だけでなく受遺者(遺言書によって遺贈を受ける人)の同意も必要です。相続人だけで勝手に遺言の内容を放棄することはできないため十分に注意してください。

 

まとめ

遺言書で相続分が指定されている場合でも、指定された相続人は相続放棄をすることで遺言の内容を放棄できます。また他の相続人や受遺者の同意があれば、遺言書の内容とは異なる遺産分割も可能です。遺言書通りの相続を受けたくないという方は、ぜひこの記事を参考にして、相続放棄の手続きや利害関係者との話し合いをするようにしてください。

人気記事

横浜市で行政書士をお探しなら | 行政書士・富樫眞一事務所のご案内 image09

行政書士・富樫眞一事務所のご案内

行政書士・富樫眞一事務所の富樫眞一です。
相続する遺産や相続人の範囲は二つとして同じものはなく、相続は十人十色です。
複雑で分かりにくい法律だけでなく、人と人との関係もあるため感情的な対立になる場合もあります。

厚生省水道環境部(現環境省)や川崎市役所の公害部門勤務の中で、住民の方々から我慢の限界を超えたさまざまな苦情に対応して身についた「粘り強く丁寧に対応できる人間力」で相続のために必要な手続きを行わせていただきます。

当事務所の特徴

横浜市の相続に関するご相談は行政書士・富樫眞一事務所相続サポートへ

横浜市で相続に関する相談ができる行政書士事務所をお探しの方は、行政書士・富樫眞一事務所相続サポートをご活用ください。
相続では相続人の方によってお考えやお気持ちが異なります。行政書士・富樫眞一事務所相続サポートは、国・地方行政の実務経験による専門知識と実行力を活かし、全体を俯瞰した全体最適の方針を見定めたうえで、個別の事案解決に努めます。遺言書作成サポート、遺言執行者就任、遺産分割協議書作成、戸籍取得、相続財産の調査、遺産目録作成、相続財産の名義変更手続きなどを承りますので、お気軽にご利用いただければ幸いです。わかりやすい料金体系を採用しておりますので、安心してご依頼いただけます。

行政書士を横浜市でお探しなら行政書士・富樫眞一事務所相続サポートへ

事務所名 行政書士・富樫眞一事務所
代表者 富樫 眞一
住所 〒241-0836 神奈川県横浜市旭区万騎が原79−2
電話番号
FAX番号 045-367-7157
URL https://www.1957togashi.jp
ご相談受付時間 8:00~20:00
定休日 日曜
主なサービス 行政書士(遺産相続、廃棄物処理業許可、薬局開設・運営サポート)