親の通帳からの使い込みは罪になる?相続トラブル時の対処方法についても解説

親が亡くなった後、親と同居していた相続人が使い込みを行うケースは珍しくありません。今回は「親の通帳からの使い込み」が罪になるかと、トラブルを避けるためにどうすればよいかを説明していきます。

 

親の通帳からの使い込みは罪になるか

相続をめぐるトラブルのひとつが「使い込み」です。実際のところ、こうしたトラブルはどれくらいの頻度で発生しているのでしょうか。

 

使い込みによる相続トラブルは珍しくない

使い込みのトラブルに関する具体的な統計資料はありません。しかし相続の現場では、

  • 認知症になった親の預貯金を、同居する子供が勝手に引き出す
  • 相続発生を銀行に連絡せず、親の通帳で預貯金を引き出す
    といったケースがしばしば発覚します。親の通帳からの使い込みは、決して珍しい話ではありません。

一般論として、高齢の親と子供が同居している場合に親の口座から「一度に高額な引き出し」や「頻繁な引き出し」がある場合は、子供による使い込みが疑われます。親の死亡前後に引き出しがある場合も同様です。

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親族同士の使い込みは罪に問えない

他人の預貯金を勝手に使い込んだ場合、通常は窃盗罪や横領罪といった罪に問われます。しかし当事者が親族同士の場合、話は簡単ではありません。

刑法第244条

  1. 配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第235条の罪、第235条の2の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。
  2. 前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
  3. 前2項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。


引用した条文第1項にある「第235条の罪、第235条の2の罪」とは、窃盗罪と不動産侵奪罪ですが、この規定は横領罪にも準用されます。つまり、親子間の窃盗や横領を罪に問うことはできません。

 

民事上の損害賠償請求は可能

一方で、民事上の責任追及は親子間であっても可能です。

民法第703条

法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。


民法第709条

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。


引用した2つの条文のうち、第703条は「不当利得返還義務」、第709条は「不法行為責任」に関するものです。親の通帳からの使い込みはこのどちらにも該当する可能性があります。

 

親の通帳からの使い込みをめぐる問題点

ただ実際に親の通帳から使い込みがされていたとして、それを証明するのは困難です。

発覚しにくい

まず大前提として、使い込みというのは比較的発覚しにくい行為です。もし親が認知症を患っていれば、自分の通帳から勝手にお金が引き出されていること自体に気が付かない可能性もあります。また何かの用事で通帳からの引き出しを依頼していた場合、いちいち確認していなければ「余計に引き出された」としても気が付かないでしょう。

親の生前に使い込みが発覚しなければ、相続発生後はなおさら発覚しにくいといえます。

 

調査に手間と時間がかかる

仮に使い込みに気がついたとしても、それを証明する調査には手間も時間もかかります。たとえば銀行に「取引履歴」を請求したり、親がのカルテや診断書、介護記録を参照して必要経費を割り出したりしなければなりません。

医療関係の記録は保存期間が限られているため、一定以上さかのぼって調査することも困難です。

 

使い込みの額がわからない

使い込みの事実がわかっても、正確な金額がわからないケースもあります。特に使い込みの当事者が通帳やキャッシュカードを隠蔽している場合、素人である他の相続人が正確な引き出し額と使われた金額を特定することは困難です。

 

使い込みを認めない

ある程度証拠が揃っていても、当事者が使い込みを認めないことも少なくありません。「自分はやっていない」「親から頼まれて引き出した」と言い張られたら、それを覆す強力な証拠でもない限り裁判では勝てませんし、そのような証拠は簡単には集まらないでしょう。

 

使い込みが判明した場合

子供が、あるいは他の相続人が親の通帳から使い込んでいることが判明した場合、次のような方法で解決を目指します。

 

話し合う

基本となるのは「話し合い」です。まずは本人から事情を説明してもらい、そのうえで返還を求めましょう。場合によっては全額ではなく「現時点で返還可能な金額」で折り合ったり、一括ではなく分割での返済を認める必要があるかもしれません。

 

弁護士に相談する

本人が素直に話し合いに応じない場合や使い込みを認めない場合は、弁護士に相談するのも有効です。相続トラブルを多く取り扱っている弁護士なら、証拠収集のノウハウや相手の主張を崩すスキルを持っています。裁判になるかどうかや、裁判を起こした後の見通しについて相談できるのもメリットです。

関連記事『相続手続で頼れる専門家とは?行政書士と弁護士の違いについて解説

 

裁判を起こす

どうしても話し合いで解決できない場合は、裁判所に「不当利得返還請求」や「不法行為にもとづく損害賠償請求を訴えて裁判を起こします。この場合の裁判所は家庭裁判所ではなく、地方裁判所です。

関連記事:『遺産相続で示談交渉を行うメリット・デメリットとは?交渉の流れと専門家の活用方法

なお不当利得返還請求権は「権利行使できると知ったときから5年」もしくは「権利の発生時から10年間」で、不法行為にもとづく損害賠償請求権は「損害及び加害者を知ってから3年」で時効になります。裁判を視野に入れるのであれば、その前段階となる調査や話し合いを速やかに行う必要があるでしょう。

 

使い込みを防ぐ制度について

使い込みが行われるケースで多いのは、親が認知症を患っていたり要介護状態にある場合、親の死後に特定の相続人が財産を一時的に管理している場合などです。このような事情を抱えている場合は、以下のに挙げる各制度を利用することで使い込みのリスクを抑えることができます。

 

任意後見制度

任意後見制度とは、将来認知症などを発症した場合に備えて、あらかじめ自分の財産を管理する任意後見人を選んでおく(任意後見契約を結ぶ)制度です。

なお任意後見人は「信頼できる人」の中から当事者が直接選びます。ただし任意後見制度が機能するためには、さらに家庭裁判所による任意後見監督人の選任も必要です。任意後見監督人として選ばれるのは、主に弁護士や社会福祉士といった法律や福祉の専門家です。

 

成年後見制度

成年後見制度とは、認知症などを発症して判断能力が不十分になった人を保護するため、成年後見人を選んで財産管理や契約行為の支援を行う制度です。

成年後見人は家庭裁判所が選びます。選ばれるための資格は特にありませんが、やはり弁護士や社会福祉士などが選ばれるケースが多いようです。

 

家族信託制度

家族信託制度とは、財産を信頼できる家族・親族に託して管理や処分を任せる制度です。成年後見制度と違って「元気なうち」から引き続き財産管理を任せることができるなど、柔軟に運用できるのが大きなメリットです。

 

使い込みの疑いをかけられた場合

最後に、親の通帳から使い込んでいると「疑いをかけられた」人はどのように行動すべきでしょうか。

もちろん使い込みが事実なら、素直に事実関係を明らかにしたうえで早めに返還すべきです。しかし濡れ衣を着せられたという場合は、以下のような対応をするとよいでしょう。

 

客観的な資料を用意する

使い込みをしていないことを証明するために、疑いの元と思われるお金の流れを客観的な資料、たとえば通帳や金融機関の取引履歴、支払先の領収書や契約書など)で証明します。この場合の資料は多ければ多いほどよいでしょう。

また親の指示で預金の引き出しをしたのであれば、親が正常な判断で指示をしていたことを証明するために医療記録などを取り寄せることも必要です。

 

誠意を尽くして説明する

実際には、すべてのお金の流れを説明できる資料を揃えたり、「親が正常な判断能力を持っていた」ことを証明する医療記録を揃えるのは困難でしょう。

証拠がない以上は、誠意を尽くして説明して、相手に納得してもらうしかありません。

ただ一度かけられた疑いを晴らすことは困難です。まずは疑いをかけられることがないよう、普段からの行動に気を配ることと、親族とのコミュニケーションをとるよう心がけることをお勧めします。

 

まとめ

親の通帳から使い込みをしても刑事罰に問われませんが、使い込んだお金の返還請求を受ける可能性はあります。また裁判になるかどうかは置いても、親族とのトラブルは決して得にはなりません。親と同居している人は、他の相続人から使い込みの疑いがかけられることがないよう、注意して行動していきましょう。

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