民法には、法定相続人に最低限度の相続分を保障する「遺留分」という制度が儲けられています。しかし遺留分はすべての法定相続人に認められているわけではありません。この記事では兄弟姉妹と遺留分の関係について解説していきます。
兄弟姉妹には遺留分がない
兄弟姉妹は(相続順位)第3位の法定相続人です。法定相続人には原則として「相続分」と「遺留分」が与えられますが、このうち遺留分が認められる法定相続人は限られています。
そもそも遺留分とは
遺留分とは、法定相続人が持つ「最低限の相続分」のことです。たとえば遺言書で他の相続人や第三者に全財産が与えられた場合でも、相続人は遺留分に相当する金銭の支払いを(全財産を受け取った人に)要求できます。
遺留分の割合は法定相続人ごとに異なりますが、遺言書でこの割合を変えたり、遺留分そのものを無効にすることはできません。
遺留分は非常に強力な権利です。このような権利が認められる背景には、次のような理由があると考えられています。
- 被相続人と生計を共にしていた人を保護するため
- 被相続人の財産構築に貢献した人に報いるため
もちろん遺留分を与えられた相続人すべてに上記が当てはまるわけではありませんが、被相続人の身近にいた家族や親族を一定範囲内で保護し、報いることが遺留分の大きな役割です。
関連記事『遺留分侵害請求権とはどのような権利?請求方法や請求を受けた場合の対応について』
法定相続人それぞれの遺留分
遺留分の割合は以下の通りです。
法定相続人 | 遺留分 |
配偶者のみ | 基準となる相続財産の2分の1 |
配偶者と子 |
それぞれ基準となる相続財産の4分の1 |
配偶者と直系尊属 |
配偶者は基準となる相続財産の3分の1、直系尊属は6分の1 |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者は基準となる相続財産の2分の1 兄弟姉妹はなし |
子のみ | 基準となる相続財産の2分の1 ※子が複数の場合は2分の1をこの数で等分する |
直系尊属のみ | 基準となる相続財産の3分の1 ※※直系尊属が2名の場合はそれぞれ6分の1ずつ |
兄弟姉妹 | なし |
兄弟姉妹に遺留分はない
上の表の通り兄弟姉妹には遺留分がありません。遺留分について定めた民法第1042条の冒頭にも「兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として…」と書かれており、兄弟姉妹に遺留分がないことがはっきり示されています。
兄弟姉妹が遺留分を持たない理由
兄弟姉妹に遺留分が与えられないのはなぜでしょうか?法律にはっきりした根拠が書いてあるわけではありませんが、大きく分けて以下のような理由があると考えられます。
①被相続人との関係が離れているため
先ほど遺留分という制度が存在する根拠について、
- 被相続人と生計を共にしていた人を保護するため
- 被相続人の財産構築に貢献した人に報いるため
と説明しました。たとえば被相続人の配偶者や子供、親といった人たちは被相続人と一緒に生活している可能性が高いですし、身近に暮らしていれば財産構築に貢献する機会もたくさんあるでしょう。
一方、兄弟姉妹が一緒の家計で暮らしているケースはそれほど多くありません。また一緒に暮らしていなければ、財産構築に貢献することもあまりないと考えられます。
つまり被相続人との距離が離れていることが、遺留分を与えられない理由のひとつです。
②おい・めいによる濫用を防ぐため
別の理由として、兄弟姉妹からおい・めいへの代襲相続が挙げられます。相続が発生した際に兄弟姉妹のだれかがすでに亡くなっていた場合、その兄弟姉妹に子(つまり被相続人から見ておい・めい)がいれば、相続権はおい・めいに代襲相続されます。
被相続人とおい・めいとの間にほとんど接点がなかったとしても、おい・めいは「たなぼた」で相続権を手にするわけです。もし兄弟姉妹(とおい・めい)に遺留分が認められたら、被相続人とのつながりが薄いにもかかわらず権利の主張が可能になってしまいます。これは「不公平」といえるでしょう。
兄弟姉妹は寄与分を請求できる
もちろん兄弟姉妹やおい・めいの中にも、被相続人と生計を共にしていたり、被相続人のために貢献してきた人がいるかもしれません。そのような人は遺留分が与えられない代わりに「寄与分」を主張することが可能です。
寄与分とは
寄与分とは、被相続人の「療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者」(民法第904条の2より)に与えられる「相続分の上乗せ」です。
寄与分が認められるためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
①相続人であること(共同相続人のひとりであること)
②事業の手伝いや財産の提供、療養看護などをしていたこと
③被相続人の財産が維持もしくは増加したこと
④特別の寄与をしたこと
兄弟姉妹は法定相続人のひとりですから、すでに①の要件は満たしています。これに加えて被相続人の事業を手伝ったり被相続人の介護をするなどして「財産の維持・増加」に特別な貢献をしたと認められる場合は、仮に遺言書などで相続財産を与えられなかった場合でも寄与分に相当する金銭を(財産を取得した人に)請求できます。
関連記事『親の面倒を見た人は遺産相続で優遇される?寄与分の要件について解説』
寄与分の請求方法
寄与分の請求は「遺産分割協議(話し合い)」が基本です。ただし請求を受けた人が、素直に寄与分を認めて金銭を支払ってくれるとは限りません。そこで一般には、寄与分の請求は以下の流れで行われます。
①遺産分割協議で寄与分を請求する
↓
(話し合いがまとまらない場合)
↓
②家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる
↓
(調停不成立の場合)
↓
③家庭裁判所に審判請求をする
家庭裁判所の手続きには時間と手間がかかるため、もし①の段階で合意できず、それでも寄与分を主張した場合はそれなりの覚悟が必要でしょう。
まとめ
兄弟姉妹には遺留分がありませんが、生前の被相続人のために多大な貢献が認められる場合は寄与分を請求できる可能性があります。いずれの方法で財産を受け取るにしても、できるだけトラブルのないスムーズな相続を目指すのであれば、専門家の活用も検討してみてください