土地の生前贈与は相続対策として有効?名義変更の手順や贈与税についても解説

土地の生前贈与を受ける場合、名義変更や贈与税の申告などいくつかの点に注意する必要があります。この記事では土地を生前贈与のメリットとデメリット、関連手続や注意点について、相続手続と比較を含めて説明していきます。

 

土地の生前贈与と相続

土地の生前贈与は、しばしば相続対策(相続税対策)として利用されます。まずは生前贈与の意味とメリット・デメリットについて確認しましょう。

 

生前贈与とは

「生前贈与」とは贈与契約に基づき、生きているうちに財産を贈与することです。「贈与」については民法第549条でこのように定義されています。

贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。


つまり生前贈与は、贈与者(財産を譲る人)の「無償で財産を与えるという」意思表示を受贈者(財産を受けとる側)が承諾することによって成立します。これ以外の成立要件はないため、たとえば契約書などの作成や不動産の名義変更などは必ずしも必要ではありません。

なお生前贈与に関連する言葉としては「相続」「遺贈」「死因贈与」があります。それぞれの違いは以下の通りです。

名称 財産を譲る人 財産を受け取る人 成立条件 効力発生時期
生前贈与 贈与者 受贈者 双方の合意 贈与者の生前
相続 被相続人 相続人 被相続人の一方的な意思表示 被相続人の死後
遺贈 遺贈者 受遺者 遺贈者の一方的な意思表示 遺贈者の死後
死因贈与 贈与者 受贈者 双方の合意  贈与者の死後


生前贈与のメリット

土地の生前贈与は、相続と比べて以下のようなメリットがあるためしばしば相続対策として利用されます。

  • 指定した相手に、不動産を確実に引き継げる
  • 収益物件なら家賃などが受贈者の収入になる
  • 相続税の節税になる可能性がある
  • 配偶者控除の特例により配偶者により多く財産を残せる

 

生前贈与のデメリット

生前贈与は都合の良いことばかりではありません。利用する際は、以下のデメリットを覚えておくことも必要です。

  • 受贈者が相続人の場合、生前贈与分が特別受益とみなされて相続分が減る可能性がある
  • 高額な贈与税が発生する
  • 登記(名義変更)の手数料が発生する
  • 相続時精算課税制度を利用する場合、生前贈与分も最終的に相続税の対象となる

 

土地の名義変更手順

土地の生前贈与を受けた人は、できるだけ早い段階で「名義変更(登記)」の手続きをするのがおすすめです。

すでに説明した通り、贈与には必ずしも名義変更は必要ありません。しかし登記簿に記載されていない権利は第三者に主張できないため、たとえば不動産を売却したり、不動産を担保にしてお金を借りることなどができなくなります。

このため生前贈与を受けたら、まずは以下に説明する手順で名義変更を行うようにしましょう。

 

贈与契約書の作成

生前贈与は贈与者が財産を譲る意思を表明し、受贈者がそれに応じることで成立します。通常の贈与であれば口頭のやりとりのみで問題ありませんが、不動産の贈与では「贈与契約書」を作成します。

贈与契約書は名義変更登記や贈与税申告の際に必要となるほか、贈与後のトラブルを避けるためにも必要な書類です。

 

名義変更登記

土地の名義を贈与者から受贈者に変更する手続きが「名義変更登記」です。名義変更登記は受贈者自身が(対象不動産を管轄する)法務局で行うのが原則ですが、何らかの理由で手続きを行うのが難しい場合は司法書士に依頼できます。

名義変更登記に必要な書類は以下の通りです。

贈与者が用意する書類 登記権利証(登記識別情報、登記済証)
印鑑証明書(発行後3か月以内のもの)
受贈者が用意する書類 登記申請書
住民票
委任状(司法書士に依頼する場合)
その他 登記原因証明情報(贈与契約書など贈与の事実を証明するもの)
固定資産評価証明書


贈与税申告

贈与税は原則として「年間110万円を超える贈与」にかかる税金です。一般に土地などの不動産は高額になるため、多くのケースで贈与税の申告が必要になります。

贈与税は受贈者が、自身の住所を管轄する税務署で行うのが原則です。ただし納税金額の計算や申告手続が難しい場合は税理士に依頼することもできます。

贈与税を申告できるのは、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日の間です。この間に申告を行わない場合はペナルティ(加算税など)が発生するため注意してください。

 

贈与税の仕組み

贈与税は個人が財産を贈与する際に、受贈者に課税される税金です。贈与税は「暦年課税」が基本ですが、一定の条件を満たす場合は「相続時精算課税」制度や「配偶者控除の特例」を利用することもできます。

関連記事:『生前贈与で贈与税申告が必要なケースとは?申告の方法と必要書類についても解説

 

贈与税の基本は暦年課税

暦年課税というのは1月から12月までの1年単位で贈与税の計算を行う方式です。暦年課税には110万円の基礎控除があり、贈与の合計額から110万円を引いた金額が贈与税の課税対象(課税価格)となります。ちなみに土地の価格は国税庁の基準に基づいて、路線価方式または倍率方式で評価します。

贈与税金の税率は次の表の通りです。なお②の特例税率とは、直系尊属(両親や祖父母など)から18歳以上の子や孫への贈与に適用されるもので、税率などが一般税率よりも優遇されます。

①一般税率

課税価格 200万円
以下
300万円
以下
400万円
以下
600万円
以下
1,000万円
以下
1,500万円
以下
3,000万円
以下
3,000万円
税 率 10% 15% 20% 30% 40% 45% 50% 55%
控除額 10万円 25万円 65万円 125万円 175万円 250万円  400万円


②特例税率

課税価格 200万円
以下
400万円
以下
600万円
以下
1,000万円
以下
1,500万円
以下
3,000万円
以下
4,500万円
以下
4,500万円
税 率 10% 15% 20% 30% 40% 45% 50% 55%
控除額 10万円 30万円 90万円 190万円 265万円 415万円  640万円
  • 一般税率の例:配偶者から1000万円の贈与を受けた場合の贈与税
    890万円(1000万円-110万円)×40%-125万円=231万円
  • 特例税率の例:祖父から1000万円の贈与を受けた場合の贈与税
    890万円(1000万円-110万円)×30%-90万円=177万円

 

相続時精算課税について

相続時精算課税とは「60歳以上の直系尊属から18歳以上の子や孫への贈与」の場合に、暦年贈与の代わりに適用できる制度です。

相続時生産課税では、贈与金額が累計2500万円まで贈与税がかかりません(無税になります)。ただし「無税」は一時的なもので、贈与者が亡くなった際に相続税の対象となります。

また相続時精算課税は暦年課税との選択制になるため、相続時生産課税を選択した場合は年間110万円の基礎控除は適用されません。また一度相続時精算課税を選択すると暦年課税には戻れないため注意が必要です。

 

配偶者控除の特例

婚姻期間20年以上の夫婦が配偶者間で自宅を贈与する場合、配偶者控除の特例として最高2000万円までの控除を利用できます(110万円の基礎控除と併用すると控除額は合計2110万円)。

配偶者控除の特例を利用する場合、贈与があった翌年の2月1日から3月15日までに申告が必要です。

 

土地の贈与にかかるその他の税金


土地の生前贈与では、基礎控除や特例を利用して贈与税が非課税になった場合も別の税金が発生します。また専門家に依頼する場合は専門家に支払う報酬が発生します。

 

登録免許税

登録免許税とは、名義変更手続(登記手続)のときに納める費用です。
税額は『固定資産税評価額の2%』です。

  • 例:1000万円の不動産を贈与された場合
    1000万円×2%=20万円

 

不動産取得税

不動産取得税とは、新たに不動産を取得した場合に納める税金です。
税額は『固定資産税評価額の3%』ですが、令和6年3月31日までの軽減措置として基準となる固定資産税評価額が1/2となり、現在は『固定資産税評価額の1.5%』です。

  • 例:1000万円の不動産を贈与された場合
    1000万円×1.5%=15万円

 

専門家報酬

土地の名義変更や贈与税の申告を専門家に依頼する場合は、それぞれの専門家報酬が発生します。報酬額は特に決まっていないため、依頼先によってさまざまです。

専門家報酬の目安

司法書士(登記手続の依頼先) 5万円〜10万円程度
税理士(贈与税申告の依頼先  3万円〜10万円程度


土地の生前贈与に関する注意点

土地の価格は高額なため、贈与税も高額になるのが一般的です(最高55%)。このため贈与のタイミングと範囲には注意が必要です。たとえば1000万円の土地を贈与する場合の贈与税は「231万円」(一般税率)ですが、土地を10分割して毎年一つずつ贈与する場合は1年あたりの贈与額が基礎控除の110万円以内に収まるため、10年間続けて「無税」となります。相続対策(節税対策)として生前贈与を利用する場合はこうした工夫が必要です。

また被相続人の死亡日以前、3年以内に受けた生前贈与分は相続財産に加算されます。このため被相続人の死期が迫ってから相続対策として生前贈与を行っても、相続税の節税にはならないため注意してください。

 

まとめ

土地の生前贈与を受ける場合、名義変更や贈与税申告などさまざまな手続きが必要になります。この記事を参考にして、また必要に応じて専門家の力も借りながら円滑な手続きを目指していきましょう。

 

 

 

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