離婚の理由はさまざまですが、もし夫婦間の不仲で離婚をする場合、お互い相手に自分の財産を相続させたくない(相続したくない)と考えるのではないでしょうか?この記事では離婚した妻をモデルに、元配偶者の相続上の権利について解説します。
離婚した妻は遺産相続できない
配偶者には相続権があります。妻や夫は他の法定相続人の優先順位にかかわらず、常に相続人になる権利を持っています。では夫婦が離婚した場合、配偶者の相続権はどうなるのでしょうか?
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離婚すると法律上は「他人」
夫婦が互いに相続権を持つのは、あくまで結婚している間の話です。もともと「他人」であった男女が結婚すると婚姻関係が発生して「親族」になりますが、離婚をすると婚姻関係は将来に向かって解消され、夫婦は再び「他人」同士に戻ります。
たとえ元配偶者であろうと他人は相続人になれません。相続権が与えられるのは「血族」か「姻族」なのに対し、元妻(あるいは元夫)はどちらでもないからです。
離婚した妻との子供は相続人になる
一方、離婚した配偶者との間に生まれた子供は、夫婦どちらにとっても「血族」です。親同士の関係が切れても子供との血縁関係は切れないため、離婚した妻(夫)との子供はその後も相続人であり続けます。
なお相続権は親権とは関係ありません。もし子供を母親が引き取り、父親との交流がその後断たれてしまったとしても、親子関係と相続の権利は残り続けます(むしろ法律上、親子の縁を切ることはできません。詳しくは『遺産相続と縁切りの関係とは?特定の親族に遺産相続させない方法についても解説』もお読みください)。
ここで気になるのが、元配偶者との子供と、現在の子供それぞれの相続権の関係です。
単純に「親子関係(血縁関係)」として考えた場合、片親が違ったとしても自分の子供との関係性は変わりません。たとえば元妻との間に生まれた子供がひとり、現在の妻との間に生まれた子供がひとりいる場合、この「腹違いの兄弟」の相続分はまったく同じになります。この場合、それぞれの子供が誰と暮らしているか、誰に扶養されているかは関係ありません。
またそれぞれの子供にさらに子(親からみると孫)がいる場合、子供が先に亡くなれば代襲相続が発生し、その子(孫)に相続権が移ります。
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遺産相続できる法定相続人の範囲
離婚した妻(夫)には相続権がないと説明しましたが、そもそも相続権とはいったいどのようなものでしょうか?
日本では相続の権利を持つ人のことを「法定相続人」と呼びます。法定相続人の範囲は民法によって限定され、しかも被相続人とのつながりの深さに応じて相続の優先順位が設定されています。
民法第887条
被相続人の子は、相続人となる。 2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。 3 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。 |
まず優先順位の第一位は「子」です。すでに説明した通り、この「子」には現在の配偶者との子だけでなく、元配偶者との子も含まれます。なお親よりも先に子が死亡した場合、法定相続人の権利はさらにその子(被相続人からみて孫)をはじめとする、直系の子孫に引き継がれます。これが「代襲相続」です。
民法第889条
次に掲げる者は、第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。 ①被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。 ②被相続人の兄弟姉妹 2 第887条第2項の規定は、前項第2号の場合について準用する。 |
子(や直系の子孫)がいない場合、優先順位の第二位として「直系尊属」が相続人となります。これは具体的にはm両親や祖父母、曽祖父母などのことです。ただし「親等の異なる者の間では、その近い者」とあるため、両親と祖父母が全員存命の場合、より関係の近い両親が相続人となります。
被相続人の「兄弟姉妹」は優先順位の第三位です。直系の子孫も直系尊属もいない場合は兄弟姉妹が相続人となりますが、兄弟姉妹が子を残して亡くなっていた場合、その子が代襲相続します。
民法第890条
被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第887条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。 |
そして最も優先順位の高い相続人が「配偶者」です。配偶者は他の相続人の有無にかかわらず常に相続人となります。つまり子供がいる場合は「配偶者と子」、子供がいなければ「配偶者と直系尊属」、子も直系尊属もいなければ「配偶者と兄弟姉妹」が相続人になるということです。
ただし「内縁の妻」や「事実婚の配偶者」は民法890条の配偶者と認められません。もちろん「離婚した妻(夫)」も同じです。
なお、法定相続人それぞれの相続割合は以下のようになります。
相続人 | 相続順位 | 法定相続分 |
配偶者 | 常に相続 | 相続財産の1/2 |
子 | 第一位 | (すべての子を合わせて)相続財産の1/2 |
直系尊属 | 第二位 | (同じ親等の相続人を合わせて)相続財産の1/3 |
兄弟姉妹 | 第三位 |
(すべての兄弟姉妹を合わせて)相続財産の1/4 |
離婚した妻に遺産相続させる方法
ここまでで、離婚した妻(夫)は相続人にならないことと、法定相続人の種類について説明してきました。配偶者は常に相続人になりますが、それは結婚関係が続いている間に限られます。
しかし離婚の理由はさまざまです。中には止むを得ない理由で離婚したものの、心情的には関係が切れていないケースもあることでしょう。では離婚した配偶者に遺産を相続させる方法はあるのでしょうか?
遺言書で指定する(遺贈)
離婚した配偶者を「相続人にする」ことはできませんが、少なくとも遺言書で財産の受取人を指定する「遺贈」という方法で遺産を渡すことは可能です。たとえば遺言書に「○○(元配偶者の名前)に△△(財産の指定)を遺贈する」と書けば、その内容で遺贈が行われます。
ただし法定相続人がいるにもかかわらず財産の大半(あるいはすべて)を遺贈してしまうと、当然ながら他の相続人とのトラブルが発生しかねません。そもそも法定相続人には「遺留分」という最低限の財産を受け取る権利があるため、もし遺留分侵害額請求を起こされたら、遺贈を受けた元配偶者は遺留分に相当する金額を支払う必要があります。
生前贈与をする
生前に財産の一部を贈与するという手段もあります。生前贈与は贈与税の対象となりますが、年間110万円以内の贈与であれば課税されません。毎年少しずつ贈与を続けることで、結果としてまとまった額の財産を与えることも可能です。
まとめ
離婚した妻や夫は相続人の地位を失います。ただし離婚した配偶者との間に生まれた子供は、現在の配偶者との子供と同順位の相続人です。家族関係が複雑になると相続関係も複雑化するため、将来の(あるいはすでに発生している)相続について不安や疑問があれば、ぜひ専門家に相談してください。