遺言書について「歳を取ってから書くもの」というイメージを持っている人は大勢います。しかし、いざという時に備えるにためにも、遺言書の作成はできるだけ早い時期がおすすめです。この記事では遺言ができる年齢と、若いうちに遺言をするメリットについて解説します。
遺言書と年齢の関係
就活ブームなどの影響もあり、比較的若いうちから遺言に興味を持つ方が増えています。しかし実際に遺言書を作成しているのは、まだまだ高齢の方がほとんどです。
15歳から作成可能
民法第961条では、遺言をできる年齢についてこのように規定しています。
15歳に達した者は、遺言をすることができる。 |
これは遺言の「行為能力」と呼ばれ、この年齢から単独での遺言作成が可能になります。
ちなみに遺言の作成は「法律行為」のひとつですが、日本では原則として未成年者による単独の法律行為を認めていません。それでも通常の成人年齢(18歳)より若い15歳で遺言作成が認められるのは、遺言がその人の「最後の意思を尊重」することを目的とした特別な制度だからです。
年齢に上限はない
一方、遺言ができる年齢に上限はありません。15歳以上に達していれば、たとえ90歳や100歳であっても遺言を作成できます。
遺言作成の要件
100歳でも遺言を作成できるといっても、あくまで遺言をする能力、つまり「遺言能力」を備えている場合に限られます。
遺言能力について
遺言能力は文字通り遺言を作成できる能力のことで、「行為能力」と「意思能力」によって構成されています。このうち行為能力とは、すでに説明した「15歳以上」のことです。
もうひとつの意思能力とは、「自分の行為の結果を認識する能力」を意味しています。より具体的に説明すると、自分が作成した遺言書によってどのような遺産配分が行われるかを理解できることです。
標準的な判断力を持つ人であれば遺言書の意味や効果を理解できますが、重度の知的障害や精神疾患、認知症(アルツハイマー)などの病気を患っている人の場合、こうした理解が困難なケースも少なくありません。特に認知症は高齢になるほどリスクが高いとされるため、高齢者が遺言書を作成する場合は注意が必要です。
もちろん認知症にもさまざまな程度があります。どの程度までなら遺言が可能なのかや、何を目安に判断すれば良いかについては『認知症でも遺言書の作成は可能?判断の目安と事前対策についても解説』をご覧ください。
法定代理人の同意は必要?
15歳は「未成年」です。日本の法律では未成年者が法律行為を行う場合、法定代理人(親権者など)の同意を得る必要があります。
しかし遺言書の作成に法定代理人の同意は必要ありません。15歳〜17歳までの未成年者も、単独で有効な遺言書を作成できます。逆に法定代理人が未成年者に代わって遺言書を作成することはできません。
関連記事『特別代理人が必要なケースとは?選任の手続きについても解説』
年齢が若くても遺言書を作成すべき理由
遺言の作成は若くてもできますが、若いうちに遺言を作成することにどのような意味やメリットがあるのでしょうか。
一般的な遺言作成の年齢
未成年者でも遺言を行うことができます。しかし現実には遺言をする人の多くが高齢者で、おおむね70歳以上というケースが大半です。
厚生労働省の「簡易生命表(令和2年度)」によると、日本人の平均寿命は男性が81.64歳、女性が87.74歳です。多くの人にとって、こうしたデータを強く意識するようになるタイミングが70代なのかもしれません。
また70代になると体のあちこちに故障が出てきて、病院通いが続く人も大勢います。こうした体調の変化も遺言の作成に興味を持つきっかけのひとつでしょう。
若いうちに遺言をすべき理由
それでも遺言はできるだけ若いうちにしておくべきです。
先のことは誰にもわかりません。あまり考えたくないですが、突然の事故や事件に巻き込まれたり、急病で倒れたりしてしまうリスクは誰もが抱えています。明日も無事に生活できるという保証はどこにもないのです。
なんの準備もしないまま突然亡くなった場合、これまでの思いを家族や親しい人に伝える手段はありません。また残された家族も(悲しむのと同時に)困ってしまうでしょう。ですから遺言能力がしっかりしているうちに、まずは今の気持ちや思いを遺言の形で残しておきましょう。
ちなみに「遺言をした後に心変わりするかも」という心配は必要ありません。遺言は撤回できますし、何度でも書き直すことができます。いざというときに備えて、定期的に遺言を更新していくことも十分に可能です。遺言を撤回する手順と条件については『遺言書の撤回は可能?遺言書の種類に応じた手続きと注意点について解説』をご覧ください。
なお若い方であれば「動画メッセージ」などで自分の気持ちを残しておきたいと思う方もいると思います。映像は文字だけでは表現できない微妙なニュアンスを伝えることができるため、確かに印象的なメッセージになることでしょう。
しかし日本の民法では、遺言に「法的な効力」を持たせるための条件を厳しく定めています。動画メッセージを作成するのであれば、それとは別に、法的に有効な遺言書もぜひ作成しておきましょう。「どうやって遺言書を書けばいいかわからない」「プロに手伝って欲しい」という場合は専門家に依頼することもできます。詳しくは『行政書士の遺言書作成費用はいくら?費用の相場や他の専門家との違いについて』をお読みください。
若いうちに遺言をするメリット
若いうちに遺言を行うことには以下のようなメリットもあります。
メリット①:相続について考えるきっかけになる
相続には遺産分割協議や相続税など、さまざまな手続きが含まれます。「ある日突然相続人になった」方だと、何から手をつけていいかわからずパニックになることも珍しくありません。しかし若い頃から遺言を通して相続に親しんでおけば、自分が誰かの相続人になったときにも落ち着いて行動できます。
メリット②:生活習慣や人生設計を見直すきっかけになる
遺言をすることは、単に相続のことだけでなく「どうしたら健康で長生きできるか」「将来に向けてどれだけの財産をどうやって作れば良いか」といったことを考えるきっかけにもなります。さまざまな人生の選択肢を選び、自分らしい生活をしていくためにも遺言書の作成はおすすめです。
メリット③:身近な人への接し方を見直すきっかけになる
遺言は自分のためだけではなく、メッセージを受け取る相手のために行うものでもあります。自分の思いを言葉にすることは、普段の日常生活の中でも相手への態度を見直すきっかけになるでしょう。結果として人間関係がさらに良好になり、人生をさらに快適なものにすることができます。
まとめ
15歳以上の人なら誰でも遺言書の作成が可能です。意思能力がはっきりしているうちに遺言を行えば遺言書が「無効」になるリスクが減らせますし、自分自身の生き方にも良い影響が出ます。遺言に少しでも興味を感じられたら、ぜひ年齢に関係なく遺言書の作成に取り組んでみてください。