遺産分割請求権に時効はある?権利を行使する方法と注意点について解説

相続が発生したときに複数の相続人がいる場合、すべての相続人に「遺産分割請求権」が発生します。この記事では遺産分割請求権の内容と行使の条件、遺産分割請求から遺産分割協議の流れまでを説明していきます。

 

遺産分割請求権について

被相続人の死亡時に相続人が複数いる場合、それぞれの相続人は遺産分割請求権という権利を行使できます。まずは遺産分割請求権とはどのようなものかを見ていきましょう。

 

遺産分割請求権とは?

遺産分割請求権は、民法民法第907条第1項に基づく権利です。

共同相続人は、次条第1項の規定により被相続人が遺言で禁じた場合又は同条第2項の規定により分割をしない旨の契約をした場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。


相続発生時に複数の相続人(共同相続人)がいる場合は、被相続人が遺言で遺産分割の方法を定めていた場合や遺産の分割を禁止した場合、あるいは相続人同士で「遺産分割をしない」という契約をした場合を除き、いつでも遺産分割協議を要求できます。

相続人のひとりが遺産分割請求権を要求した場合、他の相続人は遺産分割協議の話し合いに参加しなければなりません。

 

遺産分割請求権の期限

相続手続にはさまざまな「期限(時効)」がありますが、遺産分割請求権にも、遺産分割協議にも期限は存在しません。このため相続開始から数年経過後に、相続人同士で遺産分割を話し合うことも可能です。

関連記事:『遺産相続の時効とは?権利や手続きの時効について解説

 

遺産分割請求権の消滅

遺産分割請求権や遺産分割協議に時効はありませんが、遺産分割協議が成立して相続人すべてが署名・捺印した場合、その時点で遺産分割請求権は消滅してしまいます(遺産分割協議のやり直しについては後ほど説明します)。

 

遺産分割請求権を行使しないデメリット

遺産分割請求権を行使しない、もしくは遺産分割協議を行わないこと自体にペナルティはありません。ただし遺産分割協議を先延ばしにすることは相続税申告の際に大きなデメリットとなります。

相続税は「相続開始後10か月以内」に申告・納付が必要です。もしそれまでに遺産相続協議が成立していなければ、未分割のまま(民法に規定された法定相続分に従って)仮申告を行わなくてはなりません。もし期限内に申告をしない場合、本税に加えて無申告加算税と延滞税が課されます。

もちろん仮申告にもデメリットがあります。仮に遺産分割協議が成立していれば相続税の特例(配偶者控除、小規模宅地の特例、農地等の納税猶予など)を利用できた場合でも、仮申告ではこれらの特例が適用できず、相続人の税負担が大きくなってしまうのです。後日に遺産分割協議が成立した場合は相続人それぞれの実際の相続額に基づいた修正申告も必要となります。

また相続登記の義務化に伴なう罰則も無視できません。現時点では不動産を相続した際に相続登記(名義変更)をしなくても特にペナルティはありませんが、2024年4月から「相続登記の義務化」が実施されると、3年以内に相続登記をしなければ最高10万円の過料が課される可能性もあります。

このように遺産分割協議を行わないことのデメリットは決して小さくないため、他の相続人が遺産分割協議を進めようとしない場合は積極的に遺産分割請求権を行使した方がよいでしょう。

 

遺産分割請求〜遺産分割協議の流れ

遺産分割請求権の行使から遺産分割協議の成立までの流れについて説明します。

 

遺産分割請求権の行使

相続人であればだれでも遺産分割請求権を行使できます。権利の行使に特別な方法はなく、基本的には他の共同相続人に遺産分割協議をしたいと申し出るだけです。

なお相続人がだれも遺産分割請求権を行使しようとしない場合、相続人の債権者は「権利を保全」するために、本人に代わり遺産分割協議を申し立てることが可能です(債権者代位)。

 

遺産分割協議の方法

遺産分割協議は相続人全員で行うのが原則です。当事者すべてが納得するのであれば、どのような割合で遺産分割をしても問題ありません。

ちなみに未成年者や成年被後見人は遺産分割協議に参加できないため、未成年者が相続人の場合は原則として親権者が法定代理人として、また成年被後見人の場合は成年後見人が本人に代わって遺産分割協議を行います。

ただし親権者や成年後見人本人も共同相続人に含まれる場合は利益相反行為になってしまうため、「特別代理人」を選任しなければなりません。

関連記事:『特別代理人が必要なケースとは?選任の手続きについても解説

 

遺産分割協議の成立要件

遺産分割協議は次の要件をすべて満たすことで成立します。

  • 相続人と相続財産がすべて確定していること
  • 相続人すべてが協議に参加していること
  • 相続人に未成年者がいる場合は法定代理人か特別代理人が選任されていること
  • 相続人に成年被後見人がいる場合は成年後見人か特別代理人が選任されていること
  • 相続人すべての合意が得られること

遺産分割協議で合意が得られたら、その内容を書面(遺産分割協議書)にして相続人全員が署名し、実印で捺印します。

 

協議が成立しない場合

遺産分割協議で話し合いがまとまらない場合、もしくは相続人の一部と連絡がとれず協議が成立しない場合、民法第907条第2項の規定に従って「遺産分割調停」を申し立てることができます。

遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。


遺産分割調停の申立先は家庭裁判所です。ただし相続人同士が離れた地域に住んでいる場合は「相手方のうちの一人の住所地の家庭裁判所」で申し立てを行います。

調停では家庭裁判所の調停委員が当事者双方の間に入り、事情を聞いたり資料の確認や相続財産の調査などを行い、「解決案」や話し合いについての「アドバイス」を行います。ただしあくまで「相続人同士の話し合い」なので、家庭裁判所が強制的に判断をまとめることはできません。

調停で話し合いがつかない場合(調停が不成立の場合)は自動的に審判手続に移行します。審判によって出される決定には法的強制力がありますが、それでも不服がある場合は2週間以内に「即時抗告」をしてさらに争うことも可能です。

 

遺産分割協議のやり直しについて

遺産分割協議がいったん成立すると遺産分割請求権は消滅しますが、これは「遺産分割協議のやり直しができない」という意味ではありません。確かに相続人が単独で協議のやり直しを主張することはできませんが、一定の要件を満たせば協議をやりなおすことが可能です。

また重大な錯誤や詐欺、強迫といった手段で遺産分割協議が行われた場合は、相続人全員の合意がなくても「遺産分割協議の取り消し」を主張して協議をやり直せます。

 

「取消権」の時効に注意

遺産分割協議に時効はないため、遺産分割協議のやり直しにも時効はありません。ただし「取消権」には時効があります。具体的には、遺産分割協議の取り消しを主張できるのは「追認をすることができる時(取り消しができると知った時)から5年間」です。

 

協議をやり直すための条件

遺産分割協議のやり直しが認められるのは、次のいずれかの要件を満たした場合です。

  • 相続人全員の合意
  • 新たな相続財産の発見
  • 遺産分割協議が無効になる
  • 遺産分割協議が取り消される

なお遺産分割協議の無効や取り消しを主張するには証拠の立証などが必要になるため、できるだけ弁護士に相談して行う必要があるでしょう。

 

やり直しをする場合の注意点

遺産分割協議のやり直しは、原則として相続人同士の間だけで有効です。最初の遺産分割協議の後に財産を譲り受けた(買い受けた)第三者などには影響しません。

また遺産分割協議をやり直すことによって、当初の相続税のほかに贈与税や所得税などが発生する可能性もあります。最初の遺産分割協議のあとに相続登記(不動産の名義変更)をしていれば、それもやり直しになるため登録免許税も発生します。

遺産分割協議のやり直しを決定する際は、こうしたデメリットもしっかり考慮しなければなりません。特に税金については、あらかじめ税理士に相談するなどして慎重に判断することが必要です。

 

まとめ

相続人には遺産分割請求権があり、いつでも他の相続人に遺産分割協議を要求できます。相続が発生したらできるだけ早めに権利を行使して、相続人全員で話し合いをすることがお勧めです。専門家を上手に活用しながら、スムーズで失敗のない相続手続を目指すようにしましょう。

人気記事

横浜市で行政書士をお探しなら | 行政書士・富樫眞一事務所のご案内 image09

行政書士・富樫眞一事務所のご案内

行政書士・富樫眞一事務所の富樫眞一です。
相続する遺産や相続人の範囲は二つとして同じものはなく、相続は十人十色です。
複雑で分かりにくい法律だけでなく、人と人との関係もあるため感情的な対立になる場合もあります。

厚生省水道環境部(現環境省)や川崎市役所の公害部門勤務の中で、住民の方々から我慢の限界を超えたさまざまな苦情に対応して身についた「粘り強く丁寧に対応できる人間力」で相続のために必要な手続きを行わせていただきます。

当事務所の特徴

横浜市の相続に関するご相談は行政書士・富樫眞一事務所相続サポートへ

横浜市で相続に関する相談ができる行政書士事務所をお探しの方は、行政書士・富樫眞一事務所相続サポートをご活用ください。
相続では相続人の方によってお考えやお気持ちが異なります。行政書士・富樫眞一事務所相続サポートは、国・地方行政の実務経験による専門知識と実行力を活かし、全体を俯瞰した全体最適の方針を見定めたうえで、個別の事案解決に努めます。遺言書作成サポート、遺言執行者就任、遺産分割協議書作成、戸籍取得、相続財産の調査、遺産目録作成、相続財産の名義変更手続きなどを承りますので、お気軽にご利用いただければ幸いです。わかりやすい料金体系を採用しておりますので、安心してご依頼いただけます。

行政書士を横浜市でお探しなら行政書士・富樫眞一事務所相続サポートへ

事務所名 行政書士・富樫眞一事務所
代表者 富樫 眞一
住所 〒241-0836 神奈川県横浜市旭区万騎が原79−2
電話番号
FAX番号 045-367-7157
URL https://www.1957togashi.jp
ご相談受付時間 8:00~20:00
定休日 日曜
主なサービス 行政書士(遺産相続、廃棄物処理業許可、薬局開設・運営サポート)