認知症でも遺言書の作成は可能?判断の目安と事前対策についても解説

遺言書には相続がトラブルになるリスクを避ける効果がありますが、一方で被相続人が認知症を患っていた場合、遺言書そのものがトラブルの原因になることもあります。この記事では認知症の人が作成する遺言書の効力と、トラブルのリスクを減らすための方法について解説します。

 

認知症と遺言書の関係

重度の認知症にかかってしまうと、重要は決断はもちろん、日常生活における簡単な判断さえできなくなるものです。一方、遺言書の作成は重要な法律行為のひとつです。このため被相続人が認知症を患っているかどうかは、その人が作成した遺言書の効果にも大きな影響を与えます。

 

遺言書の作成には「遺言能力」が必要

そもそも遺言書の作成には「遺言能力」が必要です。この遺言能力は、次に挙げる「行為能力」と「意思能力」の二つによって構成されます。

①行為能力
行為能力とは「法律行為を単独で行える能力」のことです。民法第961条では、遺言を作成するための条件(行為能力)についてこのように書かれています。

15歳に達した者は、遺言をすることができる。


②意思能力
意思能力とは「自分の行為の結果を認識する能力」を意味しています。つまり遺言能力としての意思能力とは、自分が作成した遺言書によってどのような遺産配分が行われるかを理解できることです。

遺言者は、①の行為能力(15歳以上)と②の意思能力(遺言の効果を理解できる)が揃うことで「遺言能力がある」とみなされます。

 

「認知症=即無効」とは限らない

一般にイメージすされる認知症の人は、(行為能力はともかく)意思能力を持っていないように見えます。しかし認知症と診断されたからといって、その人の作成する遺言書が即座に無効となるわけではありません。なぜなら認知症にもさまざまな程度や段階があるからです。

実際、軽度の認知症であれば遺言書の内容を理解することは必ずしも難しくありません。また認知症の程度が重い人でも、遺言をした時点ではまだ認知症を発症していなかったり、程度が軽いというケースもあります。

認知症の人が書いた遺言書が「無効」とされるのは誰かが遺言書の無効を主張して、証拠を挙げて認知症の事実を証明できた場合だけです。

 

認知症の人の遺言能力を判断するには

遺言書を書いた人が(遺言書作成時に)重度の認知症だったかどうかは、大きく分けて「遺言作成時の心身の状態」「遺言そのものの内容」「長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」などによって判断されます。

 

遺言作成時の状況で判断

遺言作成時の状況とは、具体的には遺言作成時に重度の認知症を患っていたか、遺言能力があったかどうか(15歳以上で、遺言の効果を理解・認識していたか)ということです。

これには医学的な知識に基づく判断が必要で、(医師ではない)一般の人が簡単に分析したり証明できるようなことではありません。

 

遺言書の内容で判断

遺言書の内容による判断は、主に「内容の複雑さ」と「内容の合理性」について行われます。

まず「内容の複雑さ」とは、遺言の内容がどの程度詳細か、もしくは入り組んでいるかということです。たとえば「全財産を妻に相続させる」という内容はシンプル(単純)ですが、「不動産Aは妻に、不動産Bと自動車は息子に相続させる」であればある程度複雑な内容といえます。

このように複雑な内容の遺言を書いているのであれば、そのぶん「遺言能力がある」と考えられるでしょう。

次に「内容の合理性」については、遺言の内容に整合性があるか、被相続人と相続人の関係と遺言の内容に矛盾がないか、遺言の内容が何度も変更されるなど不自然な部分はないか、といった点を調査します。

もし遺言の内容が明らかにおかしい(合理的ではない)と判断されるなら、遺言書が無効とされる可能性があるでしょう。

 

長谷川式認知症スケールで判断

長谷川式認知症スケール(HDS-R)とは、認知機能のレベルを簡易測定する知能検査です。「歳はいくつですか?」「今日は何年の何月何日ですか?何曜日ですか?」といった簡単な質問に答えてもらい、30点満点で点数化します。

長谷川式認知症スケールでは20点以下で「認知症の疑いあり」、10点以下だと「意思能力がない」とされるのが一般的ですが、これだけで意思能力(遺言能力)の有無が決まるとは限りません。あくまで他の証拠と合わせて総合的に判断されます。

なお長谷川式認知症スケールは「物忘れ外来」や「認知症専門外来」のある病院で、医療保険を使って受けることができます。

 

認知症の人の相続対策について

被相続人が初期の認知症にかかっていることがわかった場合、相続発生時にトラブルが起きないよう事前の対策が必要です。

 

公正証書遺言を作成する

有効な対策のひとつは「公正証書遺言」を作成することです。公正証書遺言は第三者である「公証人」が作成します。公証人が遺言書を作成するのは、長谷川式認知症スケールや医師の診断書を使って遺言者に「遺言能力がある」と確認できた場合です。

つまり公正証書遺言が作成されているということは、その時点で一定の遺言能力があったことの証拠となります(ただし公正証書遺言が作成されていても後日遺言書が無効とされた例はあるため、絶対の証拠ではありません。)

 

医療記録を準備する

裁判所で遺言能力が争われた場合に備えて、遺言書と一緒に「医師の診断書」を保管しておくのも有効です。遺言能力があったかどうか(遺言書が有効かどうか)を判断するのはあくまで裁判所ですが、医師の判断は裁判所が判断を下す際の重要な参考資料となります。

 

任意後見制度を利用する

任意後見とは、あらかじめ本人自らが選んだ人(任意後見人)に、財産の管理などを依頼しておく制度です。これは遺言書の有効性とは別の話になりますが、遺言の作成後に「任意後見制度」を利用しておけば、仮に遺言後に認知症の症状が急速に悪化したとしても財産を安全に管理できます。

参考:厚生労働省WEBサイト『任意後見制度とは(手続の流れ、費用)』

 

認知症の人の遺言書に疑問がある場合

相続発生後に遺言書の有効性が疑われる場合、相続人全員の合意があれば遺産分割協議で相続分を決めることができます。ただし遺産分割協議に合意しない相続人が一人でもいれば、家庭裁判所に遺言の有効性を判断してもらうことが必要です。

 

遺言無効確認調停

遺言無効確認調停とは、相続人同士が遺言書の有効性を争う際に「裁判所に仲介(調停)してもらう」手続です。基本的には裁判所を介した話し合い、と言えるでしょう。第三者である裁判所の調停委員が間に入ることで、それぞれの主張を(ある程度冷静に)交わすことができます。

なお調停による話し合いで決着がつかない場合は「調停不成立」となり、遺言無効確認訴訟に移行します。

 

遺言無効確認訴訟

遺言無効確認訴訟は、裁判所による判断を仰ぐ「裁判」手続です。当事者双方が遺言書や医療記録などの証拠を提出してそれぞれの主張を立証し、それに基づいて裁判官が判決を下します。

なお判決はあくまで遺言書有効か無効かを判断するだけなので、仮に判決で「遺言は無効」とされた場合、相続人同士であらためて遺産分割協議を行う必要があります。

 

まとめ

認知症を患っている人の遺言は直ちに無効となるわけではありません。一方で遺言書の有効性を争う場合は遺言時の状況や遺言の内容を総合的に判断する必要があり、かなりの手間と時間がかかります。もし少しでも認知症の疑いがあれば、この記事を参考に事前対策をしっかり講じておきましょう。

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