遺言執行者に報酬は必要?専門家に依頼した場合の相場についても解説

相続発生後に遺言書が残されていた場合、遺言の内容を実行する「遺言執行者」が必要になります。この記事では遺言執行者に支払う「報酬」について、一般的な目安や専門家に依頼した場合の相場などを解説していきます。

 

遺言執行者とは


遺言執行者とは、遺言書に書かれている内容を実行(実現)する人のことです。なお遺言執行者になるための資格や特別な条件はありません。

 

役割・任務

遺言執行者には「相続財産の管理や遺言の執行に必要な一切の行為」が任されます。ここでは遺言者が亡くなった後の遺言執行者の行動について、時系列で見てみましょう。

①就任承諾の通知…遺言執行者に就任したことを相続人全員に通知します
②戸籍などの証明書集め…一部の証明書については相続人に取得を依頼する場合もあります
③相続財産の調査…遺言者の財産をすべて洗い出します
④登記…遺言内容に従って、不動産の名義を指定された相続人や受遺者に移します
⑤口座などの解約…金融機関に遺言者の口座がある場合、解約・払い戻しの手続きを行います
⑥株式などの名義変更…有価証券なども指定された相続人や受遺者の名義に変更します
⑦換価…財産の中に現金化が必要なものがある場合、売却手続を行います
⑧報告…すべての遺言内容を実現したら、相続人全員に完了報告を行います

なお相続人は遺言執行者に協力することはありますが、遺言執行者が行うべき業務を(依頼を受けていないのに)勝手に行うことはできません。そのような行為は無効となります。

関連記事『公正証書遺言は相続人に通知される?遺言者が死亡したらやるべきことについて解説

 

選び方は3通り

遺言執行者は原則として誰を選んでも構いません(誰を選んでも業務内容は同じです)。選び方は主に以下の3通りです。

①遺言書で指定
遺言書の中で執行者を直接指名します。ただし指名された人には指名を辞退する権利があるため、相続発生後の手続きをスムーズにするためにも、指定する相手とあらかじめよく話し合って、了承を得た上で指定することが重要です。

②相続人が依頼
遺言書で遺言執行者が指名されていない場合や、指名されていた遺言者が辞退した場合は相続人が遺言執行者を依頼することになります。このとき相続人のうちの一人が遺言執行者に就任しても構いませんが、業務にかかる手間や時間を考えると、第三者に任せた方が無難です。

③家庭裁判所が選任
家庭裁判所に相続執行者の選任を申し立てることもできます。申し立てを行えるのは相続人や受遺者、遺言者の債権者といった利害関係人です。具体的な手続きは「遺言者の最後の住所地を管轄する裁判所」に申立書と添付書類を提出して行います。手数料は収入印紙800円分です。

 

報酬は必要?

遺言執行者は誰でもなることができますが、依頼を受けた遺言執行者に報酬を支払う必要はあるのでしょうか?

結論からいえば遺言執行者には「報酬を支払います」。この報酬は遺言執行にかかる費用(証明書の取得や名義変更の手数料、交通費などの経費)とは別ですが、合わせて支払われることが一般的です。

報酬の決め方は、遺言執行者の選び方と同じで3パターンあります。

①遺言書で指定
遺言書の中に具体的な報酬金額を記載します。もちろん一方的に決めることはトラブルの原因になるため、あらかじめ双方が納得できる金額を話し合っておくことが重要です。

②相続人と協議
遺言執行者と相続人が相談して報酬額を決めることもできます。専門家に依頼する場合は、依頼先で報酬額を決めている(料金表を用意している)ことがほとんどです。

③家庭裁判所が指定
遺言執行者と相続人でどうしても話し合いがつかない場合、家庭裁判所に「遺言執行者に対する報酬付与の申立て」を行います。

関連記事『遺言が見つかったらどうすればいい?執行の手順と遺言執行者への報酬について

 

遺言執行者の報酬相場

遺言執行者を遺言で指定するにせよ、相続人が依頼するにせよ、あらかじめ「相場」を知らなければスムーズな交渉はできません。ここでは一般的な目安と専門家報酬の相場を紹介します。

 

一般的な目安

遺言執行者の報酬は、一般的に「財産総額のおおよそ1~3%」とされています。たとえば相続財産の総額が1000万円なら、遺言執行者の報酬額は10万円〜30万円程度です。もちろんこの金額はあくまで目安なので、それよりも多い(少ない)金額で合意できるならそれでも構いません。

 

専門家に依頼する場合

遺言執行者になるための「資格」はありません。このため必ずしも有資格者に依頼する必要はありませんが、一般には「相続の専門家」として弁護士、司法書士、行政書士、税理士などに依頼することが多いようです。

参考記事『遺産相続は誰に頼むのがベター?各専門家の業務範囲や費用・注意点についても解説

①弁護士に依頼する場合
法律の専門家である弁護士は、通常の相続手続から裁判での紛争解決までオールマイティに活躍します。もし遺言執行をめぐるトラブルが予想されるようなら、弁護士に依頼するのが一番確実でしょう。

ただし頼りになる分、報酬も他の専門家と比べて高めです。2004年まで利用されていた「旧弁護士会報酬基準規程」によると、相続財産の総額が300万円の場合「30万円」、3000万円の場合「62万円」、3億円の場合「354万円」が目安とされています。この規定はすでに使われていませんが、現在でもほとんどの弁護士がこれに近い報酬を設定しています。

②司法書士・行政書士に依頼する場合
司法書士と行政書士はそれぞれ業務範囲が異なりますが、どちらも相続業務に関わる専門家です。遺言執行者としての報酬相場は弁護士よりもやや安めですが、それでも多くの事務所が「30万円〜50万円」程度(相続財産総額の1%程度)に設定しています。

③税理士に依頼する場合
税理士は税金の専門家として、相続税の申告や節税対策を中心とした相続手続を行います。遺言執行者として依頼する場合の報酬相場は「30万円〜50万円」程度です。

番外編:信託銀行に依頼する場合
信託銀行でも遺言執行者としてのサービス(遺言信託)を行っています。ただし実際には「窓口」として依頼を受け付けるだけで、実際に遺言執行業務を行うのは提携する税理士などです。

このため報酬額は他の専門家よりも割高で、ほとんどの銀行で「基本手数料」と「遺言執行報酬」という2種類の報酬が必要になります。

 

家庭裁判所が決定する場合

家庭裁判所に「遺言執行者に対する報酬付与の申立て」を行う場合、裁判所では相続財産の金額や内容、相続の状況、遺言執行に伴う業務の内容や難易度、選任された遺言執行者の立場などさまざまな事情を総合的に考慮して報酬額を決定します。

ただし「このような場合はいくら」という明確な基準が用意されているわけではありません。具体的な報酬額を決めるのはあくまで裁判所の裁量です。なお裁判所が決定した報酬額に対する「不服申し立て」はできません。

 

報酬を支払うタイミング

民法では遺言執行者が「報酬を請求」できるタイミングについて、このように規定しています。

民法第648条 第2項

受任者は、報酬を受けるべき場合には、委任事務を履行した後でなければ、これを請求することができない。ただし、期間によって報酬を定めたときは、第624条第2項の規定を準用する。


これらの条文を見る限り、遺言執行者への支払いタイミングは遺言の執行が完了した後になります。しかし実際には、遺言執行者と協議したうえで「前金」などを支払うケースが多いようです。
ちなみに条文中にある「第624条第2項」の内容は、「期間によって定めた報酬は、その期間を経過した後に、請求することができる。」というものです。

 

遺言執行者の報酬を負担する人

遺言執行者に支払う報酬について、民法第1021条には次のように規定されています。

遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とする。ただし、これによって遺留分を減ずることができない。


報酬の出どころは相続財産です。つまり相続人のだれかが個人で負担するのではなく相続人全員が共同で負担することになります。実際の相続手続では、相続財産の中から遺言執行者への報酬を支払い、残った財産を相続人同士で分割するのが一般的です。

なお条文の最後に書かれている通り、遺言執行者への支払いのために相続人の遺留分を削ることは許されません。

 

まとめ

遺言執行者の役目は多岐に渡り、その責任は重大です。ですから遺言執行者を選任する際は、報酬についてもしっかり考慮する必要があります。この記事を参考にしながら、トラブルのないスムーズな相続手続を目指してください。

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