遺産相続と念書の関係とは?遺留分の放棄や相続放棄は可能?

何かを約束してほしいとき、習慣として「念書」を作成することがあります。では遺産相続させたくない相続人がいる場合、遺産を受け取らない旨を念書で約束してもらうことは可能でしょうか?この記事では念書と遺産相続の関係、および遺留分放棄と相続放棄についてわかりやすく解説していきます。

 

遺産相続と念書の関係

被相続人が特定の相続人に遺産を相続させたくない場合、あらかじめ相手に遺留分の放棄や相続放棄をお願いすることがあるかもしれません。このような将来の約束をするときにしばしば利用されるのが「念書」です。

 

念書とは

念書とは、どちらか一方が義務や負担を負う約束をする際に利用される書面です。このような約束事はそもそも当事者同士の口約束で成立しますが、あとから「言った、言わない」のトラブルになることを避けるために、物的証拠として念書が作られます。

なお念書に決まった書き方はありませんが、主に「約束する内容」に加えて当事者それぞれの氏名と住所、作成日、約束を履行する期日、署名捺印などで構成されるのが一般的です。

 

念書に法的拘束力はない

物的証拠として念書を作ると言いましたが、実は念書に法律上の力(法的拘束力)はありません。どんなに細かな念書を作ってもそれによって法的な義務や権利が発生することはなく、せいぜいトラブルが裁判沙汰になった場合に「証拠のひとつとして採用される可能性がある」という程度のものです。

また裁判で証拠として提出しても、その内容があまりに一方的なものだったり、どちらか一方が極端に不利になるようなものだと無効と見なされることがあります。


念書による遺留分の放棄について

念書は常に法的拘束力を持つものではありませんが、それでも「約束」の証拠として一応の意味を持ちます。では次に、念書で「遺留分」を放棄する方法について見ていきましょう。

まず遺留分とは、法定相続人に認められている最低限どの遺産相続分のことです。もし遺言書などで遺産がすべて他人の手に渡ってしまった場合、法定相続人は遺留分に相当する金額を「遺留分侵害額請求」によって請求することができます。

一方、法定相続人は遺留分(正確には遺留分侵害額請求の権利)を自ら手放すことも可能です。この遺留分の放棄は、被相続人の生前か相続発生後のどちらで行うかによって手続きの難易度が変わります。

 

相続発生後の遺留分放棄は比較的簡単

比較的簡単に遺留分を放棄できるのは「相続発生後」です。このタイミングでは相続人が自ら意思表明することで、第三者の許可や承認を受けなくても有効に遺留分を放棄できます。またこのタイミングで書いた念書は、万一のトラブルの際も証拠としての効力を持つと考えられています。

ちなみに遺留分侵害請求権は遺留分の侵害があったころを知ったときから「1年」で消滅し、それ以降は権利を講師できません。

 

生前の遺留分放棄は裁判所の許可が必要

これに対し、被相続人の生前に行う遺留分の放棄は難易度が上ります。

民法第1049条

相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
2 共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。


上記の規定によると、生前(相続の開始前)は家庭裁判所の許可がないと遺留分を放棄できません。つまり本人の意思表示だけでは遺留分を放棄できないということです。このような規定は、相続人に対する「不当な圧力や干渉」を防ぐために設けられています。

家庭裁判所が遺留分放棄の申し立てを認める基準は、次の3点です。

①正当な理由(合理的な理由)があるか
②本人の自由意思に基づいているか
③相応の対価を得ているか

特に①と②では、申し立てを行う相続人が周囲から不当な圧力を受けていないか、遺留分放棄の意味を十分に理解したうえで申し立てをしているか、そのような判断をするだけの客観的な理由があるかどうかが審査されます。

また③については、申し立てを行う相続人が事前に何らかの財産を譲り受けていたり、被相続人の生前に十分な利益を受けているといった事情があるかどうか審査されます。ただし「相応の対価」といっても、必ずしも遺留分と同額以上の利益を受けていることを意味するわけではありません。あくまで周辺の事情を考慮して、個別に判断されます。

 

遺留分放棄の撤回方法

裁判所の許可を得て遺留分放棄を行った場合、原則として取り消しはできません。ただし許可の前提となった事情が劇的に変化した場合や、遺留分放棄の申し立てが本人の意思に基づいていなかったことが判明した場合は例外的に撤回が認められるケースもあります。

遺留分放棄の許可の取り消しは家庭裁判所の職権によって行われるため、上記の事情で遺留分放棄を撤回したい人は家庭裁判所に職権発動を求める申し立てを行わなくてはなりません。

 

遺留分を撤回しても相続権は残る

よく誤解される点ですが、遺留分と相続権は基本的に独立しています。遺留分を放棄しても遺産相続を受ける権利はなくならなず、その後も遺産分割協議に参加して遺産を受け取ることが可能です。

 

念書による相続放棄について

では遺産相続を受ける権利は念書によって放棄できるのでしょうか?

 

生前の相続放棄はできない

相続人が自ら相続の権利を放棄する手続きは「相続放棄」と呼ばれています。

民法第915条第1項

相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。


相続放棄は「相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に行います。つまり相続放棄の手続きができるのはあくまで被相続人が亡くなった後のことです。被相続人の生前に相続放棄をすることは一切できません。当然ながら、相続が発生する前に「相続を放棄します」という内容の念書を書いても無効です。

 

相続発生後も家庭裁判所の手続きが必要

相続発生後であっても、相続放棄をするには一定の手続きが必要となります。具体的には家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出し、それを受理してもらうことが必要です。

たとえ相続人が本人の意思で「相続を放棄します」という念書を書いても、家庭裁判所を介さない限り法的効力は発生しません。

 

相続放棄以外の「相続させない」手段

家庭裁判所で相続放棄の手続きをしなくても、特定の相続人に「事実上、遺産相続させない」方法はいくつか存在します。

①遺言書による指定

遺言書の中で特定の相続人を名指しして「一切の財産を相続させない」と書くことで、遺産を相続させないことが可能です。あるいは遺言で他の相続人にすべての財産を相続させたり、相続人以外の人にすべての財産を遺贈することもできます。

とはいえ名指しされた相続人の遺留分までは奪えないため、相続できなかった相続人が遺留分侵害額請求をした場合は、財産を相続した他の相続人や遺贈を受けた人は「遺留分に相当する金銭」を支払う必要があります。

②生前贈与

被相続人の生前に、他の相続人などに財産を与えてしまうことも可能です。被相続人の死後に財産が残らなければ、結果として特定の相続人による相続を防ぐことができます。

ただし1年間に110万円以上の贈与を行うと贈与税の対象となるため注意が必要です。また贈与側・受贈側双方が遺留分の侵害を意識していた場合、生前贈与であっても遺留分侵害額請求の対象となります。

③遺産分割協議

相続発生後の手続きとしては、遺産分割協議で本人に納得してもらうことが挙げられます。遺産分割協議は相続財産の配分方法を話し合う場ですから、そこで本人が「財産はいらない」と言えば相続放棄をするまでもありません。

ただし遺産分割協議の内容が有効なのは、あくまで相続人同士の間だけです。相続財産の中にマイナスの財産(借金や連帯保証人など)があった場合、すべての相続人は債権者からの支払い請求を拒否できません。マイナスの財産を相続しないためには相続放棄の手続きが必要です。

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まとめ

遺留分の放棄や相続の放棄は、基本的に家庭裁判所の手続きによって行うものです。相続人同士の念書による意思表示は法的効果を持たないケースが多いため、十分注意してください。

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