遺産分割協議書に勝手に押印するのは犯罪?偽造・捏造への対処法についても解説

遺産分割協議書には相続人全員の押印が必要です。では相続人の一部が他の相続人の名前で勝手に押印してしまった場合、その遺産分割協議書はどうなってしまうのでしょうか?この記事ではその答えと、遺産分割書の偽造や捏造を防ぐための対策、被害にあった場合の対処方法について説明します。

 

遺産分割協議書の成立条件

遺産分割協議書は相続手続きにおいて非常に重要な書類です。このため遺産分割協議書を成立させるためには、いくつかの要件を満たさなければなりません。

 

相続人全員の参加

まず大前提として、遺産分割協議は相続人全員が参加して協議を行う必要があります。もっとも、協議は必ずしも対面・リアルタイムで行う必要はありません。遠隔地にいる相続人や、どうしても時間の都合がつかない相続人がいる場合は、電話などの通信手段や書面の回覧による「協議」でも大丈夫です。

 

相続人全員の署名押印

遺産の分割内容に全員が同意したら、遺産分割協議書を作成してそれぞれ署名・押印します。さらに各自の印鑑証明書を添付することで、押印が本人のものであることを証明します。

ちなみにいったん遺産分割協議が成立して署名・捺印が行われると、相続人の一部が「協議のやり直し」を主張することは原則としてできなくなります(全員の同意があればやり直しは可能です)。

 

遺産分割協議書が偽造されるケース

遺産を独り占めしたい場合、あるいは遺産分割協議でなかなか同意が得られない場合、遺産分割協議書を「偽造・捏造」しようとする相続人が表れても不思議ではありません。

また悪意がなくても、相続人の中に重度の知的障害を持つ人や認知症の人がいる場合に、本人の意思を確認できないとして遺産分割協議書を勝手に作ってしまうケースもあり得ます。


遺産分割協議書の作成には押印+印鑑証明書が必要なため、こうした「偽造」は決して簡単ではないでしょう。それでも同居する家族の印鑑を持ち出したり、それを使って役所で印鑑証明書を申請することは可能です。

 

遺産分割協議書に勝手に押印したら…

では遺産分割協議書に他の相続人の印鑑を勝手に押印したらどうなるのでしょうか?

 

勝手に押印された場合は無効

本人の印鑑を同意なく押印、もしくは本人の印鑑を装おって押印した場合、その遺産分割協議書は「無効」です。つまり遺産分割自体が有効に成立していないため、遺産分割を前提とした相続登記や預金口座の名義変更などが行なえません。

参考記事『遺産相続で勝手に名義変更することは可能?予防法や対処法についても解説

ちなみに遺産分割協議書が無効になる他のケースとしては、

  • 遺言書の存在を知らないまま遺産分割協議書を作成した
  • 相続人の一部が欠けたまま遺産分割が行われた
  • 重要な財産が漏れた状態で遺産分割が行われた

といったものも挙げられます。

 

損害賠償請求を受ける可能性

遺産分割協議書を偽造した人にはリスクやペナルティが発生します。まず考えられるのが、他の相続人から「損害賠償請求」を受けるケースです。

たとえば偽造した遺産分割協議書を利用して相続登記(不動産の名義変更)が行われた場合に、他の相続人が原状回復するのにかかった費用や、その他の「損害」分の金銭を要求する可能性があります。

 

偽造した人はその後の遺産分割協議に参加できない?

遺産分割協議書の偽造が発覚した場合、他の相続人の心情としては、偽造を行った人をその後の遺産分割協議に参加させたくないと感じるのではないでしょうか。

実は民法には「相続欠格」という制度があり、一定の要件に該当する人は相続人の権利を失うこととされています。民法第891条によると、その要件は以下の5つです。

①故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
②被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
③詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
④詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
⑤相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

上記の要件は、主に「被相続人や共同相続人の心身」や「遺言書」に対する犯罪です。遺産分割協議の偽造はこの要件に当てはまらないため、偽造を行った相続人が法律上の権利を失うとまではいえません。

 

刑法上の犯罪になる可能性も

とはいえ遺産分割協議書の偽造は「犯罪」です。たとえ相続人としての権利を失わなくても、以下の犯罪行為が成立することで懲役刑や罰金刑を受ける可能性は高いといえます。

  • 私文書偽造罪(刑法159条)
    私文書偽造罪とは、他人の印章や署名、偽造した印章や署名を使用して、私文書を作成する犯罪です(遺産分割協議書は「私文書」)。有罪が認められた場合、3か月以上5年以下の懲役に処されます。

 

  • 偽造文書行使罪(刑法161条)
    遺産分割協議書に勝手に押印した人だけでなく、そのようにして偽造された遺産分割協議書を使用した人や、使用しようとした人(未遂)は、偽造文書行使罪として処罰されます。法定刑は3か月以上5年以下の懲役です。

 

  • 公正証書原本不実記載罪(刑法157条)
    公正証書原本不実記載罪とは、公務員に対し虚偽の申立てをして登記簿など(公正証書)の原本に不実の記載をさせる犯罪です。偽造した遺産分割協議書で相続登記を行った場合、この罪に該当する可能性があります。有罪が認められた場合の法定刑は、5年以下の懲役または50万円以下の罰金です。

 

  • 詐欺罪(刑法246条)
    遺産分割協議書の偽造は詐欺罪に該当することもあります(たとえば預金口座の名義変更で偽造書類を提出した場合など)。詐欺罪の法定刑は10年以下の懲役です。

 

遺産分割協議書を勝手に押印されないための予防策

遺産分割協議書に勝手に押印されないための基本的な対策は「実印の管理をしっかりする」ことです。実印の作成から印鑑登録まで勝手に行われてしまう可能性もゼロではありませんが、かなりの手間とリスクを伴うため、少なくとも勝手な押印を「気軽に」されてしまうリスクは防げます。

 

遺産分割協議書に勝手に押印された場合の対処法

すでに遺産分割協議書を偽造されてしまったら、最悪の場合「法的手段(法廷での争い)」も視野に入ってきます。ただし裁判には手間や時間、費用がかかるため、どのような手段をとるかは慎重に決める必要があります。

 

まずは弁護士に相談する

相続に関するトラブルの専門家は「弁護士」です。もし遺産分割協議書の偽造に気がついたら、まずは弁護士に相談するようにしましょう。

弁護士なら「どのような対抗措置をとるべきか」を判断してくれますし、相手との交渉や裁判になった場合の代理人まで務めてくれます。

もしかすると「間に弁護士が入る」だけで、先方(勝手に押印した相続人)が非を認めて交渉に応じる可能性もあります。

 

遺産分割調停・遺産分割審判を申し立てる

先方が交渉に応じるようなら、あらためて遺産分割協議を行います。ただし「遺産分割協議書が偽造された」ことを理由に、裁判所に遺産分割調停を申し立てることもできます。

遺産分割調停は、家庭裁判所が任命する調停委員(第三者の専門家)が仲介する話し合いです。この話し合いが不成立に終わった場合は、そのまま遺産分割審判(裁判官の判断による遺産分割)に移行します。

関連記事『遺産分割調停の内容と活用方法とは?審判・訴訟との違いについても解説

 

証書真否確認請求訴訟で争う

証書真否確認請求訴訟とは、ある証書が真正に(作成名義人によって)作成されたかどうかを判決によって確定してもらう訴訟です。特に先方が「この遺産分割協議書は正規のものだ」と主張している場合、この訴訟によって相手の主張を覆す必要があります。

 

遺産分割不存在確認請求訴訟で争う

遺産分割協議書の偽造の有無は「遺産分割協議不存在確認訴訟」で争うこともできます。どのような手段(訴訟)で対抗するかは、弁護士と相談したうえで判断するとよいでしょう。

 

損害賠償請求訴訟・返還請求訴訟で争う

勝手な名義変更によって先方が得た「不当な利得」を返還させたり、こちらが受けた「損害」を先方に請求するという方法もあります。相手が交渉に応じなければ裁判の中で不当利得返還や損害賠償の請求をすることになるでしょう。この場合も弁護士のサポートが必要です。

 

まとめ

遺産分割協議書への勝手な押印は犯罪です。被害にあった場合は泣き寝入りするのではなく、弁護士によく相談した上で必要な法的手段をとることをお勧めします。

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