遺産相続では相続人同士の主張がぶつかり合い、トラブルに発展することがあります。中でも特に深刻なトラブルになりがちなのが、「他の相続人より多く財産を受け取りたい」という「がめつい」相続人のいる場合です。この記事では「がめつい相続人」のパターンや対策について解説していきます。
遺産相続でよくあるトラブル
お金に「がめつい」人はしばしば周囲とトラブルを起こします。特に遺産相続の場面では、このトラブルが大きくなりがちです。まずは「がめつい相続人」のトラブルについて、代表的なものをいくつかピックアップしてみましょう。
財産を独り占めする
よく聞くのが「親の財産を兄弟が独り占めしてしまう」というトラブルです。たとえば親と同居していた「兄」が、親が亡くなった後(相続発生後)に自宅や預金口座の中身を独り占めして、他の相続人に渡さないケースは決して珍しくありません。
もちろん兄にも言い分はあるでしょう。たとえば「親の介護をしていたのだから自宅をもらうのは当然」「一族の墓を引き継ぐから財産も余計にもらえる」といったものです。
確かにこうした主張には一理ありますが、しかし親が遺言書を残していなかった場合、相続財産の分配は相続人全員が納得したうえで決める必要があります。どのような理由があるにせよ、他の相続人を無視した独り占めは許されません。
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身勝手な主張をする
遺産分割協議の場では、自分にとって都合のよい主張に固執して他の相続人の意見を聞こうとしない人もいます。たとえば自宅以外の財産はほとんど残っていないのに「自分は自宅を相続する」と言い張り、代償金(他の相続人の相続分に相当する金銭)の支払いも拒否する、といったケースです。
また実家の土地と建物について、複数の相続人が「相続したい」「売却したい」と互いに譲らないケースもあります。
家族が口を出す
別のよくあるトラブルが、相続人の家族、たとえば配偶者や子供が相続分について口を挟んでくるケースです。「せっかく相続人同士の話し合いがまとまりかけていたのに、相続人の妻が出てきてすべてひっくり返してしまった」ということも珍しくありません。
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がめつい主張に対処するには
他の相続人ががめつい主張をしている場合、トラブルを広げないためにどのような対処をすればよいのでしょうか。
相続人だけで話し合う
基本的な対処法は「話し合い」です。本来のルール通りに「遺産分割協議」を行います。2名以上の相続人(共同相続人)がいる場合、そのうちの一人が欠けただけでも遺産分割協議は成立しません。また相続人が欠けた状態で作られた遺産分割協議書は無効です。
まずは相続人全員が冷静に話し合って、互いの意見や立場を尊重し合いながら遺産配分を決めていきましょう。
遺言書を確認する
そもそも遺言書がある場合、遺言書の内容に沿って遺産配分が行われます。たとえ一部の相続人が身勝手な主張をしていても関係ありません。遺言書の存在や内容をしっかり確認することがトラブル回避の近道です。
遺産分割調停を申し立てる
相続人同士の主張がぶつかったまま話し合いがまとまらない場合、または一部の共同相続人が協議に協力してくれない場合は家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てます。
遺産分割調停では裁判所が選ぶ調停委員が当事者の間に入り、話し合いを進めていきます。相続の経験豊富な第三者からアドバイスや提案をもらうため、直接話し合うよりも冷静に、合理的な判断を下せるでしょう。遺産分割調停が成立しない場合は、裁判官が分割内容を判断する「遺産分割審判」に移行します。
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遺留分侵害額請求をする
相続財産を強引に独り占めされてしまった場合は、「遺留分侵害額請求」で対抗できます。
遺留分とは法定相続人が「最低限受け取ることができる相続分」のことで、遺言書でもこの権利を奪ったり、割合を変えられたりすることはありません。遺留分を侵害された相続人は、財産を独り占めしている相続人に対し遺留分相当額の金銭を要求できます。
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がめつい相続人によるトラブルを予防する
遺産相続手続をスムーズに進めるためには、トラブルの発生を未然に防ぐことが一番です。ここでは被相続人が生前に行える対策と、相続開始後に相続人が行うことができる対策を紹介します。
遺言書をきちんと作成する
最善の対策といえるのが「遺言書の作成」です。遺言書があれば相続人同士の身勝手な主張をあらかじめ封じることができますし、財産の分配方法についても「故人の意思」として、ある程度納得してもらいやすいでしょう。
ただし「長男にすべての財産を相続させる」といった極端な内容だと、他の相続人が不満を感じる可能性も高くなってしまいます。遺言がきっかけで余計な対立を招くことにもなりかねないため、内容には十分配慮すべきでしょう。
生命保険を活用する
「自宅がほぼ唯一の相続財産」というようなケースでは、特定の相続人による財産の独り占めが問題になりがちです。このような場合、あらかじめ自宅を相続させたい相続人を「生命保険の受取人」に指定しておくのも有効でしょう。
自宅を相続した相続人が別に受け取った保険金を「代償金」として他の相続人に支払えば、相続人同士の不満を解消、もしくは和らげることができるかもしれません。
専門家に依頼する
相続の専門家に相談するのも有効です。具体的には遺言書の作成方法や、遺産分割協議の方法(遺産の分配方法)についてアドバイスを受けることができます。第三者である専門家の意見を聞くことで、相続人同士が冷静に話し合えるという効果も期待できるでしょう。
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まとめ
冷静な話し合いから裁判まで、がめつい相続人に対処する方法はさまざまです。もちろん、どのような対策を取れるか、あるいはどのような方法が最善かを判断しにくいこともあるでしょう。そのような場合は専門家を上手に活用しながら、トラブルの早期解決を目指してください。
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