切りとは、親子や兄弟姉妹などと関係を断つことです。家族との関係がこじれた方の中には、相手に遺産を相続させないために「家族との縁切り」を希望するケースもありますが、そのようなことは可能なのでしょうか?この記事では縁切りと遺産相続について解説していきます。
法律に縁切り(絶縁)制度は存在しない
現代の日本に縁切りという制度は存在しません。より正確には、親子関係や兄弟関係を解消する法律上の制度はありません。このためどんなに家族関係が険悪になっても、そのことを理由に相続関係が切れたり、扶養義務をなくすことはできないのです。
戸籍と縁切りは別物
日本では家族関係が「戸籍」に記載されます。子供が生まれると親の戸籍に子が追加され、子が結婚したり養子縁組をしたりすれば、親の戸籍から子が抜けるといった具合です。また子が親の戸籍から抜ける「分籍」という制度もあります。しかし子が親の戸籍を抜けたからといって親子の縁が切れるわけではありません。
このように戸籍と、いわゆる縁切りとはまったく別物です。たとえ戸籍から抜けても親子や兄弟姉妹の関係は継続し、どちらかが亡くなれば相続人と被相続人という関係になります。
特別養子縁組について
はじめに「法律上は縁切りはできない」と説明しましたが、厳密には縁切りに近い例外的な制度は存在しています。それが「特別養子縁組」制度です。
特別養子縁組とは「子どもの福祉の増進を図るために、養子となるお子さんの実親(生みの親)との法的な親子関係を解消し、実の子と同じ親子関係を結ぶ制度」のことで、子供が15歳未満、養親となる夫婦のどちらかが25歳以上(もう一方は20歳以上)の場合に限り、子供と実親の関係を解消することができます。
とはいえ特別養子縁組はあくまで子供のための制度であって、親が子供に相続させないための制度ではないことに注意が必要です。
縁切りしたい相手に遺産相続させない方法
縁切りという方法で相続関係を断つことはできませんが、特定の相続人に財産を相続させない方法はいくつか存在します。
死因贈与
そのひとつが「死因贈与」です。具体的にはすべての財産を相続人の一部や第三者に贈与してしまうことで、相続させたくない法定相続人に財産を残さないことが可能です。
ただし法定相続人のうち、配偶者・子・直系尊属には「遺留分」という最低限の相続財産を受け取る権利があります。もし遺留分侵害額請求をされた場合、遺贈を受けた人は遺留分に相当する金額(直系尊属は法定相続分の三分の一、配偶者と子は法定相続分の二分の一)を支払わなければなりません。
遺言による指定
遺言によって相続人を指定することも可能です。相続させたくない相続人以外の相続人に財産をすべて与える旨を指定したり、逆に相続させたくない相続人を指定して「何も相続させない」などと書いておけば、結果として相手に遺産を残さないことができます。
ただし遺贈や死因贈与の場合と同じく法定相続人には遺留分が残るため、相手が留分侵害額請求をすれば相続を完全に防ぐことはできません。
遺留分の放棄
ちなみに相続人自身に遺留分を放棄してもらえば、遺留分の問題は解決します。遺留分を放棄するには以下の条件が必要です。
- 相続開始前であること(被相続人の生存中)
- 遺留分を持つ相続人自身が被相続人の住所地の家庭裁判所に申し立てること
- 申立書、被相続人と申立人の戸籍謄本、収入印紙800円分を提出すること
ただ、不仲な相続人にわざわざ本人が不利になることをしてもらうのはハードルが高いうえ、家庭裁判所では遺留分放棄に合理的な理由があるかどうかも審査されます。不仲であることだけを理由に遺留分の放棄を認めてもらうのは難しいかもしれません。
相続人廃除
「相続人廃除」をすれば、遺留分を持つ相続人から相続権を奪うことができます。相続人廃除は民法第892条と893条に規定された法律上の制度です。
892条 遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。 893条 被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。 |
廃除を請求できるのは、相続人が「被相続人に対して虐待や重大な侮辱を加えたとき」や「その他の著しい非行があったとき」です。裁判所が廃除を認めると戸籍にその旨が記載され、その人の相続権(および遺留分)は剥奪されます。
ただし廃除の効果は廃除の直接の相手に限られ、その子供への代襲相続は廃除できません。
相続欠格者
相続権を剥奪するもうひとつの制度が「相続欠格者」です。家庭裁判所の許可が必要な相続人廃除とは異なり、一定要件を満たした相続人は自動的に相続欠格者になります。民法第891条によると、条件は次の通りです。
次に掲げる者は、相続人となることができない。 1 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者 2 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。 3 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者 4 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者 5 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者 |
相続欠格者の要件はいずれも、被相続人や他の相続人の殺害(未遂を含む)や詐欺・脅迫、遺言書の偽造や隠匿といった「犯罪行為」です。逆にこのような極端な事例でもない限り、相続権を自動的に剥奪することはできないといえるでしょう。
遺産放棄によって親族との関係を断つ
ここまでは被相続人の視点で「相続させない」方法を挙げてきましたが、最後に相続人の側から相続を拒否する「相続放棄」について説明します。
相続放棄とは、遺産相続に関する一切の権利を放棄する手続きです。相続放棄をすれば現金や不動産といったプラスの相続財産はもちろん、借金などマイナスの相続財産も相続しないで済みます。
相続放棄の意思表示を行う期限は、相続の開始を知った時から3か月以内です。家庭裁判所で相続放棄が認められると「初めから相続人とならなかった」とみなされ、相続に関するあらゆる手続きから解放されます。
関連記事:『遺産相続手続に期限はある?期限を過ぎた場合の対策についても解説』
まとめ
日本では「縁切り」はできませんが、特定の相続人に遺産相続させないための手続きはいくつか存在します。どうしても財産を相続させたくない相手がいる場合は、まずはどのような手段を講じることができるのか、専門家と相談してみることをお勧めします。
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