少子高齢化と核家族化が進む日本では、「一人暮らしで身寄りのない人」が増えているといいます。そのような方が死亡して場合、持ち家を含む財産は誰に引き継がれるのでしょうか。今回は身寄りのない人の相続手続について説明します。
身寄りのない人と相続人の関係
「身寄りがない」とは、一般に家族や親族のような身近な人が一人もいないことを意味します。では身寄りがない人が亡くなった場合、誰がその人の相続人になるのでしょうか。
法定相続人の範囲は決められている
「相続人」というのは、誰でも自由になれるものではありません。民法第887条から第890条では、法律上の相続人(法定相続人)の範囲を次のように指定しています。
民法(条番号) | 相続人(被相続人との関係) | 相続順位 |
第890条 | 配偶者 | 常に相続人 |
第887条第1項・第2項 | 子(亡くなっている場合は孫などの直系卑属) | 第1位 |
第889条第1項第1号 | 直系尊属(父母、祖父母など) | 第2位 |
第889条第1項第2号・第2項 | 兄弟姉妹(亡くなっている場合はその子) |
第3位 |
ここにある通り、法定相続人になれるのは一定範囲内の親族のみです。ただしこれらの親族が全員相続人になるわけではなく、相続発生時に生きている親族のうち優先順位の一番高い人が相続人に指名されます(同順位の親族が複数いる場合は全員が「共同相続人」となります)。
つまり身寄りのない人(=家族や親族のいない人)には、法定相続人が存在しません。
関連記事:『相続人の範囲はどこまで?それぞれの相続順位と法定相続分についても解説』
遺言書による相続人の指定も可能
遺言による相続人の指定も可能です。たとえ身寄りのない人であっても、あらかじめ遺言書で持ち家などの相続人を指名すれば「相続人が不在」という事態は避けられます
ただし遺言書で相続人を指定しても、それによって法定相続人が排除されるわけではありません。
身寄りのない人の持ち家は国庫に入ることも
亡くなった人に身寄りがなく、しかも遺言書も残していない場合、持ち家などの財産は最終的に「国庫」に入る、つまり国のものになります。
もちろん未返済の借金や未払金がある場合はそちらの返済が優先です。また特別縁故者(亡くなった方と特別に親しかった人)がいるなら、その人に財産が分与されることもあります。
こうした手続きを行うのは家庭裁判所が選任する「相続財産管理人」です。このため身寄りのない人が亡くなった後、誰かが相続財産管理人の選任を(家庭裁判所に)申し立てない限り、その人の財産は放置されたままになる可能性もあります。
ちなみに相続財産管理人の権限は、原則として「存行為及び物や権利の性質を変えない範囲で行われる利用・改良行為」のみです。持ち家を含む不動産の売却はこれに含まれませんが、家庭裁判所から許可を受けることで、「権限外行為」として不動産の売却や処分などが認められます。
関連記事:『一人っ子の遺産相続は何に注意すればいい?税金対策についても解説』
身寄りのない人が死亡した後の流れ
身寄りのない人の相続手続は、通常の相続手続とは多少異なる手順で進められます。ここではおおまかな相続手続の流れについて、時系列で説明します。
関連記事:『孤独死は相続手続に影響する?手続きの流れから注意点までまるごと解説』
①相続財産管理人の選任
まず最初に必要となるのが「相続財産管理人」の選任です。選任そのものは家庭裁判所が行いますが、そのためには誰かが家庭裁判所に選任の申し立てを行わなくてはなりません。相続財産管理人の選任を申し立てることができるのは、
- 利害関係人(被相続人の債権者,特定遺贈を受けた者,特別縁故者など)
- 検察官
のいずれかです。申し立てを受けた家庭裁判所は、その地域の弁護士などから相続財産管理人を指名します。
②相続人調査・財産調査
相続財産管理人がまず行うのが、相続人調査と財産調査です。身寄りのない人と思われる人でも、よくよく探してみると家族がいた、というケースは少なくありません。もし法定相続人が見つかれば、その後は相続人が手続きを進めていきます。
財産調査では、プラスの財産だけでなくマイナスの財産(借金や未払金)の有無も調べられます。
③債務の返済
マイナスの財産が見つかった場合、相続財産管理人はプラスの財産の範囲で精算を行います。もしプラスの財産に十分な現金がないなら、必要に応じて不動産の売却(現金化)なども行います。
④特別縁故者への承継
特別縁故者とは、亡くなった方のために特別な貢献をした人のことです。家庭裁判所によって「特別縁故者」と認められた人がいるなら、残った財産はその人が引き継ぎます。
⑤共有者への承継
特別縁故者への承継が行われなかった場合で、しかも亡くなった方の財産に「共有不動産」が含まれていた場合は、その財産は共有者に引き継がれます。
⑥国庫に帰属
マイナス財産の精算をしても財産が残った場合、そして特別縁故者も不動産の共有者もいなかった場合、亡くなった方の持ち家を含む財産は国のものになります。ここまでの手続きに必要な期間は、早くても1年以上です。
身寄りのない人ができる生前対策
身寄りがないからといって「自分が死亡した後のことは知らない」というのは少々無責任といえるでしょう。たとえ相続人がいなくても、たとえば持ち家が放置されて荒れ放題になれば、近所の人たちが迷惑をします。身寄りがないとしても(あるいは、身寄りがないならなおさら)、生前対策しておくことをお勧めします。
遺言書の作成
持ち家などの不動産があるなら、それを受け継ぐ人を遺言書で指定しておくことができます。遺言書は自分で作成することもできますが(自筆証書遺言)、書き方に不安がある場合は専門家に相談すると良いでしょう。
関連記事『行政書士の遺言書作成費用はいくら?費用の相場や他の専門家との違いについて』
財産の整理
生前に財産を整理しておくことも有効です。これにはマイナス財産の精算はもちろん、不動産の処分なども含まれます。
たとえば建物などの不動産は、立地や築年数によっては「引き継いだ人が維持するのに苦労する」ことも少なくありません。こうした不動産を生前に売却・現金化しておけば、本人が亡くなった後の相続手続がスムーズになるでしょう。
とはいえ「自分の家で最期を迎えたい」という人にとっては、生前に持ち家を売却することは困難でしょう。このような場合は相続の専門家などと「死後事務委任契約」を結び、死亡後に売却してもらうよう依頼することができます。あるいは、企業や団体に(生前・死後に)寄付することもできるでしょう。
どのような方法が良いかは、財産の種類や不動産の立地条件などによっても変わります。判断に迷う場合は、ぜひ専門家に相談してみてください。
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まとめ
身寄りのない人が亡くなった場合、遺言書などで相続人を指定しない限り、持ち家を含む財産は最終的に国庫に入ります。もし財産を譲りたい人がいるなら、あるいは自分の死後に財産を有効活用してほしい場合は、遺言書などで相続人を指定しておくことをお勧めします。
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