相続放棄の手続きには費用がかかります。ただし相続の条件や専門家に依頼するかどうかで、必要となる費用は変わってきます。この記事では相続放棄にかかる一般的な費用と、専門家を利用するメリット・デメリットについて解説していきます。
相続放棄にかかる費用について
相続放棄にかかる費用は、書類の収集や手続きそのものに必要な「基本費用」、専門家に手続きを依頼する場合に必要な「専門家費用」、そして特定の状況で必要となる「追加費用」に分けられます。
基本費用
基本費用の内容は、相続放棄申述書に添付する印紙代と役所で書類を発行する際の手数料、連絡用の切手代です。
相続放棄の申述に必要な添付書類は、相続放棄をする相続人の種類によって次のように異なります。
相続人の種類 | 必要な添付書類 |
共通 | 1. 被相続人の住民票除票又は戸籍附票 2. 申述人(放棄する方)の戸籍謄本 |
被相続人の配偶者 | 3. 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
被相続人の子又はその代襲者(孫、ひ孫等) | 3. 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 4. 申述人が代襲相続人(孫、ひ孫等)の場合、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
被相続人の父母・祖父母等(直系尊属) | 3. 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 4. 被相続人の子(及び代襲者)で死亡している人がいる場合、その子(及び代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 5. 被相続人の直系尊属に死亡している人(例:相続人が祖母の場合、父母)がいる場合、その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
被相続人の兄弟姉妹及びその代襲者(甥、姪) | 3. 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 4. 被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している人がいる場合、その子(及び代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 5. 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 6. 申述人が代襲相続人(甥、姪)の場合、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
実際にどれくらいの費用がかかるかは、上記の書類の組み合わせ次第です。ちなみに各書類の取得費用(手数料)は次のようになっています。
- 住民票除票:300円〜400円程度(市町村役場によって異なる)
- 戸籍附票:300円〜400円程度(市町村役場によって異なる)
- 戸籍謄本:450円
- 除籍謄本、改製原戸籍謄本:750円
これらに加えて、
- 相続放棄の申述書に添付する収入印紙代:800円
- 連絡用の郵便切手代:400円〜500円程度(家庭裁判所によって異なる)
がかかります。これらを合計すると、おおむね3,000円〜5,000円程度です。
専門家費用
専門家費用は依頼する専門家の種類(弁護士か司法書士)によって異なります。また弁護士や司法書士の料金も統一されているわけではなく、一般的には事務所ごとに独自の料金表を用意しています。
おおむねの金額としては、
- 弁護士に依頼する場合:5万円〜10万円程度
- 司法書士に依頼する場合:3万円〜5万円程度
といったところです。ただし複数の相続人が一緒に相続放棄する場合(まとめて依頼する場合)に割引してくれる事務所や、戸籍謄本などの取得を代行してもらう場合に1通あたり1,000円程度の代行手数料がかかる事務所もあるため、細かい部分はあらかじめ問い合わせるなどして確認しておくことが重要です。
追加費用
追加費用はイレギュラーなケースで発生する費用のことで、たとえば次のようなものがあります。
- 相続放棄の期限が過ぎてから専門家に依頼する場合:1万円〜2万円程度
- 相続財産調査も専門家に依頼する場合:20万円〜30万円程度
- 相続財産管理人の選任をする場合:数千円程度
- 相続放棄申述受理証明書を発行してもらう場合:150円
上記のうち、相続財産管理人の選任については『相続放棄が認められない相続財産とは?相続で失敗しないためのポイントを解説』、相続放棄申述受理証明書については『相続放棄すべきケースとは?相続放棄の申述方法についても解説』もお読みください。
相続放棄の専門家について
相続手続にはさまざまな専門家が関係しています。ここでは相続放棄の手続きを取り扱うことができる専門家について説明します。
関連記事:『遺産相続は誰に頼むのがベター?各専門家の業務範囲や費用・注意点についても解説』
依頼先は「弁護士」か「司法書士」
相続放棄の手続きは家庭裁判所で行います。このような手続きを業務として取り扱うことができるのは「弁護士」か「司法書士」のどちらかです。
両者の違いは次のようになります。
- 弁護士:代理業務が専門(代理人として書類作成から申立てまで可能)
- 司法書士:書類作成が専門(依頼者が書類に署名押印し、申立ても依頼者本人が行う)
すでに説明した通り、費用は弁護士の方が高額です(司法書士の2倍程度)。しかし裁判所とのやりとりをすべて任せることができるのは弁護士ならではの強みといえます。
弁護士に依頼すべきケース
絶対に弁護士に依頼すべき!というケースはあまりありませんが、少なくとも以下に当てはまる人は弁護士への依頼を検討すべきでしょう。
- 裁判所とのやりとりまですべて任せたい
- 他の相続人と交渉してほしい
- 被相続人の債務者と交渉してほしい
- 相続放棄の期限が迫っている(もしくは経過している)
- 正確でミスのない手続きをしたい
司法書士に依頼すべきケース
これに対し、以下に当てはまる人は司法書士に依頼した方が有利と考えられます。
- 書類作成の手間を省きたい
- 少しでも費用を抑えたい
- 正確でミスのない手続きをしたい
自分で行うべきケース
「相続放棄の申述」という手続き自体は、決して難しいものではありません。むしろ大変なのは戸籍謄本などの書類収集と関係者(他の相続人や債権者)とのやりとりです。
専門家に依頼すると、どうしても数万円単位の費用がかかりますから、時間にゆとりがあって手間を惜しまないのであれば、弁護士や司法書士に依頼するよりも自分で手続きを行った方が良いかもしれません。
ただし少しでも手間を省きたい場合や、交渉事のストレスから解放されたい場合は専門家に依頼するのがお勧めです。また相続放棄の期限が過ぎている場合など「裁判所から却下される」おそれがある場合は、その後の「即時抗告」に向けて弁護士に依頼するのが安心でしょう。
専門家費用を払えない場合
「自分で手続きをする自信がない」
「トラブルを抱えているので専門家に依頼したい」
「相続放棄の期限が迫っているのに時間がとれない」
など、専門家に依頼する理由はさまざまです。しかし相続人が日々の生活費にも困っている場合、専門家費用を用意することは難しいでしょう。このような時に利用できるのが「法テラス」の「民事法律扶助業務」制度です。
法テラスとは「総合法律支援に関する事業を迅速かつ適切に行うこと」を目的とした法人で、弁護士や司法書士などのサービスを身近に受けられるようにするさまざまなサポートを提供しています。そのひとつが民事法律扶助業務です。
民事法律扶助業務では「経済的に余裕がない方」に無料の法律相談や「弁護士・司法書士の費用の立替え」を行っており、利用者は立て替えてもらった額を毎月少額(最低月額5,000円)ずつ返済していくという仕組みになっています。
制度の詳しい内容は、法テラスWebサイトの『民事法律扶助業務』で確認してみてください。
まとめ
相続放棄にかかる費用は、相続人それぞれの立場やニーズによってさまざまです。どのように手続きを行っていきたいのか、相続放棄をめぐるトラブルはないかなど、各自の置かれた状況に応じてベストな手続方法を選ぶようにしましょう。