相続手続にはさまざまな税金が関係してきます。一方、相続放棄をした人は「初めから相続人ではなかった」ことになり、その後の相続手続から解放されます。では相続放棄をした人は、各種税金についても一切支払う必要がないのでしょうか。この記事では相続放棄と税金の関係について説明していきます。
相続放棄で支払う必要がなくなる税金
相続放棄をした人は、相続発生時にさかのぼって「相続人ではなかった」とみなされます。これにより一切の遺産を相続しなくなり、相続税や各種税金は支払う必要がなくなる…ように思えるかもしれません。しかし本当にそうでしょうか?
相続と関係のある税金ごとに、相続放棄の影響を確認していきましょう。
関連記事:『相続放棄をするメリット・デメリットとは?注意点や他の選択肢についても解説』
相続税
相続に関係する税金といえば、まず真っ先に思い浮かぶのが相続税です。相続税は相続財産に対して課税されるため、そもそも相続がないと発生しようがありません。
ちなみに相続税は法定相続人だけではなく、遺言書によって遺贈を受けた第三者にも課税されます(これに対し生前贈与や死因贈与は贈与税の対象です)。つまり「相続人でなくても相続税が課税されるケースがある」ということです。
ただ相続放棄をすると「一切の遺産を受け取れなくなる」ため、遺言書による遺贈も受けることができません。ではやはり、相続放棄をした人は相続税とは無縁なのでしょうか。
実はそうとも限りません。もし相続放棄をした人が生命保険金(死亡保険金)や死亡退職金を受け取っている場合、そのお金に対して相続税がかかるためです。生命保険金や死亡退職金は民法上の相続財産ではありませんが、相続税の計算においては相続財産と同じ扱いを受けます(これをみなし相続財産といいます)。
つまり、相続放棄をした人が非課税枠を超える生命保険金や生前退職金を受け取っている場合は相続税を払わなくてはなりません。なお生命保険金と生前退職金の非課税枠は「500万円×法定相続人の数」です。後で説明しますが、この「法定相続人の数」には相続放棄をした人も含まれます。
関連記事:『死亡保険金は遺産相続でどう扱われる?相続税がかかる場合の計算方法も解説』
固定資産税
固定資産税とは、不動産(土地・建物など)や償却資産を対象とした税金です。遺産相続との関係でいうと、不動産を相続した相続人は毎年1回、固定資産税を支払わなくてはなりません。
相続放棄をすると不動産を含む一切の遺産を相続できなくなるため、固定資産税が課税される可能性はまったくないように思えます。ところが、相続放棄のタイミングによっては固定資産税の支払い義務が発生することがあるのです。具体的にいうと、被相続人が亡くなった後、年をまたいで相続放棄をした場合は固定資産税を支払わなくてはなりません。
この現象は、固定資産税が課税される仕組みと関係しています。固定資産税は「1月1日に固定資産課税台帳に名前がある人」に納付義務が発生するため、被相続人の死亡から相続放棄の間に「1月1日」が来てしまうと、その時点で固定資産課税台帳に名前がある人、つまりその時点で相続人と見なされる人に納税通知書が送られるのです。
ちなみに相続放棄のタイミングの関係で固定資産税を立替払い場合、実際にその不動産を相続した人に固定資産税相当の返金を求めることができます(これを「求償権の行使」といいます)。
固定資産税と相続放棄の関係でもうひとつ注意すべきなのは、死亡した被相続人宛に税通知書が送られてきた場合に、不用意に支払いをしてはいけないという点です。
1月1日の時点で被相続人が生きていた場合、その年の4月〜6月ごろに届く納税通知書の宛名は被相続人の名前になっています。仮に納税通知書が届いた時点で被相続人が死亡(相続が発生)していた場合、もし相続人がそれを支払ってしまうと「単純承認」とみなされてその後の相続放棄ができなくなります。
関連記事:『相続を単純承認するとはどういう意味?成立要件と注意点について解説』
所得税
所得税は前年の所得を基準として課税される税金です。相続との関係では、被相続人が死亡した年の未払い分を申告し、納付するケースが考えられます。
相続放棄をした場合、被相続人に課税される所得税は一切支払う必要がありませんし、申告の義務もありません。むしろ良かれと思って請求分を支払ってっしまった場合、単純承認とみなされてその後の相続放棄ができなくなります。
市民税
市民税も所得税と同じく、前年の所得を基準に課税されます。ただし所得税と違い、被相続人が12月31日までに死亡していた場合は翌年以降に市民税が発生することはありません。年をまたいだ場合は納税通知書が送られますが、相続人が相続放棄を行った場合は支払い義務が免除されます。
相続放棄と相続税の基礎控除の関係
相続税には、相続財産から一定金額を差し引く「基礎控除」があります。基礎控除の金額は以下の通りです。
3000万円+600万円×法定相続人の数 |
ここで気になるのは「法定相続人の数」の部分です。たとえば法定相続人が被相続人の配偶者と2人の子供だった場合、控除額は3000万円+600万円×3人で「4800万円」になります。では片方の子供が相続放棄をした場合、この計算の基準となる法定相続人は2名になってしまうのでしょうか。
たしかに相続放棄は「相続発生時にさかのぼって相続人ではなかった」ことにする手続きですが、相続税の基礎控除額計算については「相続の放棄をした人がいても、その放棄がなかったもの」とすることになっています(国税庁『No.4152 相続税の計算|国税庁』より)。
生命保険金の非課税枠と、死亡退職金の非課税枠の計算(どちらも「500万円 × 法定相続人の数」)も同じ扱いです。(国税庁『No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金|国税庁』『No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金|国税庁』より)
相続放棄と準確定申告の関係
最後に相続放棄と所得税の準確定申告の関係について簡単にふれておきます。
すでに、相続放棄をした人には被相続人の所得税の申告も納付も必要ないと説明しました。この申告は「準確定申告」と呼ばれていて、基本的に民法上の相続人と包括受遺者(財産を特定せずに遺贈を受けた人)が「相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内」に行わなくてはなりません。
もちろん相続放棄をした人にこの義務はないのですが、もしもすべての相続人が相続放棄をしていて包括受遺者も存在しない場合、自動的に作られる「相続財産法人」が申告書を作成・提出しなければなりません(非常にめずらしいケースです)。
まとめ
相続にはさまざまな税金が関係していますが、相続放棄をするとその大半から解放されます。ただし亡くなった方の生命保険金などを受け取った場合の「みなし相続」など、条件次第では相続税や固定資産税を支払う必要が出てくるため注意してください。これから相続放棄をする方は、この記事や国税庁の案内をしっかり確認したうえで手続を進めるようにしましょう。
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