遺産の使い込みとは、一般的には亡くなった方と同居していた相続人が、預貯金などを始めとした相続財産をほかの相続人に無断で処分することです。
ここでいう処分とは、法律用語で相続財産あるいはその一部を使い込んだり、売却したりすることを意味しています。
使い込みの例としては同居の子どもが親の預貯金を勝手に引き出して自分のものにする、親の不動産を勝手に売却する、親の生命保険を解約し解約返戻金などを着服するなど、さまざまな様態が考えられます。
一般的には勝手に人の財産を使ったり自分のものにしたりすると、「窃盗罪」や「横領罪」が成立するのですが、このような使い込みの場合はそうはいきません。
親子や配偶者などの親族間では、これらの罪に与えられる処罰が免除されると規定されています。
例のように子どもが親の財産を使い込んでしまったとしても、罪には問えません。
使い込みが疑われる場合の対処
ほかの相続人が遺産を使い込んでいるかもしれない疑いがあるときには、すぐに本人に開示や説明を求めるのがよいでしょう。
親がまだ生きている場合には、親本人に預金の取引状況などを確認してもらい、使い込みが発覚してから親族同士で話し合いましょう。
親がすでに故人となっている場合には、使い込みが疑われる相続人へ情報の開示や説明を求めます。
要求に応じない場合は、弁護士から金融機関へ照会して調査しましょう。
使い込みが疑われた時点で放置せず、迅速に状況をはっきりさせることが重要です。
使い込みが発覚したら?
使い込みを疑われた相続人が、使い込みの真相究明について協力的な姿勢を見せるケースは少ないです。
当事者間での解決はまず難しいものと考えられます。
そのような場合には、民事訴訟で解決するのがよいでしょう。
使い込みにおける使途不明金の返還については、民事訴訟において解決するべき問題とされています。
具体的には不当利得返還請求、または不法行為に基づく損害賠償請求の問題です。
遺産を使い込みまれていた場合には、どちらの方法でも取り戻すことができます。
時効に注意
このような場合には、時効に注意して迅速な行動を起こさなくてはなりません。
不法利得返還請求権の場合は、相続開始から5年以内、使い込みがあってから10年以内に請求する必要があります。
使い込みの時期によっては時効によって請求できなくなることもあります。
不法行為に基づく損害賠償請求権の時効は、「損害及び加害者を知ってから3年間」です。
これは使い込みが発覚してから3年が時効であると理解してよいでしょう。
どちらにせよ不法利得にも不法行為にも時効があるので、使い込みが発覚したらすぐに行動を起こしてください。
立証のために必要な資料を集めるのも素人では非常に困難な場合もありますので、時効の成立を防ぎ、遺産を取り返すには、早くから専門家に依頼するのがよいでしょう。