再婚している人の中には、再婚相手の連れ子と暮らしている人が大勢います。中には血のつながった家族以上に親密な絆で結ばれている人も少なくありません。ではこのような「連れ子」は、相続人になることができるのでしょうか?この記事では相続における連れ子の立場と、連れ子に遺産を与えるための方法について解説します。
連れ子と遺産相続
再婚相手が連れてきた「連れ子」は、血縁関係のない親族になります(正確には姻族1親等)。戦前の民法では連れ子を実の子と同様の血族1親等としていましたが(民法旧第728条)、現在の民法にこのような規定はありません。
再婚相手の相続権
ここで問題になるのが、再婚相手と連れ子の「相続権」です。民法では配偶者の相続権についてこのように規定しています。
民法第890条
被相続人の配偶者は、常に相続人となる。(後半省略) |
この条文には初婚や再婚といった区別は書かれていません。つまり婚姻関係を結んだ「配偶者」である限り、相続権が常に与えられるということです。
逆に「離婚した元妻(夫)」のように婚姻関係が終了している人は相続人の権利を失っていますし、事実婚や内縁の妻のように正式な婚姻関係にない人も相続人にはなれません。
連れ子の相続権
一方、子の相続権についての条文は次の通りです。
民法第887条第1項
被相続人の子は、相続人となる。 |
この条文だけ読むと、連れ子にも相続権が発生するように思えます。しかし仮に同じ戸籍に入ったとしても連れ子と継父・継母には親子関係が成立しないため、相続人になることはできません。
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法定相続人の範囲と順位
連れ子と相続権についてもう少し考える前に、そもそも「法定相続人とは何か?」を説明します。
法定相続人とは民法の規定に基づいて被相続人の財産を相続する権利を与えられた人たちです。具体的には「配偶者」「子や孫など」「直系尊属」「兄弟姉妹」がこれに相当し、それぞれの相続人は優先順位に従って遺産を相続します(後順位の相続人は、先順位の相続人がいる限り遺産相続できません)。
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常に相続人:配偶者
配偶者は、4種類の法定相続人の中で「最優先」される相続人です。
- 配偶者・子・両親・兄弟姉妹がすべている場合は「配偶者と子」
- 子だけがいない場合は「配偶者と両親」
- 子と両親がいない場合は「配偶者と兄弟姉妹」
- 子・両親・兄弟姉妹がいない場合は「配偶者のみ」
がそれぞれ相続人になるといった具合です。すでに説明した通り、この配偶者とは現在婚姻関係を結んでいる相手のことで、初婚や再婚は関係ありません。
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第1位:子・孫など
子は優先順位が第1位の相続人です。ここでいう「子」とは(血のつながった)実の子か養子縁組をした子のことをいいます。いわゆる「腹違いの兄弟」も同順位の相続人となり、非嫡出子(婚外子)も認知を受ければ同様の扱いを受けます。ただし再婚相手の「連れ子」は相続人にはなれません。
なお相続発生の時点(子の親が亡くなった時)で子が亡くなっている場合、もしその子に子(被相続人から見ると孫)がいれば「代襲相続」が発生します。代襲相続とは直系の子孫が相続権を引き継ぐことで、子が亡くなっていれば孫、孫が亡くなっていればひ孫へ…という具合に相続権が移ります。
第2位:直系尊属
直系尊属とは、父・母や祖父母、曽祖父母などのことです。民法では次のように規定されています。
民法第889条第1項第1号
次に掲げる者は、第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。 ①被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。 |
ここで「親等の異なる者の間では、その近い者を先にする」とあるのは、両親と祖父母が存命している場合、被相続人により近い両親が相続人になるという意味です。このとき両親がどちらも存命なら二人とも、どちらか一方しかいない場合は存命している方が相続人になります。祖父母に相続権が映るのは、父と母のどちらも亡くなっている場合のみです。
第3位:兄弟姉妹
優先順位の第3位については、上で紹介した民法第889条第1項第1号に続く条文の中で次のように規定されています。
民法第889条第1項第2号、第2項
②被相続人の兄弟姉妹 2 第887条第2項の規定は、前項第2号の場合について準用する。 |
「第887条第2項の規定」というのは代襲相続のことです。つまり優先順位が回ってきた時点で兄弟姉妹が亡くなっていた場合、その子供(おい・めい)が代襲相続で相続権を引き継ぎます。
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連れ子に遺産相続させるには
話を「連れ子」に戻しましょう。ここまで説明してきた通り、再婚相手の連れ子は相続人になれません。しかし現実には、血のつながった親子以上に良好な親子関係を築いている継父・継母と連れ子は大勢います。このような場合に、連れ子に財産を遺すにはどうすれば良いのでしょうか?
養子縁組
もっとも確実な方法は養子縁組です。養子は血のつながった子と同じ第1位の相続人として扱われます。つまり連れ子を養子にすれば、その子は実の子と同じ相続人になるというわけです。
養子縁組は、養親と養子が一緒に「養子縁組届」を作成して市区町村役場に届けることで成立します(養子が15歳未満の場合は親権者が代行)。このように養子縁組の手続きは婚姻と同程度に簡単ですが、いったん養子縁組をするとどちらか一方の意思で離縁することはできません。
なお養子縁組をした子(連れ子)は養親の相続人になれるだけでなく、養親と再婚した親や、離れて暮らすもう一人の実親から相続する権利も維持し続けます。
遺言による指定
遺言書で指定をすれば、養子縁組をしないで遺産を遺すことが可能です。ただし厳密には、この場合の連れ子は「相続を受ける相続人」ではなく「遺贈を受ける受遺者」となります。連れ子に財産を遺す際は、遺言書に「○○(連れ子)に△△(財産の指定)を遺贈する」と書かなければなりません。
遺言書で財産を遺贈する場合の注意点は、他の相続人の遺留分を侵害しないことです。遺留分とは法定相続人が最低限受け取れる財産の割合のことで、配偶者と子は本来の相続分の1/2、直系尊属は本来の相続分の1/3について遺贈分を主張できます。
もし財産の大半、あるいはすべてを連れ子に与えてしまうと、連れ子は他の相続人から遺留分侵害額請求を受けるなどのトラブルに巻き込まれる危険があります。遺贈を行う際は遺産を分配するバランスに十分注意が必要でしょう。
また養子縁組をせずに遺言書で遺産を遺した場合、相続税が「2割加算」になることにも注意してください。
生前贈与
遺贈ではなく、被相続人が元気なうちに生前贈与するという方法もあります。一般に生前贈与は贈与税の対象となりますが、年間110万円以内であれば相続税が課税されないため、長期的に生前贈与を行えば贈与を受ける連れ子の負担にならない上、節税対策にもなります。
ただし生前贈与によって相続人の遺留分が侵害された場合、そのことを当事者双方が認識していたのであれば遺留分侵害額請求を受ける可能性があるため注意が必要です。
特別寄与
連れ子が無償で継父・継母の看護などをしていた場合は、見返りとして遺産の一部を請求できる「特別寄与」が認められる可能性もあります。ちなみに特別寄与の対象となりうるのは「6親等内の血族」と「3親等内の姻族」です。連れ子は姻族1親等なのでこの要件を満たしています。
もっとも特別寄与料の支払いは、被相続人が亡くなった後に連れ子自身が他の相続人に請求しなければなりません(協議が不調の場合は家庭裁判所の調停・審判の手続を利用できます)。
関連記事:『親の面倒を見た人は遺産相続で優遇される?寄与分の要件について解説』
まとめ
再婚相手の連れ子は相続人ではありません。ただし養子縁組や遺言による指定、生前贈与など、連れ子に遺産を遺す方法はいくつも存在します。それぞれの方法には長所と短所があるため、もし連れ子に財産を与える場合は最も有利な方法、トラブルの少ない方法を利用するよう心がけてください。