被相続人の入院費用はどうやって支払う?遺産相続発生後の注意点について解説

病院に入院していた方が亡くなった場合、通常は残された方が入院費用を支払うことになります。ではその入院費は税法上どのように扱われるのでしょうか?また入院費用を相続財産の中から支払うことは可能なのでしょうか?この記事ではこれらの疑問の答えについて、わかりやすく説明していきます。

 

遺産相続後に支払う入院費用について

入院費用などの医療費は、一般に医療費控除(医療費の一部を所得から控除する制度)の対象になります。では入院した方が亡くなっている場合、つまり入院していた方の家族などが支払った場合、医療控除などの制度を利用できるのでしょうか?

 

準確定申告との関係

亡くなった方の入院費用は条件付きで医療控除の対象になりますが、「誰の医療控除になるか」は支払いの時期によって異なります。

まず大前提として、所得税の医療控除の利用には確定申告が必要です。通常は前の年の1年間に発生した所得や費用(医療費など)に基づいて所得税を計算しますが、本人が亡くなっている場合は亡くなった年の1月1日から死亡した日までの支出に基づいて「準確定申告」を行います。

もし亡くなった方が生前に入院費用を支払っていたなら、それは亡くなった方自身の医療控除です(準確定申告書に記載されます)。しかし亡くなった後(死亡した日以降)に入院費用が支払われた場合、その費用は準確定申告書には記載できません。

では実際に支払われた入院費用はどうなるのかというと、一定の条件を満たせば「支払った人(相続人)の確定申告」で医療控除の対象になります。

国税庁の説明によると、この一定の条件とは「治療等を受けた時の現況で生計を一にしている場合」です(国税庁WEBサイト『死亡した父親の医療費|国税庁』より)。「生計を一にしていた」かどうかは、死亡した方(被相続人)と同居していたか、あるいは死亡した方から仕送りなどを受けていたかによって判断されます。

 

相続税との関係

被相続人の入院費用を相続人が支払った場合、その費用は相続税の申告でも債務として控除対象になります。まだ未払いの場合でも「病院に対する債務」となるため、債務控除が可能です。

 

遺産相続後の入院費用はどうやって払う?

病院から入院費用の支払いを求められた場合、どこから(だれのお金から)支払えばよいのでしょうか?

 

相続人の財産から支払う

もっともシンプルな方法は、相続人の個人財産から支払うことです。他の相続人とのトラブルになる可能性が少ないうえ、支払った人が「被相続人と生計を一にしていた」なら医療控除の対象にもなります。

といっても特定の人が一人で入院費用を肩代わりするのは負担が大きいため、できれば相続人全員で分担するのが理想です。その際は法定相続分の割合で分担するのが公平でしょう。

もちろん先に入院費用を立て替えておき、後から遺産分割協議などの場で分担を要求するという方法もありますが、事後申告はトラブルになりやすいため支払い前に相続人全員に相談するのがおすすめです。

 

死亡保険金から支払う

亡くなった方が生命保険をかけていた場合、死亡保険金から支払うのもスマートです。死亡保険金は相続財産の一部ではない(遺産分割協議の対象にならない)ため、他の相続人とトラブルになる可能性もほとんどありません。

ただし死亡保険金があまりにも高額の場合、他の相続人との平等を図るために「特別受益」として扱われるケースがあります。特別受益と判断された死亡保険金は相続財産の一部とみなされ、遺産分割の対象になるため注意が必要です。

関連記事:『死亡保険金は遺産相続でどう扱われる?相続税がかかる場合の計算方法も解説

 

相続財産から支払う

被相続人の入院費用であれば、相続財産から支払うのが当然と考える人もいるでしょう。たとえば亡くなった方の銀行口座からお金を下ろして支払う方法などが考えられます。

ただし被相続人の預金を勝手に下ろすと他の相続人とトラブルになる可能性があるため、あらかじめ相続人全員で話し合い、合意しておくことが重要です。加えて、相続財産の一部を使うことで「相続放棄ができなくなる」リスクも発生します(これについては後ほど説明します)。

関連記事:『死後の預金引き出しは可能?仮払い制度と凍結口座の解除についても解説
関連記事:『葬儀費用は遺産相続分から支払える?葬儀費用の範囲や注意点についても解説

 

支払いの拒否は可能?

入院は病院と本人との契約です。では契約者でない相続人が、入院費用の支払いを拒否することは可能でしょうか?

もし相続人が被相続人の「配偶者」なら、支払いを拒否することはできません。なぜなら配偶者には「日常の家事に関する債務の連帯責任」があるからです。

民法第761条

夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。


一般的な入院費用も「日常の家事」と考えられるため、配偶者には未払いの入院費用を支払う義務があります。

もうひとつ、入院の際に「保証人」になった相続人も支払いを拒否できません。通常、病院に入院する際は身元保証人を求められます。身元保証人の主な役目のひとつは入院費用の保証ですから、そもそも支払いを拒否することはできないのです。

なお病院との保証契約は相続とはまったく無関係なため、仮に相続放棄をしたとしても入院費用の支払い義務は免れません。

 

入院費用の支払いと相続放棄の関係

相続財産から入院費用を支払うと、場合によっては支払手続を行った相続人が「相続放棄できなくなる」可能性もあります。

 

単純承認になる可能性がある

相続が発生すると、相続人は遺産相続を受けるか、それとも相続を拒否するかを決定する必要があります。前者の場合は特別な手続きをする必要はありませんが、後者の場合は「相続放棄」という手続きが必要です。

相続放棄をする場合、相続発生から3か月以内に家庭裁判所で手続きを行います。ただしこの3か月の間に相続財産の一部(もしくは全部)に手をつけた場合、「単純承認(法定単純承認)」といって相続をする意思表示をしたとみなされます。その後あらためて相続放棄の手続きを行うことはできません。

問題は「被相続人の入院費用」を支払うことが単純承認にあたるかどうかですが、これについては裁判でも判断が分かれており、はっきりしないのが現状です。

 

裁判所の判断について

ちなみに過去の裁判では、「葬儀費用」に相続財産の一部を使うことが単純承認にあたらないとしたケースがいくつかあります。しかしどの程度の金額まで許されるかは明示されていませんし、そもそも入院費用を葬儀費用とまったく同じに考えて良いかも不明です。

裁判所の過去の判断が「絶対」というわけではないため、もし相続財産から入院費用を支払いたい場合は、他の相続人としっかり相談しながら慎重に判断する必要があります。

 

まとめ

相続発生後に入院費用を支払う場合、「だれが、どのお金で支払うか」が重要です。特に医療控除を利用する場合、相続放棄を考えている場合はしっかり検討しなければなりません。トラブルを避けるため他の相続人と相談することも不可欠です。ぜひこの記事を参考にしながら、スムーズな遺産相続手続を目指してください。

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