相続をめぐるトラブルでしばしば目にするのが「離婚した前妻(前夫)との間に子供がいた」というケースです。特に前妻(前夫)との間の子が他の相続人と疎遠だったり、そもそも存在を知られていなかったような場合、遺産分割協議が進まなくなることも少なくありません。この記事ではこうしたトラブルに対処する方法について解説していきます。
相続と離婚の関係について
まず最初に、相続と離婚の関係について簡単に説明していきましょう(より詳しく知りたい場合は『離婚は遺産相続に影響する?配偶者と子それぞれの相続権について解説』もお読みください)。
離婚した配偶者に相続権はない
離婚した配偶者は「他人」です。互いの相続人になることはできません。
もともと結婚前は「他人同士」だった二人が離婚によって再び他人に戻る(親族関係を解消する)わけですから、離婚後は互いに相続人としての地位や権利をすべて失います。
離婚は子供の相続権に影響しない
ただし子供については、親の離婚しても親子関係には一切影響しません(もちろん日常生活では大きな影響を受けますが、あくまで法律上の親子関係は変わらないという意味です)。このため相続人としての地位もそのままとなります。
ちなみに日本の法律(民法)上、親子関係を解消する「縁切り」の制度は存在しません。詳しくは『遺産相続と縁切りの関係とは?特定の親族に遺産相続させない方法についても解説』をお読みください。
親が離婚した子供の相続権について
前妻や前夫との子が持つ相続権は、今の配偶者との間の子と「同じもの」でしょうか?ここではそれぞれの子同士の関係や、離婚した配偶者との間の子が持つ相続分・遺留分について説明します。
他の相続人との関係
結論から先にいうと、片親が異なる子供同士も法律上は「兄弟姉妹」です(いわゆる「腹違いの兄弟」)。このため共通の親が被相続人となる場合、通常の兄弟姉妹と同じように遺産分割が行われます。
ただし注意すべきなのは、相続人になるかどうかの判断はあくまで「戸籍」を基準に行われるという点です。たとえ被相続人と血がつながっていても、戸籍に記載されていなければ法律上の親子とはみなされませんし、他の子供とも兄弟姉妹の関係にはなりません。
仮に離婚成立後300日以上経過してから子供が生まれた場合、(仮に実際には血が繋がっていたとしても)その子は前の夫の子とみなされないため、戸籍に記載されず非摘出子になります。認知を受けない限り、非嫡出子に相続権は発生しません。
関連記事『腹違いの兄弟に遺産相続の権利はある?準備すべきことや注意点についても解説』
相続分
戸籍に記載されている限り、離婚した配偶者との間の子にも他の子と同様の相続分(法定相続分)があります。
被相続人の配偶者が健在であれば子供の法定相続分は「子供全体で全相続財産の1/2」で、それを子供の数で均等に分割します。仮に子供が(腹違いの兄弟を含めて)2人いる場合、それぞれの子供の相続分は「1/2×1/2=1/4 」となります。
一方、被相続人の配偶者がすでに亡くなっている(もしくは離婚している)場合、子供たちの相続財産は「全相続財産」です。子供が2人いれば、それぞれの相続分は「1/2」ずつです。
遺留分
子供の遺留分(法定相続人が最低限相続できる割合)は「法定相続分の1/2」になります。
先ほどと同じケースで考えると、被相続人の配偶者が健在だった場合で子供が2人いる場合、それぞれの子供の相続分は「1/2×1/2×1/2=1/8」です。被相続人の配偶者がいなければ、それぞれ「1/2×1/2=1/4 」になります。
親が離婚した子供が相続に参加する場合の注意点
法律上は他の兄弟姉妹と同じ扱いになるとはいっても、腹違いの兄弟が自分達と同じ相続分を持つことを快く思わない人は少なくありません。特に被相続人の生前に存在を知らなかったり、疎遠な関係だったりした場合はなおさらです。
このため腹違いの兄弟が相続に参加する場合は、相続人全員(特に現在の配偶者から生まれた子供)は以下の点を十分認識し、注意する必要があります。
遺産分割協議は相続人全員の参加が必要
遺産分割協議はすべての相続人が参加しないと成立しません。このため腹違いの兄弟を除外して、もしくは遺産分割協議の連絡をせずに遺産相続手続を進めることは不可能です。
仮に腹違いの兄弟に遺産相続させるつもりがなくても(相続放棄を依頼するなど)、まずは相手にきちんと連絡する必要があります。
互いに誠意を持って対応する
初対面の場合はもちろん、互いに疎遠だったり不仲だったとしても、遺産分割協議をスムーズに進めるためには相手への誠意と配慮が必要です。言葉遣い、態度、提案内容など、どれをとってもトラブルの種にならないよう細心の注意を払ってください。
もちろん相続内容に関する隠し事もNGです。どこまでが相続財産の範囲で、どんな内容なのかなど、財産目録をきちんと作成して、すべての情報を明らかにする必要があります。
いざというときは裁判所の調停を利用
それでも遺産分割の合意ができなかったり、話し合いにすらならない場合は家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。
ただし感情的な対立を余計にこじらせないためにも、裁判所を利用するのは「いざというとき」の最終手段だと考えておいたほうが良いでしょう。繰り返しになりますが、まずは話し合いでの解決を目指してください。
離婚した相手との子供に相続させない方法とは?
ここまで説明してきた通り、たとえ離婚した相手との子であっても「自分の子」である限り相続権が発生します。とはいえ「どうしても離婚した前妻(前夫)の子に相続させたくない」という場合はどうすれば良いでしょうか?
遺言書による指定
最も一般的な方法は、遺言書で相続人を指定することです。たとえば「自分の再婚相手にすべて相続させる」とか「財産をすべて(特定の団体などに)寄付する」といった遺言書を作成すれば、基本的にはその通りの遺産相続や贈与が行われます。
もちろんこの場合も相手側(子供)は遺留分減殺請求が可能です。子供にその気があれば、少なくとも遺留分に相当する額が相手に渡ることは避けられません。このため遺言書で特定の子供に相続させない場合は、遺留分侵害額請求に備えた対策が必要です。たとえば相続財産が不動産中心の場合は、遺留分侵害額に相当する金銭をあらかじめ用意しておくといったことが考えられます。
また生前贈与などを利用して相続財産を大幅に減らしておくことも有効です。ただしこの場合、年間110万円を超える贈与には贈与税がかかることと、相続開始前10年間の贈与は遺留分侵害額請求の対象になることを覚えておく必要があります。
相続放棄を依頼
できるだけ穏便に済ます方法としては「相手を説得する」ことが挙げられます。円満な話し合いを通して子供に相続放棄してくれるよう依頼し、それを相手が受け入れてくれればトラブルを避けられるでしょう。
ただし子供を脅したり騙したりして、むりやり相続を放棄させることは「違法」なので注意してください。
相続排除
特殊な条件下では「相続排除」によって、子供に相続させないことが可能です。相続排除というのは文字通り「相続人から排除する」ことで、たとえば子供が親を虐待していたり、重大な侮辱行為を行った場合、賭博などで作った多額の借金を親に肩代わりさせていたような場合に、家庭裁判所に申し立てて行います。
まとめ
離婚した配偶者との間の子供には、他の子供と同じ相続権があります。被相続人はもちろん、共同相続人になる方も今回の記事の内容を参考に、スムーズでトラブルのない相続手続を目指すようにしましょう。