遺産相続の手続きでは、遺産の配分方法をめぐって他の相続人とトラブルになるケースが少なくありません。この記事ではトラブルを「示談」で解決するメリットとデメリット、示談より法的手続きをした方が良いケース、示談交渉で頼れる専門家などについて解説します。
遺産相続で示談交渉をするケース
相続は時に「争族」と呼ばれるほど、トラブルに発展しやすい手続きです。トラブルの原因は主に財産の取り分で、具体的には「遺産分割協議」と「遺留分侵害額請求」でトラブルになるケースが大半です。
遺産分割協議
遺産分割協議を行うのは、遺言書がない場合や相続について具体的な指定がない場合です。
協議の場では相続人それぞれの相続分(相続する財産の内容や金額)を決めますが、不動産や各種動産を含む財産を「ぴったり公平に分割する」ことは簡単ではありません。また財産の内容によっては、たとえば「自宅の土地は自分が欲しい」といった具合に、それぞれの希望や主張がぶつかり合うこともしばしばです。
こうしたトラブルは最終的に法的手続(家庭裁判所の調停や審判)に持ち込まれることもありますが、そうなる前に話し合い(示談交渉)で解決が図られるケースもあります。
関連記事『遺産分割の方法とは?4種類の遺産分割と分割する際の注意点について解説』
遺留分侵害額請求
遺産分割協議よりもさらにトラブルになりやすいのが遺留分侵害額請求です。
遺留分侵害額請求とは、自分が相続できる「最低限の財産(遺留分)」を他の相続人や相続人以外の人に取られてしまった場合に行う手続きです。そもそも遺留分が侵害されたというトラブルが原因のため、その後の交渉が難航するケースも珍しくありません。
手続きの具体的な手順や方法に決まりはありませんが、一般には、まず内容証明郵便などで「遺留分に相当する金銭の支払い」を相手に要求します。もし相手が要求を拒否したり、無視した場合は直接会って示談交渉を行うか、家庭裁判所を通して法的手続を取ることになります。
関連記事『遺留分侵害請求権とはどのような権利?請求方法や請求を受けた場合の対応について』
財産の使い込み
通常の遺産相続手続とは少し違いますが、分割前の財産を管理している相続人が財産(特に預金など)を使い込んでしまった場合もトラブルに発展しがちです。
この場合の解決方法としても示談交渉は有効です。ただし相手が話し合いに応じなかったり冷静な話し合いができない場合などは、裁判所に「不法行為に基づく損害賠償請求」を訴えることになります。
関連記事『相続が家族・親族間でもめるケースとは?対処方法についても解説』
示談交渉と法的手続
遺産相続で発生するトラブルを示談で解決するか、それとも法的手続で行うべきかはトラブルの状況によって変わってきます。まずは示談交渉を行うメリットとデメリットに注目してみましょう。
示談交渉のメリット
示談交渉のメリットは大きく分けて3つです。
- 手続不要
示談交渉は当事者同士の「話し合い」ですから、特に決まった手続きはありません。このためお互いの合意があれば、どのような形で話し合っても有効です。 - 迅速
決まった手続きがないため、お互いに合意した時点で示談成立となります。 - 費用が不要(低額)
当事者同士の話し合いだけであれば、特に費用などは発生しません。また弁護士に話し合いのサポートや代理を依頼する場合も、法的手続を依頼するより手数料が低額です。
示談交渉のデメリット
示談交渉のデメリットは、お互いが合意しない限り「いつまでもトラブルが解決しない」という点です。このため示談交渉の開始時点ですでに互いの関係がこじれている場合、示談交渉をするだけ時間のムダということにもなりかねません。
法的手続を選ぶべきケース
示談交渉は互いに「話し合う余地がある」場合に有効なトラブル解決手段です。逆にいうと、相手との妥協点を見つけられないくらい互いの意見が食い違っている場合(たとえば同じ財産を欲しいと思っている場合など)は、示談交渉ではなく法的手段の方が確実といえます。
なお遺産分割協議で家庭裁判所の調停や審判を利用する場合、どちらか一方の言い分が100%通るということはありません。調停にせよ審判にせよ、お互いの言い分や状況に応じて「どちらにも配慮した」結果が出されることになります。
遺産相続における示談交渉の流れ
示談交渉に決まった手続きが存在しない以上、交渉の流れもケースバイケースです。ただし交渉をできるだけ有利に進めるためには自分の主張を相手に納得させるだけの根拠が必要なため、事前の相続人調査や財産調査は不可欠といえるでしょう。
また示談交渉を穏やかに進めるためにも、最初の呼びかけには十分注意する必要があります。敵対的・高圧的な態度で接したり、相手への批判や自分の要求だけを一方的に押し付けるような呼びかけでは、相手を不必要に刺激してしまうでしょう。まずは互いに話し合いたい旨を穏やかに伝えて、相手を交渉のテーブルに着かせることが大切です。
示談が成立したら合意内容を書面にします。これは後から合意を反故にされたり、問題を蒸し返されるのを防ぐためです。たとえば遺産分割協議についての示談であれば「遺産分割協議書」に内容を明記し、相続人全員が署名捺印します。
示談交渉を依頼できる専門家について
示談交渉は当事者同士で行うのが基本ですが、場合によっては当事者が直接対面するよりも、間に専門家を挟んだ方がスムーズに進む場合があります。
相続トラブルの専門家は弁護士
遺産相続の手続きに関係している専門家にはさまざまな種類があります。そして専門家の種類ごとに担当できる業務の範囲や費用の目安は異なります(詳しくは関連記事『相続手続で頼れる専門家とは?行政書士と弁護士の違いについて解説』をご覧ください)。
ちなみにトラブルの解決を代理できるのは「弁護士」だけです。ですから示談交渉で専門家に頼るのであれば、必ず弁護士に相談する必要があります。
とはいえ弁護士なら誰でも良いというわけではありません。弁護士が行うことができる業務の幅は膨大なので、ひとくちに弁護士といっても「企業法務専門」「刑事訴訟専門」といった具合に専門分野が分かれているケースが多いためです。
遺産分割交渉や遺留分侵害額請求の示談交渉で依頼するなら、相続専門の弁護士を選ぶようにしましょう。
依頼のメリット
示談交渉を弁護士に依頼する最大のメリットは「交渉を有利に進められる」という点です。弁護士は法律の専門家として、法的な知識や経験を駆使して交渉を行ってくれます。経験豊富な弁護士であればトラブル発生時の交渉についても場数を踏んでいるため、素人相手の交渉で遅れをとることはほとんど考えられません。
また弁護士は「依頼者のメリットを最優先」に行動してくれます。家庭裁判所の法的手続では当事者双方に配慮した結論になりがちですが、弁護士は依頼者の希望を第一に考えて交渉してくれるのが特徴です。
もちろん、弁護士に依頼することで「手間が省ける」のも大きなメリットといえます。
費用の目安
弁護士費用に統一の基準はありません。事務所によって金額はさまざまです。
一応の目安としては、
- 着手金として20万円前後
- 成功報酬として得られた利益の10%程度
を想定しておくと良いでしょう。
ただし着手金は、対象となる財産の金額が高額になればなるほど増える傾向があります。実際にどれくらいの費用が発生するかはケースバイケースのため、事前にしっかり相談してから依頼するようにしてください。
まとめ
遺産相続で他の相続人などとトラブルになった場合は、状況に応じて「示談交渉か法的手続か」を判断するようにしましょう。判断が難しい場合や、交渉を有利に進めたい場合は、まず弁護士に相談するのもお勧めです。
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