遺言にはいくつかの種類があります。この記事では「公正証書遺言」の特徴やメリット・デメリットをはじめ、被相続人が公正証書遺言を作成していた場合の相続の流れについて説明していきます。
公正証書遺言とは
遺言は大きく「普通方式遺言」と「特別方式遺言」に分けられます。この記事で取り上げる公正証書遺言は普通方式遺言の一種です。
他の遺言書との違い
公正証書遺言を作成するのは「公証人」と呼ばれる公務員です。他の遺言(普通方式遺言)は遺言者(被相続人)自身が作成するため、まずはこの点が大きな違いと言えるでしょう。
もう一つの違いは保管方法です。普通方式遺言には公正証書遺言の他に「自筆証書遺言」と「秘密証書遺言」がありますが、これらは遺言者が自宅などで保管します。これに対し公正証書遺言は公証役場で原本を保管(正本と副本は遺言者が保管)するのが特徴です。
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メリット
公正証書遺言のメリットは大きく分けて3つあります。
①法律的に整った遺言になる
遺言書の作成は法律(民法)の規定通りに行わなければなりません。しかし遺言書を作成する人のすべてが法律を理解しているわけではありません。このため自分で遺言書を作成する自筆証書遺言では法律の要件を満たさず無効とされるケースもあります。一方、公正証書遺言は法律に精通した公証人が作成するため、法律的に整った遺言を残すことができます。
②偽造や隠匿のおそれがない
公正証書遺言の原本は公証役場で保管されます。このため自筆証書遺言や秘密証書遺言のように、相続発生後に一部の相続人によって内容を改ざんされたり隠されたり(あるいは破棄されたり)する心配はありません(自筆証書遺言についても、2020年7月から法務局で遺言書を預かる「自筆証書遺言保管制度」が開始されました)。
③検認が不要
自筆証書遺言は相続発生後に「家庭裁判所の検認(遺言書の存在や内容を確認する手続き)」が必要です。一方、公正証書遺言は検認の必要がないため手間が省けます。なお自筆証書遺言の場合も、自筆証書遺言保管制度を利用すれば検認は必要ありません。
デメリット
公正証書遺言のデメリットは、作成の際に「証人2名と費用」が必要なことです。
証人は基本的に誰でも構いません(資格などは必要ありません)が、原則として自分で手配しなければなりません。行政書士などに手配を依頼する場合は1人あたり1万円程度の謝礼が必要です)。
費用は公証役場に支払う手数料で、具体的には以下の①〜⑤の合計です。
①基本手数料
次の表に基づき、相続人ごとに発生する目的財産の金額に応じた手数料を合計します。
目的財産の価格 | 手数料 |
〜100万円 | 5,000円 |
100万円超〜200万円 | 7,000円 |
200万円超~500万円 | 11,000円 |
500万円超~1,000万円 | 17,000円 |
1,000万円超~3,000万円 | 23,000円 |
3,000万円超~5,000万円 | 29,000円 |
5,000万円超~1億円 | 43,000円 |
1億円超〜3億円 | 43,000円に、5,000万円超過ごとに13,000円を加算 |
3億円超〜10億円 | 95,000円に、5,000万円超過ごとに11,000円を加算 |
10億円超〜 | 249,000円に、5,000万円超過ごとに8,000円を加算 |
②遺言加算
目的財産が1億円までは、基本手数料に11,000円を加算します。
③枚数加算
公正証書遺言の枚数が4枚を超えたときは、超えた枚数に応じて1枚あたり250円を加算します。
④交付手数料
公正証書遺言(正本・副本)の枚数に応じて1枚あたり250円を加算します。
⑤出張加算など
公証人が遺言者の指定する場所に出張する場合、以下の手数料を加算します。
病床執務加算:基本手数料の10分の5
日当:往復4時間までは1万円、4時間を超える場合は2万円
交通費:実費
公正証書遺言の遺言者が死亡したら
相続が発生したら、まずは遺言書の有無を確認する必要があります。しかし公正証書遺言を作成していても(遺言書を保管する)公証役場から連絡が来ることはありません。
公正証書遺言を見つける方法
公正証書遺言は原本が公証役場で保管され、正本と副本は遺言者に交付されます。このため相続が発生したら、まずは被相続人の自宅などで正本と副本を探すのが基本です。生前に保管場所を確認していればスムーズですが、そうでなければ金庫や仏壇、デスクの引き出しといった場所を中心に探すと良いでしょう。取引銀行に預けているケースも考えられます。
自宅で正本や副本の存在が確認できない場合や、そもそも被相続人が遺言書を作成していたかどうかわからない場合は「公証役場への問い合わせ」が有効です。
問い合わせの際は「被相続人の戸籍」「被相続人と相続人の関係がわかる戸籍」「相続人の身分証明書」を最寄りの公証役場に持参して、遺言検索の手続をします。
他の相続人に通知は必要?
公正証書遺言が見つかった場合、他の相続人にそれを伝えるかどうかは「遺言執行者が指定されているかどうか」次第です。
もし遺言執行者が事前に指定されていなければ他の相続人への通知は特に行われませんが、遺言執行者が指定されている場合、遺言執行者から相続人全員に
- 遺言執行者に就任したこと財産目録
- 遺言書の写し
- 審判書の写し(家庭裁判所で選任された場合)
などが通知されます。
遺言執行者について
ちなみに遺言執行者とは、遺言書の内容を実行する人のことです。未成年者や破産者でなければ誰でも遺言執行者になることができますが、一般には弁護士などに依頼されることが多いようです(この場合は弁護士報酬が発生します)。
遺言執行者には「相続財産の管理や遺言の執行に必要な一切の行為」が任されますが、具体的には主に以下のようなことを行います。
- 相続財産の引き渡しや管理
- 相続財産の関係書類の引き渡しや管理
- 遺言執行の妨害をする者の排除
- 遺言執行に必要な訴訟行為
- 遺言執行に必要な財産の処分や換価
これに対し、相続人は遺言執行者に協力します。たとえば遺言執行者が依頼する各種書類(戸籍など)を集めるなどです。ただし遺言執行者が行う行為を相続人が自ら行った場合、相続人の行為は無効となります。
公正証書遺言が無効になるケース
メリットのところで説明した通り、公正証書遺言は「法律的に整った遺言」なので、無効になるケースはあまり考えられません。しかしもし遺言者が重度の認知症で(本当は)遺言能力がなかったのに、公証人がそれを見抜けず公正証書遺言を作ってしまった場合は、その遺言書は後に無効とされる可能性があります。
もし公正証書遺言の内容や遺言をした当時の病状に疑問を感じているなら、調停や訴訟で遺言の無効を争うことも可能です。
関連記事『認知症でも遺言書の作成は可能?判断の目安と事前対策についても解説』
まとめ
公正証書遺言は安全性と信頼性の高い遺言形式です。これから遺言書を作成する場合は、ぜひ公正証書遺言の作成を検討してみてください。またすでに相続が始まっている場合、相続人はこの記事を参考にして、被相続人が公正証書遺言を作成していたかどうか確認してみてください。