相続手続の中には「期限」を決められているものがあります。では、もし期限内に手続きを行わなかった場合、相続人にはどのようなペナルティが与えられるのでしょうか。この記事では相続期限のある手続きの内容と期限を経過した場合のペナルティ、そして期限を過ぎた後に行える対策について説明します。
相続手続によって期限は異なる
ひとくちに相続手続といっても。その内容や手続きの期限はさまざまです。ここではまず、どのような手続きに期限が設定されているか確認しましょう。
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期限のある相続手続の例
『相続放棄』
期限が短い相続手続の筆頭が「相続放棄」です。民法第915条第1項によると「自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内」に手続きを行わなくてはなりません。つまり被相続人の死亡に立ち会っていた(もしくは死亡後すぐにその事実を把握していた)なら、その日から3か月で手続きの期限が満了してしまいます。
相続放棄をするかどうかすでに決めている場合や、すぐに決断できる場合は特に問題ありませんが、「相続財産を調査してから決める」場合は急いで行動する必要があるでしょう。
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『準確定申告』
準確定申告の期限は、所得税法第124条第1項の中で「その相続の開始があつたことを知つた日の翌日から四月を経過した日の前日まで」とされています。
準確定申告が必要なのは以下の場合です。
- 被相続人が事業を営んでいた場合
- 一定以上の副収入があった場合
- 給与額が2,000万円以上だった場合
- 確定申告をすることで還付金を受けられる場合
『相続税申告』
相続税申告の期限は、相続税法第27条によると「その相続の開始があつたことを知つた日の翌日から10月以内」です。10か月というと比較的余裕があるように感じるかもしれませんが、相続税の申告は正確な財産調査や遺産分割協議が前提となります。相続開始後すぐに行動を開始しないと間に合わなくなる可能性もあるため、十分注意が必要です。
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『相続税の還付請求』
相続税の還付請求(相続税を払い過ぎた際に相続税額の更正を求める手続き)は、国税通則第23条によると「当該申告書に係る国税の法定申告期限から五年以内」、つまり相続税申告の期限から5年以内に行う必要があります。
ただしこれには例外があって、
- 申告後に当該財産の分割が行われ、相続財産の額が変わった
- 認知や相続人の排除、およびその取り消しによって相続人の数が変わった
- 遺留分侵害額請求が行われ、相続財産の額が額が変わった
- 遺贈を定めた遺言書が見つかった、あるいは遺贈の放棄があった
などの場合は「4か月以内」の手続きが必要です(相続税法第32条より)。
『遺留分侵害額請求権』
遺留分侵害額請求権を行使できるのは、民法第1046条によると「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間」です。加えて、何らかの事情で相続の開始などを知らないままの場合は「相続開始の時から10年を経過したとき」に権利が消滅します。
関連記事『遺留分侵害請求権とはどのような権利?請求方法や請求を受けた場合の対応について』
『相続回復請求権』
相続回復請求権の期限は、民法884条によると「相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から5年間」もしくは「相続開始の時から20年を経過したとき」です。
関連記事『相続回復請求権とはどんな権利?時効や請求の方法についても解説』
『埋葬料・葬祭費の請求』
国民健康保険や後期高齢者医療制度の加入者が亡くなった場合に支払われる「埋葬料」や「葬祭費」を請求できるのは、「葬祭を行った日の翌日から2年以内」です。
『生命保険の請求』
被相続人が加入していた生命保険の受取手続は、保険会社にかかわらず「被保険者が亡くなった日から3年間」が受取期限です。なおかんぽ生命の場合は3年ではなく「5年」が期限となります。
期限のない相続手続の例
『遺産分割協議』
意外に思われるかもしれませんが、遺産分割協議には期限がありません。ただし相続税が発生する場合、具体的には相続財産の金額が基礎控除額を上回りそうな場合は、相続税の申告期限(相続開始を知った日より10か月)より前に遺産分割協議を終わらせておくほうがよいでしょう。
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『遺産分割請求権』
遺産分割協議の開催を要求する遺産分割請求権にも期限は設けられていません。ただしこちらも上記と同様、相続税の発生が見込まれる場合は相続税申告期限よりも十分前もって行う必要があります。
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『預貯金の名義変更手続』
銀行などの金融機関で行う相続手続(口座の凍結〜名義変更・払い戻し)も、法律上の期限はありません。ただし相続税申告の必要がある場合は早めに手続きをする必要があります。また銀行預金の時効は5年(信用金庫・労働金庫・信用共同組合は10年)のため、権利を失わないためにも早めに手続きしたほうがよいでしょう。
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相続登記について
不動産を相続した場合、「相続登記」という相続手続が必要です。相続登記にはこれまで申請期限がありませんでした。その結果多くの不動産が登記されないまま放置され、現在では日本中に「持ち主不明」になっている土地や建物が数多く存在しています。
この問題を解決するため、2021年4月28日に民法や不動産登記法などの改正法が公布されました。改正後は「取得を知った日から3年以内」に相続登記をしなければなりません。
改正法は「公布から2年以内に施行」されるため、遅くとも2023年4月28日までに相続登記が義務化されます。違反した場合はペナルティが発生するため十分注意が必要です。
相続手続の期限が過ぎた場合のペナルティ
相続手続の期限が経過してしまった場合、相続人にはさまざまなペナルティやデメリットが発生する可能性があります。ここでは想定されるペナルティをいくつか紹介します。
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権利の消滅
相続手続のペナルティでもっとも多いのが「権利の消滅」でしょう。具体的には「相続の開始を知った日から3か月が経過すると相続放棄ができなくなる」といった具合です。
権利が消滅するのは相続放棄のほか、遺留分侵害額請求権、相続回復請求権などが挙げられます。また相続税の還付請求や埋葬料・葬祭費の請求、保険金の請求の場合、期限が経過すると請求できなくなる(=受け取れたはずのお金を受け取れなくなる)ことがペナルティといえます。
罰則
ペナルティには権利を失うだけでなく、罰則が発生するものがあります。たとえば2024年4月から施行される相続登記の義務化の場合、3年以内に登記を完了しないと「10万円以下の過料」です。
相続税申告も同様ですが、こちらは「期限内に申告しない」場合と「申告後に納付しない場合」とで、それぞれ以下のペナルティが発生します。
ルール違反の内容 | ペナルティ | 税率 |
期限内に申告しない | 無申告加算税 | ※税務署の調査を受ける前に自主的に期限後申告をした場合はどちらも5% ※調査の事前通知の後に申告した場合は、50万円まで10%、50万円を超える部分は15% |
申告後に納付しない | 延滞税 | 納期限の翌日から2か月以内は年7.3% 納期限の翌日から2か月を超える場合は14.6% |
同様に準確定申告も、申告期限を過ぎた場合は無申告加算税や延滞税が発生するため注意が必要です。
相続手続の期限が過ぎた場合の対策
期限が過ぎると権利が失われるタイプの相続手続は、いったん期限が過ぎてしまったらそれまでです。相続放棄については例外もありますが、よほどのレアケースです(詳しくは『相続放棄できる期間はどれくらい?期間を延長できる可能性についても解説』をご覧ください)。
相続税や準確定申告の申告や納付は期限経過後も手続きを行えますが、無申告加算税や延滞税が加算されるうえ、「相続税の期限後申告書」などの追加提出も必要です。こまかな手続きについては税理士などに相談するとよいでしょう。
相続手続の期限が過ぎてしまうとさまざまなペナルティが発生します。ほとんどのペナルティは「挽回できない」ため、必ず期限内に手続きをしてください。