特別代理人が必要なケースとは?選任の手続きについても解説

相続手続では、相続人が一定の条件に当てはまる場合に「特別代理人」を選ぶ必要があります。この記事では特別代理人の概要や特別代理人が必要とされるケース、そして特別代理人の選任手続きについて解説していきます。

 

相続手続と特別代理人について

未成年者や成年被後見人が相続人になる場合、「特別代理人」が必要になることがあります。特別代理人は本人の代理として相続手続を行うため、家庭裁判所によって選任される人です。

ただし特別代理人は、すべての未成年者や成年被後見人にとって必要というわけではありません。特別代理人が必要となるのは「利益相反行為」が発生する場合です。

 

利益相反行為とは

利益相反行為とは、本人と代理人との間で利害が対立するケースのことです。

まず大前提として、未成年者や成年被後見人は法律上「制限行為能力者」と呼ばれ、単独で法律行為をすることができません。この法律行為には、遺産分割協議への参加や相続放棄の手続きも含まれます。もし未成年者が相続人になった場合は未成年後見人が、成年被後見人が相続人になった場合は成年後見人が代理人として相続手続を行う必要があります。

ここで問題になるのが、親などの身近な親族が未成年後見人(あるいは成年後見人)となるケースです。代理人と代理される人の両方が相続人であれば、一方の利益は他方の不利益になります(親が「代理人」として子の相続放棄を行い、財産を独り占めしてしまうなど)。

また未成年者と未成年後見人との間で利害の対立がなくても、兄弟姉妹など複数の未成年者が相続人となるケースでは同じ人が全員の代理人となることで利益相反行為が発生します(特定の相続人の利益となる行為が、他の相続人にとって不利益になってしまうため)。

裁判所WEBサイト『特別代理人選任(親権者とその子との利益相反の場合) | 裁判所』では、利益相反行為の例として以下のケースを挙げています。

①夫が死亡し,妻と未成年者で遺産分割協議をする行為
②複数の未成年者の法定代理人として遺産分割協議をする行為
③親権者の債務の担保のため未成年者の所有する不動産に抵当権を設定する行為
④相続人である母(又は父)が未成年者についてのみ相続放棄の申述をする行為
⑤同一の親権に服する未成年者の一部の者だけ相続放棄の申述をする行為
⑥後見人が15歳未満の被後見人と養子縁組する行為

これらは、あくまで利益相反行為の一例です。自分たちのケースが利益相反行為に該当するかどうかよくわからない場合や、判断に不安がある場合は、あらかじめ相続の専門家に相談するのが安心でしょう。

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特別代理人の役割

利益相反行為が発生するケースでは未成年後見人や成年後見人は代理行為を行えないため、代わりに家庭裁判所が「特別代理人」を選任します(なお成年被後見人と成年後見人の場合、後見監督人が選ばれていれば特別代理人は必要ありません)。

特別代理人が代理行為を行えるのは、選任の際に書面上で指定された手続きだけです。たとえば「遺産分割協議」だけのために選ばれた特別代理人なら、遺産分割協議以外の法律行為は代理できません(これに対し未成年後見人や成年後見人などは、利益相反行為に該当しない限り「包括的な代理権」を持っています)。

特別代理人が代理する相続手続の一例は以下の通りです。

  • 遺産分割協議への参加
  • 遺産分割協議書への署名・押印
  • 相続登記
  • 預金の払い戻し
  • 相続放棄の申述

なおあらかじめ定められた手続きが終了すると、特別代理人の任務も終了となります。

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特別代理人の選任を申し立てるには

特別代理人を選任するための条件と手順は以下の通りです。

 

選任されるための資格

特別代理人になるための資格は特にありません。未成年者や成年被後見人と利益相反行為にならない関係の人であれば、原則として誰を候補者にしても構いません。たとえば法定相続人以外の親族や友人などの中から候補者を選ぶのが一般的でしょう。

ただし特別代理人を選任するのは、あくまで家庭裁判所です。家庭裁判所では「未成年者(被後見人)との関係や利害関係の有無などを考慮」して適格性を判断しますが、もし申立人が希望した候補者にが「適任ではない」と判断された場合、その人は特別代理人になることができません。

なお特別代理人の候補者に指名できる親族や友人がいない場合や、あえて第三者を特別代理人にしたい場合、弁護士や行政書士などの専門家に就任を依頼することもできます。自分で専門家に依頼するのが難しい場合は、申立書に候補者の名前を書かない(空欄のままにする)ことで「家庭裁判所に選んでもらう」ことも可能です。

 

申立人

保護対象が未成年者の場合は「親権者」もしくは「利害関係人」、被後見人の場合は「利害関係人」です。

 

申立先

未成年者や被後見人の住所地を管轄する家庭裁判所です。

 

必要書類

申し立てに必要な書類は「申立書」と「添付書類」です。まず基本となる申立書は裁判所のWEBサイトからダウンロードできます。

  • 特別代理人選任申立書(記入例)

添付書類は「利益相反行為の種類」によって異なりますが、標準的なものとしては以下の通りです。

  • 未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 親権者又は未成年後見人の戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 特別代理人候補者の住民票又は戸籍附票
  • 利益相反に関する資料(遺産分割協議書案など)
  • (利害関係人からの申立ての場合)利害関係を証する資料

具体的なケースごとに必要な書類については家庭裁判所に確認するか、専門家に相談することをお勧めします。

 

費用

以下の費用を収入印紙で納めます。

  • 800円分(対象者1人につき)
  • 連絡用の郵便切手(申立先の家庭裁判所によって変わるため、それぞれの家庭裁判所のWEBサイトで確認するか、直接の問い合わせて確認してください)

選任の流れ

特別代理人選任の流れは以下の通りです。

①家庭裁判所に申立て(書類提出)
②裁判官による審理と書面審査
③参与員による聴き取り
④裁判官による審問
⑤裁判官による審判
⑥家庭裁判所から審判結果の通知

①の申立てから⑥の通知までの期間はおよそ1〜3か月とされています。相続手続の中には期限が設定されているものもあるため、利益相反行為の発生が予想される場合はできるだけ早いタイミングで特別代理人の選任を申し立てる必要があるでしょう。

関連記事:『遺産相続の時効とは?権利や手続きの時効について解説

 

まとめ

未成年者や成年被後見人が相続人になる場合、もし利益相反行為が発生するようであれば特別代理人の選任が必要です。利益相反行為が発生しているかどうか判断できない場合や、だれを特別代理人の候補者にすればよいかわからない場合は、ぜひ行政書士などの専門家に相談してみてください。

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