遺産分割協議書の作成は、遺産相続において重要な手続きのひとつです。この記事では遺産分割協議書を作成できる人や作成上の注意点について解説していきます。
遺産分割協議書を作成できる人について
遺言書が存在しない相続手続きでは、一般に遺産分割協議書が作成されます。遺産分割協議書は「相続人同士のトラブルを防ぐ証明書」や「遺産の名義変更や相続税申告に必要な書類」として活用される重要なものです。
遺産分割協議書は通常、「相続人(本人)」か「相続の専門家」のどちらかによって作成されます。
相続人(本人)
ほとんどの相続手続きは、相続人自ら行うことができます。もちろん、これには遺産分割協議書の作成も含まれます。なお遺産分割協議書には特に決まった様式や書式はないため、相続人本人が作る場合はネット上などに出回っている「ひな形」を利用することが一般的でしょう。
専門家
遺産分割協議書は「相続の専門家」に作成依頼することもできます。ちなみに相続の専門家にはさまざまな種類がありますが、遺産分割協議書の作成は、主に以下の専門家が対応しています。
- 行政書士
市役所や県庁といった行政機関に提出する、許認可・届出の書類を作成するプロフェッショナルです。遺産相続の手続きでも幅広い書類作成に対応しています。
関連記事『遺産相続の手続きを行政書士に依頼するメリットは?行政書士の選び方を解説』
- 司法書士
行政書士と同じく書類作成のプロフェッショナルですが、相続登記をはじめとする登記申請や、訴額が140万円以下の訴訟手続を扱うことができます。
関連記事『司法書士と行政書士の違いとは?依頼できる相続手続について解説』
- 弁護士
あらゆる法律手続きのプロフェッショナルです。特に相続人同士のトラブルが発生している場合、トラブルの仲裁から裁判手続きまで一括対応できることが強みといえます。
関連記事『相続手続で頼れる専門家とは?行政書士と弁護士の違いについて解説』
- 税理士
税理士は税金に関する申請や届出のプロフェッショナルです。相続手続きでは主に相続税が発生する場合(遺産総額が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を超える場合)に、遺産分割協議書の作成を含む遺産相続手続きを依頼できます。
関連記事『相続税の仕組みとは?相続税申告が必要なケースと申告の手順について』
遺産分割協議書を本人作成する場合の注意点
上で説明した通り、相続人本人が遺産分割協議書を作成するケースではしばしば「ひな形」が利用されます。ネット上にはさまざまなひな形が出回っていますし、相続手続きについて解説した本にもひな形が掲載されているものがあります。
ただし、こうしたひな形の利用には注意が必要です。というのも、相続の事情や状況は人によって違います。一般的な内容のひな形では、十分に対応しきれない場合も少なくありません。もし必要事項が記載されていなかったり、内容に誤りがある場合は相続登記などの手続きに支障が出てしまうこともあるでしょう。
特に注意が必要なのは、「不動産の住所表記」や「相続人の住所・氏名」などです。たとえば郵便物の宛先では「○丁目○-○番地」や「○-○-○」といった具合に適当に住所表記をしても大きな問題はありませんが、遺産分割協議書には「登記簿謄本の記載事項とまったく同じ」表記をしなければなりません。
他にも遺産分割協議書が複数枚になる場合の綴方や、遺産分割協議書への署名捺印、印鑑証明書の添付など、注意すべき点はたくさんあります。
必要な項目が漏れていたり記載内容があいまいだったりした場合、相続手続きがスムーズに進まないばかりかのちのち相続人同士のトラブルになる危険もあります。せっかく手間ひまかけて作成した遺産分割協議書が「使えない」ということにならないよう、相続人が自分で作成する際は十分に注意してください。
遺産分割協議書を依頼する専門家の選び方
相続財産に不動産が含まれている場合や、遺産の総額が高額な場合、さらには相続人同士で意見が別れている場合などは、遺産分割協議書の作成を専門家に依頼するのがお勧めです。
ただし専門家にも専門分野がありますし、相続の内容によっては(法律上の制限で)対応できないこともあります。相続手続きを円滑に進めるためにも、それぞれの専門家の業務範囲や特徴を理解しておくことが大切です。
関連記事『遺産相続は誰に頼むのがベター?各専門家の業務範囲や費用・注意点についても解説』
行政書士
行政書士の強みは費用の安さです。相続財産がそれほど多くない場合、特に不動産が含まれない場合は行政書士に依頼することで費用を抑えられます。ただし相続人同士でトラブルが起きている、もしくはトラブルの発生が予想される場合は行政書士では手に負えないため、あらかじめ弁護士の活用を検討しておいたほうが良いでしょう。
参考『行政書士に遺産分割協議書作成を依頼するといくらかかる?費用相場について解説』
司法書士
司法書士の費用相場も、一般的に行政書士と大きく変わりません。司法書士は相続登記の申請を代行できるため、相続財産に不動産が含まれる場合はまとめて依頼すると手間が省けます。また家庭裁判所への遺産分割調停申立の書類作成や提出代行も行えるため「多少の」トラブルにも対応可能です。とはいえ訴額が140万円を超える裁判は扱えないことには注意してください。
弁護士
弁護士の費用は高めですが、相続トラブルが裁判に発展するようなケースでは「必須」ともいえる存在です。もちろん最初は(費用の安い)行政書士や司法書士に依頼してトラブルが発生したら弁護士に依頼することもできますが、手続きが二度手間になってしまう可能性もあります。トラブルが予想されるなら、初めから弁護士に相談しておくほうがベターでしょう。
税理士
税理士の立ち位置は少し特殊です。行政書士・司法書士・弁護士は原則としてどの相続でも遺産分割協議書を作成できますが、税理士が遺産分割協議書を作成できるのは「遺産分割協議書を税務署に提出する必要があるとき」つまり相続税が発生するケースに限られます。
もし遺産総額が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」以内であればそもそも相続税の申告が不要なため、税理士が遺産分割協議書を作成することはありません(作成できません)。
遺産分割協議書の依頼費用(目安)
遺産分割協議書を相続人が自分で作成する場合、印鑑証明書の取得費用(実費)以外の費用は基本的に不要です。一方、専門家に依頼する場合は専門家報酬としてさらに費用が発生します。
専門家への依頼費用は事務所によって変わります。「行政書士は安く、弁護士は高い」という傾向はあるものの、それも事務所次第です。ここではあくまで、ごく一般的な費用の目安を紹介します。
- 行政書士に依頼する場合
相続人同士で遺産配分の話し合いが順調に進んでいて、「書類作成のみ」行政書士に依頼する場合は3万円〜が相場です。ただしその他の相続手続きとセットで遺産分割協議書を作成している事務所も多いため、このようにピンポイントの依頼ができるかどうかは確認が必要でしょう。
- 司法書士に依頼する場合
司法書士の場合、遺産分割協議書の作成から相続登記までセットで依頼するケースが多くなります。不動産1件につき、おおむね6万円〜が相場です(他に登記簿などの書類取り寄せの実費や相続登記の登録免許税などが発生します)。
- 弁護士に依頼する場合
弁護士の場合、相続財産(経済的利益)の額に応じて報酬が変わることがあります。たとえば経済的利益が300万円以下なら、手付金と成功報酬を合わせて20%〜といった具合です。もっとも費用についての考え方は事務所によって大きな違いがあるため、必ず直接確認するようにしましょう。
- 税理士に依頼する場合
税理士の報酬は相続財産の総額によって変わるのが一般的です。たとえば総額5000万円未満のケースなら、25万円程度になります。こちらも事務所によって違いがあるため、あらかじめ確認するようにしてください。
まとめ
遺産分割協議書を作成できるのは、相続人本人と専門家です。それぞれのメリット・デメリットや業務範囲をよく理解したうえで、実際の相続内容に合わせて、どのように作成するか(誰に依頼するか)を判断するようにしましょう。