相続回復請求権とはどんな権利?時効や請求の方法についても解説

相続権を持たない人が相続財産を占有している場合、本来の相続人は「相続回復請求権」という権利を行使できます。この記事では相続回復請求権の詳しい内容と権利を行使する方法について解説していきます。

 

相続回復請求権とは

相続回復請求権とは、相続権を侵害された人に認められる「権利の回復を求める権利」です。もう少し具体的にいうと、本来は相続権を持たないのに相続人のように振る舞い、相続財産を占有・支配したり処分したりする人に対して、相続財産の返還を請求するのが相続回復請求権の役割です。

権利を行使できる人

相続回復請求権を行使できる人のことを「真正相続人」といいます。これには次のような人が含まれます。

  • 遺言書の指定を受けた相続人
  • 法定相続分を有する親族

さらに、

  • 真正相続人の相続人
  • 真正相続人から財産を譲り受けた人
  • 相続財産管理人
  • 遺言執行者

なども相続回復請求権を行使できると考えられています。なお真正相続人が未成年者や成年被後見人の場合、法定代理人が代わりに権利を行使します。

 

権利行使の対象者

権利を行使される人は、相続人のように見えるものの相続人ではない人、つまり「表見相続人」です。具体的には次のような人が含まれます。

  • 相続欠格者
  • 相続廃除された人
  • 事実と異なる出生届で親子関係になった人
  • 婚姻が無効とされた配偶者
  • 養子縁組が無効とされた養子

これに加え、最高裁判所の判断によると本来の相続権を持つ「共同相続人」も、自分の持分を超えて相続財産を占有したり処分したりしている場合は相続回復請求権の対象になる可能性があります。

一方、注意すべきなのは「表見相続人(もしくは自分の相続権を超えた範囲を占有する共同相続人)」から相続財産を譲り受けた第三者は相続回復請求権の対象にはならないという点です。このような第三者に対しては所有権侵害による返還請求を行う必要があります。

 

遺留分侵害額請求権との違い

侵害された相続権を回復するという意味では、遺留分侵害額請求も相続回復請求権と似ています。

関連記事:『遺留分侵害請求権とはどのような権利?請求方法や請求を受けた場合の対応について

両者の最大の違いは、権利を行使される人の立場です。遺留分侵害額請求の対象となる人は遺言書や生前贈与などで財産を譲り受けており、管理・処分する財産に対して正当な権利を持っています。これに対し相続回復請求権の対象となる表見相続人は「相続人のように見える」だけで、実際には無権利者です。自分の相続権を超えた範囲を占有する共同相続人も、範囲を超えた部分については無権利者と同じといえます。

権利行使の内容にも違いがあります。遺留分侵害額請求では侵害された遺留分を「金銭」で精算しますが、相続回復請求権の目的は「財産自体」の返還です。

 

相続回復請求権の時効

相続回復請求権は無限に行使できる権利ではありません。民法第884条では相続回復請求権の「時効」についてこのように規定しています。

相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から5年間行使しない時は、時効によって消滅する。相続開始の時から20年を経過した時も、同様とする。


この条文によれば、相続回復請求権の時効は「(相続権を侵害された事実を知った時から起算して)5年」か「(相続開始の時から起算して)20年」のいずれかです。

ここで「相続権を侵害された事実を知った時」というのは、自分が真正相続人であること、そして表見相続人が自分の相続財産を占有していることを知った時を指します。

 

時効の援用

時効が完成した場合、表見相続人は「時効の援用」によって時効の完成を主張できます。ただし表見相続人ならだれでも時効を援用できるわけではなく、相続権の侵害について善意・無過失(占有する財産について相続権があると信じる合理的な理由がある)場合に限られます。

一方、悪意(自分に権利がないことを知っていること)で財産を占有するのは「単なる不法占拠」で、時効による保護には値しません(つまり時効の援用はできません)。

自分の相続権を超えた範囲を占有する共同相続人についても同様で、権利の侵害が善意・無過失であれば時効を援用でき、悪意であればできません。

関連記事:『遺産相続の時効とは?権利や手続きの時効について解説

 

相続回復請求権の放棄

相続回復請求権の放棄について、法律(民法)に明確な規定はありません。ただし実際に表見相続人による権利侵害が行われているケースで相続回復請求権を行使するかどうかは真正相続人の自由意志に任されるため、権利そのものを放棄するかどうかも本人の自由と考えられています(放棄を拒否する理由はありません)。

もっとも、相続開始前に相続回復請求権を放棄することは認められていません。これは相続開始前の相続放棄が認められないのと同じです。

関連記事:『相続放棄をするメリット・デメリットとは?注意点や他の選択肢についても解説

 

相続回復請求権を行使する

相続回復請求権を行使する方法は「直接請求(話し合い)」と「裁判上の請求」の2種類です。一般的にはまず直接請求を行い、話し合いで解決できない場合に裁判に移行するという流れで行われます。

 

直接請求

直接請求とひとくちにいっても、その方法はさまざまです。たとえば直接会って話し合う、電話をする、メールや手紙を出すといった方法が考えられますが、時効成立を阻止する証拠を残すためにも「内容証明郵便」を送るのがベストでしょう。

話し合いによって解決できた場合は、合意内容を書面にすることが重要です。公正証書で合意書を作成しておけば、後になって条件を蒸し返されることを防げます。

ちなみに内容証明郵便の作成方法には一定のルールがあるため、できれば行政書士などの専門家に相談して作成する(もしくは作成を依頼する)のがおすすめです。

 

裁判

相手が話し合いに応じない場合、もしくは合意できなかった場合は民事裁判による請求を行います(相続手続でよく利用される「調停」ではありません)。なおいったん話し合いで合意したものの、相手が任意の返還を行わない場合も同様です。

裁判では表見相続人(共同相続人)が相続権を侵害していることをの立証が必要です。基本的には「自分が相続人であること」と「回復を求める財産が遺産を構成していたこと」の2点について立証すれば足りるとされています。なお通常は相手側も相続権を「侵害していない」ことを立証しようとするため、あらかじめ弁護士に相談するなどして、事前の対策をしておいたほうが安心でしょう。

訴訟を提起する先は「相続開始時の被相続人の住所地を管轄する裁判所」です。真正相続人の住所地でも表見相続人や共同相続人の住所地でもないため注意してください。

裁判で出される判決(返還命令)には強制力があります。もし相手が返還に応じようとしなければ差し押さえをして、強制的な取り立てを行うことも可能です。

 

まとめ

相続した財産を表見相続人に占拠され続けるというケースは、それほど多いものではないかもしれません。しかし万一そのようなトラブルに遭遇した場合、相続回復請求権の行使によって財産を取り戻すことができます。行政書士や弁護士といった専門家を上手に活用することで、スムーズな問題解決を目指してください。

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