土地や建物などの不動産を相続した場合「相続登記」が必要です。この記事では相続登記がなぜ必要なのか、どのような手続きをすれば良いのか、相続登記にかかる登録免許税とはどのようなものかについて解説していきます。
相続登記とは
相続登記は正式には「相続による所有権移転の登記」といい、相続人が土地や建物といった「不動産」を相続した際に、名義を被相続人から相続人に変更する手続きのことです。
ちなみに相続登記は自動的に行われるものではありません。相続人がこの手続きをしない限り、不動産は亡くなった方の名義のままになります。
相続登記が必要なケース
これまで相続登記は法律上の義務ではありませんでした(改正法によって義務化が決定していますが、これについては後ほど説明します)。このため相続登記をしないまま相続が繰り返され、中には「先々代の名義のまま」という土地も決して珍しくありません。
しかし次のようなケースでは、相続登記によって不動産を自分名義に変えておく必要があります。
- 相続した不動産を売却する
- 相続した不動産を担保に融資を受ける
- 債務を抱えた相続人がいる(債権者からの差押えを避ける)
とはいえこのような事情がなくても、不動産を相続した以上それを自分の名義に変えるのは当然のことです。義務化の有無に関係なく「相続登記はすべきもの」と考えておいた方がよいでしょう。
相続登記をしないデメリット
相続放棄をせず、名義を放置することにはさまざまなデメリットがあります。
たとえば急に不動産を売買する必要が出てきたとき、名義が故人のままでは不動産を得ることができません。急いで登記をしようとしても、他の相続人の状態(すでに亡くなっている、認知症になっているなど)によってはさらに多くの連絡や手続きが必要となり、手間も時間も費用もかかります。自分の他に共同相続人がいる場合は、あらためて不動産の権利を主張されたり、遺産分割交渉を迫られることもあるかもしれません。
また不動産を売る予定がないため「自分は困らない」という場合も、いつか自分の子や孫といった、将来の相続人たちが困ることも考えられます。
相続登記の義務化について
以上は「相続登記が義務ではない」という前提の話ですが、実は相続登記を義務化する法律はすでに成立しており、遅くとも2023年4月28日までには施行されます。
新たな制度では、不動産を取得した相続人は「取得を知った日から3年以内」に相続登記を行わなくてはなりません。これに違反した場合は「10万円以下の過料」というペナルティが発生します。
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相続登記は自力でできるか
多くの人にとって気になるのは「相続放棄は難しい?」「自分でできるの?」といった点でしょう。
基本的に相続登記の手続きは難しくありません。必要書類さえ揃っていれば、それを提出するだけで手続は完了です。ただし必要書類を揃えるのに手間や時間がかかることが多く、特に「不動産の名義が先々代のまま」というようなケースでは難易度が一気に上ります。
どの程度の難易度なら自分でできるか(できないか)は人によって違いますが、一般論としては次のようなパターンであれば、自分で手続きを行ってみてもよいでしょう。
- 相続関係が単純
相続人が配偶者のみ、子供のみ、あるいは配偶者と子供のみ、といったケースです。このようなケースでは相続登記に必要な戸籍謄本を集めるのにそれほど手間がかかりません。 - 時間に融通がきく
戸籍謄本を集めるなど、関係書類の収集は役所や法務局で行います。平日の日中に十分な時間がとれる人であれば、集める書類が多少多くても対応可能です。 - 手間を惜しまない
書類を発行してもらうために役所や法務局へ何度も足を運んだり、集めた書類を読み解くには手間がかかります。こうした手間を惜しまない人や、根気がある人なら手続きを自力で行うことができるでしょう。
逆に、次のようなパターンでは専門家に依頼した方が無難かもしれません。
- 相続関係が複雑
自分の兄弟からの相続や、代襲相続(子が亡くなっていて、孫が相続人になる場合など)が発生している場合は相続関係が複雑になり、大量の戸籍謄本を集める(そして読み解く)必要が出てきます。正確な相続を行うためにも専門家の力を借りるべきです。 - 名義が放置されている
不動産の名義が被相続人ではなく、先々代やさらにその先の人のままになっているような場合は、権利を処理するために現行の民法だけでなく、戦前の法律知識なども必要になってきます。こちらも専門家に頼るべきケースといえるでしょう。 - 相続トラブルを抱えている
相続人同士が争っていて相続登記に協力してもらえないような場合、第三者である専門家に手続きを代理してもらう方がスムーズです。 - 時間がない
日中は仕事で時間がとれない、法務局が遠方にあって気軽に行けないといった場合も、無理に自分でやるより専門家に依頼した方がよいでしょう。
相続登記の手続きを自分でやるか、専門家に任せるかについて絶対のルールはありません。相続登記の必要が発生したら、相続の内容や身の回りの環境など、さまざまな要素を検討して決定してください。
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相続登記の方法
ここからは相続登記の具体的な方法について解説していきます。
申請先
相続登記を行う場所(申請先)は「不動産の所在地を管轄する各地の法務局」です。管轄違いの法務局に書類を提出しても却下されてしまうため注意してください。
必要書類
相続登記に必要な書類は「相続のパターン」によって異なります。具体的には「遺言書による相続」「遺産分割協議による相続」「法定相続分による相続」の3つです。
①すべてのパターンで共通の書類
- 登記申請書(法務局Webサイト『不動産登記の申請書様式について』)
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本(除籍謄本)
- 被相続人の住民票の除票
- 不動産を取得した相続人の戸籍謄本
- 不動産を取得した相続人の住民票
- 相続人全員の住民票の写し
- 相続関係説明図
- 委任状(相続人の1人が代表して相続登記を申請する場合)
②遺言書による相続で必要な書類
上記①に加えて、以下の書類が必要です。
- 遺言書
- 検認調書または検認済証明書(自筆証書遺言の場合)
- 遺言執行者の選任審判書謄本(遺言書で遺言執行者が選任されていない場合)
③遺産分割協議による相続で必要な書類
上記①に加えて、以下の書類が必要です。
- 遺産分割協議書(法定相続人全員の署名捺印が必要)
- 相続人全員の印鑑証明書
- 相続人全員の戸籍謄本
④法定相続分による相続
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の住民票
書類の収集方法
申請に必要な各書類は、以下の方法で収集(作成)します。
- 登記申請書:法務局で書類を入手のうえ相続人が記入
- 戸籍謄本、住民票、印鑑証明書:市区町村役場に申請
- 検認調書(検認済証明書):家庭裁判所
- 遺言執行者の選任審判書謄本:家庭裁判所
- 遺言書:被相続人が作成
- 遺産分割協議書:相続人が作成
- 相続関係説明図:相続人が作成
- 委任状:相続人が作成
相続登記の流れ
相続の発生から相続登記完了までの流れは次の通りです。なお②から②までは必ずしもこの順番というわけではありません。
①被相続人の死亡(相続開始)
②相続人の調査
③不動産を含む財産調査
④遺言書の確認/遺産分割協議
⑤登録免許税の計算
⑥登録申請書の作成/添付書類の書類を収集
⑦法務局へ申請(相続登記完了)
登録免許税について
相続登記を行う際は「登録免許税」を一緒に納めます。登録免許税は相続に限らず、あらゆる「登記」に必要な税金です。具体的には不動産の登記のほか、船舶や航空機の登記、会社の登記などで必要になります。
登録免許税で注意すべきなのは「税額を自分で計算する」という点です。計算は『登録免許税の税額表』に基づいて行いますが、万一計算を間違えて納付額が不足した場合、税務署から指摘を受けて不足分を徴収されます。
登録免許税の税率
不動産の価格(課税価格)×0.4%(100円未は満切り捨て) |
課税価格とは、「固定資産評価証明書」に記載された不動産の評価額から1,000円未満を切り捨てた額のことです。もし不動産の評価額が1,000円に満たない場合は「1,000円」となります。
ちなみに固定資産評価証明書は「固定資産課税台帳」で確認します。
納付方法
登録免許税の納付は「現金」が原則です。あらかじめ自分で計算した金額を銀行などの金融機関などで支払い、その領収書を登記申請書に貼り付けて提出します。
なお登録免許税が3万円以下になる場合は、その分の収入印紙を購入して登記申請書に貼り付ける方法も認められます。
納付期限
登録免許税の納付には特に期限はありません。申請書の提出時までに納入されていれば大丈夫です。ただし固定資産評価証明書は年度(4月1日~翌年3月31日)ごとに発行されるため、計算基準とする固定資産評価証明書の発行年度と相続登記を行う年度は一致していなければなりません(基本的にはは「最新年度」の資産評価証明書を利用します)。
まとめ
相続登記は決して難しい手続きではありませんが、相続した不動産の名義や他の相続人の状況によっては関係書類の収集に手間と時間がかかります。時間に余裕がある方は自力でチャレンジしてみるのもよいですが、安心・スムーズな手続きを目指すのであれば専門家の活用もぜひ検討してみてください。