危急時遺言とはどのような制度?必要な要件や手続きの流れについて解説

「遺言書を作成する前に病状が悪化して、命の危険が迫っている…」
このような緊急事態で作成できる特別方式の遺言書が「危急時遺言」です。この記事では危急時遺言の中でも比較的利用されるケースが多い「一般危急時遺言」について解説します。

 

危急時遺言とは

危急時遺言とは、通常の遺言書を準備する間もなく死亡の危機が迫った人に認められる「特別方式」の遺言の一種です。

原則として、遺言書は遺言書自身の肉筆で作成するか(自筆証書遺言)、公証役場で証人の立ち会いの下、公証人を通して作成する(公正証書遺言)のが一般的です。

しかしかねてより病気を患っていた人が遺言書を作成しないうちに病状が悪化したり、乗っていた船舶が遭難して死亡の危機に直面しているような場合は、口頭で遺言を述べ、それを証人が筆記(文書化)することで危急時遺言を作成できます。

なお危急時遺言と呼ばれる遺言は「一般危急時遺言」と「船舶遭難者遺言」の2種類です。

 

一般危急時遺言

一般危急時遺言は、突然の病気や急速な病状悪化などが原因で死亡の危機にあり、自筆証書遺言などの作成が難しい人のための遺言です。このため一般臨終遺言や死亡危急者遺言と呼ばれることもあります。

実際にこの形式で遺言が作られることはあまりありませんが、いざという時に遺言者の意思を残すのに有効な遺言形式です。

 

船舶遭難者遺言

危急時遺言にはもうひとつ、船舶遭難者遺言と呼ばれるものもあります。これは船が遭難して、その中で死亡の危機に直面した人のための特別方式の遺言です。使えるシチュエーションが非常に限定されるため、一般危急時遺言よりも利用の少ない遺言形式といえます。

 

一般危急時遺言が成立するまで

ここからは危急時遺言の中でも比較的利用される機会が多い「一般危急時遺言」の手順について説明していきます。

民法第976条(死亡の危急に迫った者の遺言)

  1. 疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人3人以上の立会いをもって、その1人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
  2. 口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には、遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して、同項の口授に代えなければならない。
  3. 第1項後段の遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には、遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は、同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝えて、同項後段の読み聞かせに代えることができる。
  4. 前三項の規定によりした遺言は、遺言の日から20日以内に、証人の1人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
  5. 家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。


まず大前提として、一般危急時遺言は「疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者」が利用できます。これは本人が「根拠なく(死亡の危急と)思い込んでいる」だけでは不足です。ただし実際に病気などを患っているなどの事情があるなら、医師の判断がなくても(そして医学的には死亡の危急が存在しなくても)本人の判断で一般危急時遺言を行うことができます。

 

①証人3人以上の立会い

一般危急時遺言の成立には「3人以上の証人」による立ち会いが必要です。証人には一定の制限があり、未成年者や、相続上の利害関係がある推定相続人、受遺者、配偶者、直系血族などは証人になることができません。

 

②遺言者の口授内容を書面化

遺言者は遺言の内容を証人の一人に口授します。口が不自由で口授が難しい場合は「遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述」する形でも問題ありません。ただし実際に本人が口授したかどうかは裁判で最も争われやすいポイントになるため、可能なかぎりの方法で、少しでも多く遺言者自身から直接意思を汲み取る工夫が必要でしょう。

遺言者から口授を受けた証人は、その場で内容を書面にします。ここでは自筆証書遺言などと違い、手書きでなくても(パソコンなどを使っても)構いません。

 

③書面の読み聞かせ

書面が出来上がったら、作成した証人は遺言者と他の証人に読み聞かせて内容に誤りがないかどうか確認します。この際、遺言者や他の証人の耳が不自由で読み聞かせが難しい場合は、通訳者を通して内容を伝える形でも構いません。

 

④証人全員の署名・押印

内容に誤りがないことを確認したら、証人全員が書面に署名・押印します。なお、この作業を遺言者の前で行うべきかどうかについては明確な基準はありません。ただし後々の裁判で問題にされるリスクを避けるため、できるだけ本人の目の前で行うのが無難でしょう。

 

⑤家庭裁判所による確認

一般危急時遺言の書面が完成したら、その日から20日以内に家庭裁判所の確認を受ける必要があります。確認の請求を行うことができるのは証人と利害関係者です。この際、裁判所は書面の内容が遺言者の真意かどうか判断します。

裁判所の確認を得られた場合のみ、一般危急時遺言の効力が発生します。

 

一般危急時遺言が失効するケース

一般危急時遺言はあくまで緊急時のための特別な制度です。仮に裁判所の確認を受けて効力が発生しても、遺言者が「普通方式の遺言ができるようになってから6か月間生存」した場合、一般危急時遺言は失効してしまいます。

 

危急時遺言は専門家に依頼できる?

公正証書遺言など一般方式の遺言では、行政書士などの専門家に作成を依頼することができます。では危急時遺言(一般危急時遺言)の作成を専門家に依頼することはできるでしょうか?

一般危急時遺言の作成に必要なのは「3人の証人の立ち会い」です。未成年者や利害関係者は証人になれませんが、それ以外の人であれば原則として証人になることができるため、当然、行政書士などの専門家に「証人としての立ち会い」と「口授の書面化」を依頼できます。

むしろ危急時遺言は非常に難しい手続きになるため、相続に関する法律知識がない一般の人よりも専門家に依頼する方が好ましいと言えるでしょう。

とはいえ遺言全体でみると危急時遺言が利用されるケースは非常に稀なため、相続の専門家の中にも実際に作成に関わった経験がない人は少なくありません。後々トラブルになることがないよう、危急時遺言を依頼する際はできるだけ「経験のある専門家」か、遺言作成を専門にする実績豊富な専門家を探してみてください。

関連記事『行政書士の遺言書作成費用はいくら?費用の相場や他の専門家との違いについて

 

まとめ

危急時遺言は急速な病状の悪化などで一般方式の遺言をできない場合に利用される特殊な遺言です。作成も非常に難しく後々のトラブルになる可能性も少なくありません。できるだけ自筆証書遺言や公正証書遺言を事前に用意するようにして、どうしても危急時遺言を利用するときは相続に強い専門家を頼るようにしましょう。

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