相続は「争族」という言葉があるとおり、相続がきっかけで家族や親族の間でトラブルが発生するケースは少なくありません。この記事では相続がもめることの多い「9のパターン」と、トラブル回避の方法について解説します。
相続は「争族」になりやすい
人が亡くなると相続が発生します。通常は亡くなった方の配偶者や子供、親、兄弟といった「家族・親族」の中から相続人が選ばれますが、その際に相続人同士の利害や思惑が対立して裁判沙汰にまでエスカレートすることも珍しくありません。
こうしたトラブルの理由はさまざまです。単に「親族同士の仲が元々悪かった」というケースもありますが、これまで仲の良かった家族が遺産の取り合いによって険悪になることもありますし、逆に遺産の押し付け合いで対立することもあります。
いずれにしても相続のトラブルは相続人全員にとってストレスとなり、最悪の場合その後の家族関係・親族関係にも深刻な影響を与えかねません。このため被相続人を含めた関係者全員は、相続がもめることがないようできる限り手を尽くすことが大切です。
相続がもめる9のパターン
相続がもめるケースやパターンについてあらかじめ理解しておくことは、相続トラブルの回避に役立ちます。ここでは相続が「争族」になりやすい9のパターンについて見ていきましょう。
家族・親族間が不仲
相続でもめるケースの中でも特に多いのが、もともと家族同士や親族同士の仲が悪い、もしくは疎遠になっているというパターンです。
普段は互いに顔を合わせないことで微妙な関係を保っていても、相続が発生すればどうしても葬儀や遺産分割協議などで接触機会が増えてしまいます。そのような場で遺産の取り分を主張し合えば、感情的な対立がますますエスカレートしても不思議ではありません。
遺言の内容が偏っている
遺言書の内容がトラブルの原因になることもあります。具体的には、遺言書が「特定の相続人(もしくは法定相続人以外の人)にすべての財産を相続させる」といった極端な内容の場合です。
本来であれば相続人になれる(優先順位の高い)家族や親族が遺言書の指定で一切の相続財産をもらえないとすれば、その人が相続の指定を受けた人に対して不満を募らせることは想像に難くないでしょう。
なお民法では、このような場合の救済措置として「遺留分侵害請求」という制度が用意されています。これは相続分の一部(遺留分)を請求できるというものです。ただし不動産などの相続財産を請求できるわけではなく、あくまで遺留分相当の「金銭」しか受け取ることができません。
また相続を受けた人が話し合いや文書による遺留分侵害請求に応じなければ、家庭裁判所で遺留分侵害請求を行うことになりますし、場合によっては遺言無効確認調停などの裁判手続きが行われることもあります。
多額の生前贈与がある
特定の相続人や相続人以外の人に高額の生前贈与が行われている場合もトラブルになる可能性があります。たとえば遺産分割協議の場で、他の相続人が「生前贈与された分を含めて分割すべき」と主張して、感情的な対立に発展するケースなどです。
ちなみに相続人が被相続人から生前贈与を受け取っていた場合、贈与分が「特別受益」と認められ、「持ち戻し」の対象になることがあります。
特別受益とは生前贈与された財産のうち「結婚等に際して贈与されたもの」や「生計の資本として贈与されたもの(通常の扶養の範囲を超えるもの)」のことです。そして持ち戻しとは、相続発生時に特別受益分を他の相続財産に合算して、遺産分割の対象とすることです(つまり、生前贈与を受けた人の受け取り分から相殺されます)。
この際、生前贈与された利益を特別受益と認めるかどうかや、持ち戻しの金額計算でもトラブルになることがあります。
特定の相続人が被相続人の世話をしていた
特定の相続人が被相続人と同居するなどして、日常の世話をしていた場合も他の相続人との間でトラブルになるおそれがあります。特に被相続人の「介護」をしていた場合、その相続人には「寄与分」が認められ(民法904条の2)、法定相続分よりも多い遺産相続が認められることがあるからです。
よくあるトラブルとしては、「献身的な介護の事実」や「寄与分」を他の相続人が認めないというケースが挙げられます。また介護や寄与分については認めても、「相続分にどれくらい上乗せするか」でもめることもあります。
特定の相続人が財産管理をしている
特定の相続人、たとえば被相続人と同居していた家族が遺産の管理をしている場合は、遺産の取り扱いをめぐってトラブルになることもあります。
よくあるケースは「被相続人の預金を使い込む」「他の相続人に財産内容を開示しない」といったものです。たとえ意図的な使い込みでなかったとしても、一時的に借用するつもりで返しそびれてしまったり、葬儀代として引き出した現金の「余り」をそのまま着服してしまい、それを他の相続人に見咎められることもあります。
特に相続人同士が疎遠だったり、不仲だったりする場合はこうしたリスクに注意が必要です。
推定相続人に問題がある
推定相続人とは、相続が発生した際に相続人になると予想される人のことです。たとえば被相続人の配偶者は推定相続人になりますし、被相続人に子がいれば、やはり推定相続人と考えられます(子がいない場合は直系尊属が、子も直系尊属もいなければ兄弟姉妹が推定相続人です)。
この推定相続人のひとりに何らかの問題がある場合、他の相続人との間でトラブルが発生することがあります。具体的には推定相続人が認知症を患っていたり、行方不明になっているケースなどです。
このような場合、正常な遺産分割協議はできません。状況に応じて成年後見人や特別代理人の選任や、失踪宣告、不在者財産管理人の選任などが必要です。こうした手続きには手間も時間もかかるため、他の相続人が推定相続人を遺産分割協議から排除しようとするケースもあります。
想定していない相続人が現れる
相続開始後に、それまで存在を知らなかった別の相続人が判明することもあります。たとえば被相続人の隠し子や前妻との間の子が存在していたケースなどです。
もちろん隠し子や前妻との子であっても、法律上は相続人として認められます。しかし他の相続人が素直に納得するとは限らず、むしろ感情的な対立に発展してしまうケースが少なくありません。
財産調査が不十分
相続発生時の財産調査が不十分で、遺産分割協議や相続放棄をした後に「新たな財産」が判明したような場合もトラブルになります。
このようなトラブルは高額な遺産が見つかった場合に限りません。財産がごく少額だったり、借金のようなマイナスの財産だった場合も大きなトラブルに発展しがちです。
遺産のほとんどが不動産
不動産は維持管理に手間がかかります。また土地や建物を「分割」するには分筆などの手続きが必要です。このため残された財産のほとんどが不動産だった場合、誰を相続人とするかや、分割方法をめぐってトラブルになることがあります。
また「利用が難しい」不動産を相続人同士が押し付け合う、自宅などを特定の相続人がまるごと相続する際に代償分割(他の相続人の相続分を現金で支払う)の資金を用意できない、相続税の納税資金を用意できないといったケースも少なくありません。
もめる相続に対処するには
相続のトラブルを回避するには相続人同士の話し合いが欠かせません。しかし感情がもつれてしまったり互いの利害が対立するような場合には、話し合いの場を設けること自体が難しいこともあるでしょう。このような場合は、以下のような対策を行うことでトラブルの防止や解消につながることがあります。
遺言書を用意しておく
最も基本的な対策は「遺言書の作成」です。被相続人があらかじめ相続人ごとの財産を指定しておけば、少なくとも遺産分割協議で相続人同士がもめることはありません。ただし「遺言の内容が偏っている」とかえってトラブルの原因となるため、専門家に相談するなどして内容をよく吟味する必要があるでしょう。
なお遺言書には主に「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」があります。それぞれにメリット・デメリットがあるため、実際に遺言書を作成する際は専門家に相談することをお勧めします。
参考記事:『行政書士の遺言書作成費用はいくら?費用の相場や他の専門家との違いについて』
参考記事:『公正証書遺言は相続人に通知される?遺言者が死亡したらやるべきことについて解説』
家族信託を利用する
相続財産の管理や推定相続人の問題によるトラブルが予想される場合、「家族信託(民事信託)」という制度を利用することもできます。
家族信託とは、被相続人があらかじめ「信頼できる家族に財産を託す」制度です。自身が亡くなった後の財産管理や財産処分もすべて任せておくことができるため、遺言書よりも柔軟で幅広い遺産継承が可能になります。
まとめ
相続のトラブルは、その後の家族関係や親族関係に深刻な影響を与えかねません。亡くなった方を悼むはずが親族同士の罵り合いになる、仲の良かった家族が相続をきっかけに犬猿の仲になる、といった悲劇を避けるためにも、あらかじめトラブルの原因や対処方法をしっかり覚えておくようにしましょう。