生前贈与で贈与税申告が必要なケースとは?申告の方法と必要書類についても解説

生前贈与の金額が一定以上の場合、贈与を受けた人は税務署への申告が必要になります。この記事では生前贈与にかかる贈与税の種類や申告方法、申告しなかった場合の罰則などについて解説していきます。

 

生前贈与と相続税について

生前贈与というのは、文字通り「生前に財産を贈与する」ことです。

 

相続との違い

財産を譲る(贈る)、という点で生前贈与と相続は似ていますが、財産を贈る相手や贈与のタイミング、そして税制度は大きく異なります。主な相違点は次の通りです。

  生前贈与 相続
対象者 だれでも 法定相続人
時期 贈与者の存命中※ 被相続人の死後
手続き 特になし 遺言書の作成・遺産分割協議
税金 贈与税 相続税
基礎控除 110万円/年間(暦年課税の場合) 3,000万円+600万円×法定相続人の数
申告期間 贈与の翌年の2月1日~3月15日  相続開始から10か月以内


このように生前贈与と相続は異なる制度ですが、生前贈与の内容によっては相続人同士の遺産分割で考慮されたり、遺留分侵害額請求の対象になることもあります。

また手続上は問題なくても、生前総世を受けた人と相続人との間でトラブルの種になることもあるため要注意です。生前贈与にまつわるトラブルのリスクを少しでも減らすためには、贈与契約書を作成した方がよいでしょう。

 

贈与税申告が必要なケース

生前贈与を受けた場合、贈与金額や課税方式の選択によって贈与税申告が必要になります。

基本的には「1年間に110万円」以内の贈与であれば申告は必要ありません。ちなみに「110万円」というのは一人の人が受け取る金額のことです(一人の人が「あげる」金額ではありません)。つまりAさんとBさんからそれぞれ60万円ずつ贈与を受けた場合、合計すると120万円になるため贈与税申告が必要になります。

また各種控除制度などの特例を利用する場合(たとえば最高2,000万円まで控除できる配偶者控除など)は、たとえ贈与税が0円になるとしても贈与税申告をしなくてはなりません。

参考:国税庁Webページ『No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除』

贈与税申告をする期間は贈与を受けた翌年の2月1日〜3月15日の間です。

 

贈与税の種類と税率

贈与税には「暦年課税」と「相続時精算課税」の2種類があります。生前贈与を受けた人は、翌年の申告期間までにどちらを利用するかを選択して、それに基づいて贈与税申告を行います。

 

暦年課税

暦年課税は贈与税の基本的な課税方式です。年間110万円の基礎控除を受けられるほか、要件を満たせば配偶者控除などの特例控除を受けることもできます。

暦年課税の税率は「一般税率」と「特例税率」に分けられます。

一般税率とは特例税率が適用されない場合の基本的な税率で、基礎控除を差し引いた後の贈与額に応じて以下の税率が適用されます。

贈与額 200万円
以下
300万円
以下
400万円
以下
600万円
以下
1,000万円
以下
1,500万円
以下
3,000万円
以下
3,000万円
税率 10% 15% 20% 30% 40% 45% 50% 55%
控除額 10万円 25万円 65万円 125万円 175万円 250万円  400万円


特例税率は「贈与を受けた年の1月1日に20歳以上※の人が、直系尊属から贈与を受けた場合」に適用される税率です。こちらは以下の税率が適用されます。
※令和4年4月1日からは「18歳」になります

贈与額 200万円
以下
400万円
以下
600万円
以下
1,000万円
以下
1,500万円
以下
3,000万円
以下
4,500万円
以下
4,500万円
税率 10% 15% 20% 30% 40% 45% 50% 55%
控除額 10万円 30万円 90万円 190万円 265万円 415万円  640万円


相続時精算課税

相続時精算課税は、2,500万円までの生前贈与に対して贈与税を一時的に猶予して、将来の相続発生時に相続金額と合わせて相続税の対象にするものです。贈与額が2,500万円を超える場合は20%の税率で贈与税が課税されますが、支払った贈与税相当額は将来の相続税計算時に控除(精算)されます(過去に支払った贈与税が相続税の金額より大きい場合は還付を受けられます)。

相続時精算課税を選択できるのは以下の3つの要件をすべて満たす場合です。

①贈与をする年の1月1日に贈与者(贈与する人)が60歳以上
②贈与を受けた年の1月1日に受贈者(贈与を受ける人)が20歳以上※
③受贈者が贈与者の直系卑属(子や孫)
※令和4年4月1日からは「18歳」になります

なお条件をすべて満たしたからといって必ず相続時精算課税になるというわけではありません。暦年課税か相続時精算課税かは贈与者ごとに選択できます(暦年課税から相続時精算課税への変更も可能です)。ただしいったん相続時精算課税を選択すると、その後贈与者が亡くなるまで課税方式を変更することはできません。

参考:国税庁Webページ『No.4103 相続時精算課税の選択』

 

生前贈与の贈与税申告

生前贈与の申告にはいくつかの注意点があります。ここでは贈与税申告の「時効」をはじめ、申告手続の方法について説明します。

 

時効

贈与税申告の時効、つまり申告の義務が消滅するまでの期間は、「贈与を行った年の翌3月16日から6年間」です。ただし意図的に申告しない(脱税目的など)悪質なケースでは、時効期間が7年間に延長されます。

関連記事:『遺産相続の時効とは?権利や手続きの時効について解説

 

申告期間

贈与税の申告対象となるのは1月1日〜12月31日までの1年間で、この期間に受けた生前贈与について翌年2月1日〜3月15日までに贈与税申告が必要です。

暦年課税を適用する場合で、年間の贈与額が110万円以内であれば申告は必要ありませんが、相続時精算課税を適用する場合は贈与額に関係なく、贈与税申告書と「相続時精算課税選択届出書」の提出が必要です。

 

申告先

贈与税申告は、受贈者(贈与を受けた人)の住所地を管轄する税務署で行います。郵送や窓口での提出に加え、e‐Tax(電子申告)も利用できます。

 

申告方法

贈与税申告書の作成では、国税庁のオンラインサービス(確定申告書作成コーナー)を利用できます。これは画面の案内に従って金額データなどを入力すると自動的に税額が計算され申告書が完成するというサービスです。

この方法で作成した申告書はそのままe-Taxで送信することもできますし(マイナンバーカードか税務署で発行されたID・パスワードが必要)、印刷して郵送したり、税務署に持参することもできます。

 

申告書類

贈与税の申告書には以下の種類があり、申告内容によって提出の組み合わせが変わります。

  • 第一表(兼贈与税の額の計算明細書)
  • 第一表の二(住宅取得等資金の非課税の計算明細書)
  • 第二表(相続時精算課税の計算明細書)

申告内容ごとの申告書の組み合わせは次の通りです。

申告内容 申告書
暦年課税のみを申告 第一表
相続時精算課税のみを申告 第一表と第二表
暦年課税と相続時精算課税の両方を申告 第一表と第二表
住宅取得等資金の非課税と暦年課税を申告 第一表と第一表の二
住宅取得等資金の非課税と相続時精算課税を申告 第一表と第一表の二と第二表 


なおそれぞれの申告書には添付書類が指定されています(複数の申告書で重複する指定がある場合は重ねて提出する必要はありません)。

申告内容 主な添付書類
贈与税の配偶者控除の特例(暦年課税)の適用を受ける場合
  • 受贈者の戸籍謄本や戸籍抄本(居住用不動産等の贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成されたもの)
  • 受贈者の戸籍の附票の写し(同上)
  • 登記事項証明書などで受贈者が控除の対象となった居住用不動産を取得したことを証する書類
相続時精算課税の適用を受ける場合
  • 相続時精算課税選択届出書
  • 受贈者が相続時精算課税の要件を満たしていることを証明する書類(受贈者、贈与者の戸籍謄本や戸籍抄本など)
住宅取得等資金の非課税の適用を受ける場合 受贈者の「氏名、生年月日」や「受贈者の直系尊属に該当すること」を証明する戸籍の謄本その他の書類で次の内容を証する書類(受贈者、贈与者の戸籍謄本や戸籍抄本など)
住宅取得等資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税選択の特例の適用を受ける場合
  •  相続時精算課税選択届出書
  • 受贈者が相続時精算課税の要件を満たしていることを証明する書類(受贈者、贈与者の戸籍謄本や戸籍抄本など)


贈与税申告に関する罰則

申告期間内に贈与税申告を行わないなど、ルールに従わない場合はペナルティが科されます。具体的には以下のようなパターンが考えられます。

ルール違反の内容 ペナルティ 税率
期限内に申告しない 無申告加算税 50万円までは15%、50万円を超える部分は20%
※税務署の調査を受ける前に自主的に期限後申告をした場合はどちらも5%
※調査の事前通知の後に申告した場合は、50万円まで10%、50万円を超える部分は15%
申告額が実際より少ない 過少申告加算税 新たに納めることになった税金の10%
※新たに納める税金が当初の申告納税額と50万円のいずれかより多い場合は15%
※税務署の調査を受ける前に自主的に期限後申告をした場合は非課税
※調査の事前通知の後に申告した場合は、50万円まで5%、50万円を超える部分は10%
申告後に納付しない 延滞税 納期限の翌日から2か月以内は
年7.3%
納期限の翌日から2か月を超える場合は14.6%
仮装隠蔽など悪質なケース 重加算税 無申告加算税のケースに相当する場合は無申告加算税の税額×40%
過少申告加算税・不納付加算税のケースに相当する場合はそれぞれの税額×35%
※過去5年以内に無申告加算税か重加算税を課されていた場合、さらに10%を上乗せ 


上の表にも書きましたが、無申告や過少申告に気がついた場合は速やかに、自主的に申し出ることが重要です(無視し続けると重加算税が適用される危険も高くなります)。

また不動産の贈与を受けた場合など、納税用の現金を用意できずどうしても納税が厳しい場合は、以下の要件をすべて満たすことで「延納」を利用できます(ただし利子税が課税されます)。

  • 税額が10万円を超えている
  • 金銭での納付が困難な理由があり、納付金額も困難といえる範囲
  • 延納税額、利子税額に相当する担保を提供する(延納税額が100万円以下で延納期間が3年以下であれば担保は不要
  • 定められた期限内に延納申請書と担保提供関係書類を提出する

 

まとめ

生前贈与を受けた場合は金額や贈与者との関係に応じて「暦年課税」か「相続時精算課税」を選択し、それぞれの必要書類を申告期間内に提出する必要があります。うっかりにせよ故意にせよ、正しい申告を行わないと厳しいペナルティを受けてしまうため、申告のタイミングや申告内容にも十分注意が必要です。不安なことや疑問点があれば税理士などの専門家に相談して、トラブルのない納税を目指してください。

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