相続放棄の手続きにはさまざまな書類が必要です。この記事では相続放棄をする相続人(申述人)ごとに必要な書類と、手続きの流れについて説明します。
相続放棄手続の大半は必要書類の準備
相続放棄の手続きは「書類集め」が中心です。つまり必要な書類を正確に揃えることができるかどうかが、相続放棄を成功させるカギとなります。
必要書類はおおまかに2種類
相続放棄に必要な書類は、大きく分けて次の2種類です。
- 相続放棄の申述書
- 添付書類(戸籍謄本など)
このうち「相続放棄の申述書」はすべての申述人に共通するもので、添付書類は申述人の種類によって異なります。
手数料など
相続放棄の費用は以下の通りです。
- 相続放棄の申述書に添付する収入印紙代:800円
- 連絡用の郵便切手代:400円〜500円程度(家庭裁判所によって異なる)
この他にも、添付書類を発行するための手数料がかかります。
- 住民票除票:300円〜400円程度(市町村役場によって異なる)
- 戸籍附票:300円〜400円程度(市町村役場によって異なる)
- 戸籍謄本:450円
- 除籍謄本、改製原戸籍謄本:750円
以上の費用は申述人によって多少異なりますが、合計するとおおむね3,000円〜5,000円程度です。
加えて、相続放棄について専門家に相談したり、手続きを専門家に依頼した場合は専門家に支払う報酬も発生します。具体的な金額は依頼する専門家の種類(弁護士か司法書士)によって異なりますし、事務所によっても異なります。
一般的な相場としては、弁護士に依頼する場合は5万円〜10万円程度、司法書士に依頼する場合は3万円〜5万円程度です。さらに以下のようなイレギュラーなケースではプラスアルファの費用も必要です。
- 相続放棄の期限が過ぎてから専門家に依頼する場合:1万円〜2万円程度
- 相続財産調査も専門家に依頼する場合:20万円〜30万円程度
- 相続財産管理人の選任をする場合:数千円程度
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同時申立なら手間と費用が省ける
このように相続放棄には書類集めの手間や費用が必要ですが、他の共同相続人と同時に相続放棄をする場合は「共通する書類は1通のみ」で済みます。専門家に相談する場合も、それぞれが個別に相談するよりも何人かで一緒に相談したほうが、費用の節約になるでしょう。
「相続放棄の申述書」について
すべての申述人に共通する「相続放棄の申述書」は裁判所のホームページからダウンロードできます。(書式/記入例)。
基本的には記入例に沿って記載するだけなので作成は簡単ですし、記入項目もそれほど多くありません。ただし「申述の理由」欄については、なぜ相続放棄をしたいのかがはっきりわかるよう、事実を具体的に記入する必要があります(場合によっては追加の説明資料を求められることもあります)。
申述人ごとの添付書類
添付資料は、被相続人や申述人本人の「戸籍謄本(全部事項証明書)」が中心です。ただし他の共同相続人と同時申立する場合や、すでに先順位の相続人が相続放棄をしている場合などは、重複する書類の提出を省略できます。なお戸籍謄本等は「発行日から3か月以内のもの」が必要です。
添付書類は申述書と同時に提出するのが原則ですが、もし申述前に入手困難な書類がある場合、申述後の追加提出も認められます。
被相続人の配偶者
被相続人の配偶者が相続放棄をする場合、以下の書類を申述書と一緒に提出します。
①被相続人の住民票除票又は戸籍附票
②申述人の戸籍謄本
③被相続人の死亡がわかる戸籍謄本
被相続人の子および代襲者
被相続人の子(子がすでに死亡している場合はその子、つまり孫)が相続放棄をする場合、以下の書類を提出します。
①被相続人の住民票除票又は戸籍附票
②申述人の戸籍謄本
③被相続人の死亡がわかる戸籍謄本
④申述人が孫の場合は、孫の親(被相続人の子)の死亡がわかる戸籍謄本
なお「被相続人の死亡の日から3か月」を過ぎてから申述する場合、債権者からの催告書や支払通知書のコピーの提出を求められることがあります。
被相続人の直系尊属
①被相続人の住民票除票又は戸籍附票
②申述人の戸籍謄本
③被相続人の出生時に初めて記載された戸籍から,その後作成された全ての戸籍の謄本
④被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している人がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時に初めて記載された戸籍から,その後作成された全ての戸籍の謄本
⑤申述人より下の代の直系尊属で死亡している人がいる場合、その直系尊属の死亡がわかる戸籍謄本
なお「被相続人の死亡の日から3か月」を過ぎてから申述する場合、債権者からの催告書や支払通知書のコピーの提出を求められることがあります。
被相続人の兄弟姉妹および代襲者
①被相続人の住民票除票又は戸籍附票
②申述人の戸籍謄本
③被相続人の出生時に初めて記載された戸籍から,その後作成された全ての戸籍の謄本
④被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している人がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時に初めて記載された戸籍から,その後作成された全ての戸籍の謄本
⑤被相続人の直系尊属の死亡がわかる戸籍謄本
⑥申述人がおい・めいの場合は、おい・めいの親(被相続人の兄弟)の死亡がわかる戸籍謄本
なお「被相続人の死亡の日から3か月」を過ぎてから申述する場合、債権者からの催告書や支払通知書のコピーの提出を求められることがあります。
相続放棄手続の流れ
相続放棄の手続きは以下の流れで進みます。
必要書類を提出
相続放棄の手続きは、まず「被相続人の最後の住所地の家庭裁判所」に書類を提出するところから始まります(申述人の住所地を管轄する家庭裁判所とは限らないため注意してください)。管轄裁判所は裁判所のホームページ『裁判所の管轄区域』から検索できます。
家庭裁判所に書類を持ち込む際は、受付時に「認印」と「身分証明書(運転免許証など)」が必要です。また書類提出後も、審理のために書面による照会や直接の聞き取りが行われることがあります。裁判所から呼び出しを受けた場合は、必ず応じるようにしてください。
相続放棄の照会書の返送
書類を提出すると、過程裁判所から「照会書」が送付されてきます。 照会書を受け取ったら期限までに返送しなければなりません。
照会書は書類提出から1〜2週間程度で送付されるのが一般的ですが、手続きが混み合っている時期は1か月程度かかることもあります。
相続放棄申述受理通知書の交付
相続放棄が認められると「相続放棄申述受理通知書」が交付されます。相続放棄の基本的な手続きはこれでいったん完了です。
相続放棄申述受理証明書の請求
相続放棄を受理されたことの「証明書」が必要な場合、家庭裁判所に「相続放棄申述受理証明書」を請求できます。申請の際は必要事項を記入した申請用紙に150円の手数料を(郵送を希望する場合は返信用の切手も)添えて申請します。家庭裁判所の窓口で直接受け取る場合は、認印と身分証明書、そして「相続放棄申述受理通知書」など、本人であることを確認できる資料が必要です。
次の相続人への通知など
相続放棄の申述が認められると相続権は他の相続人に移動しますが、家庭裁判所からそれらの相続人に連絡が行くことはありません。トラブルを避けるためにも、次の相続人に相続放棄の手続きが完了したこと(相続権が移ったこと)を通知すべきです。
また相続放棄した人が被相続人の財産を管理していた場合、次の相続人にそれらを引き継ぎます。マイナスの財産がある場合は、債権者にも連絡しておいたほうがよいでしょう。
相続放棄手続の注意点
相続放棄の手続きにはいくつかの注意点もあります。
熟慮期間は相続人ごとに独立
相続放棄の手続きを行える期間は「熟慮期間」と呼ばれています。熟慮期間の長さは「自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内」ですが、「自己のために相続の開始があったこと」を知るタイミングは相続人によって違います。
たとえば同順位の共同相続人でも、被相続人の死亡をすぐに知った人もいれば、1か月後に知らされたという人もいるかもしれません。また先順位の相続人が相続放棄をした場合、そのことを「知った日」も人によって大きく異る可能性があります。
つまり「他の共同相続人の熟慮期間は必ずしも自分と同じとは限らない」ということです。他人の熟慮期間に気を取られて、うっかり自分の熟慮期間が過ぎてしまった…ということがないよう注意してください。
熟慮期間は条件付きで延長可能
3か月という熟慮期間は、家庭裁判所の判断で延長されることがあります。延長が認められるかどうかは個別の判断になりますが、主に以下のようなケースが考えられます。
- 財産の規模が大きい
- 財産の構成が複雑
- 財産の大部分が遠方(たとえば海外など)にある
- 相続人自身が遠方に住んでいる
- 他の相続人が非協力的
- 他の相続人に妨害行為をされる、など
一方で、単に相続放棄の決定を先延ばしにしたいだけとか、熟慮期間を失念していてギリギリになって思い出したなどのケースでは熟慮期間の延長は困難でしょう。
※2022年4月現在、「新型コロナウイルス感染症の影響により熟慮期間内に相続の承認又は放棄をすることができない場合」に期間を延長できることが法務省のWebサイトでアナウンスされています。詳しくは『新型コロナウイルス感染症に関連して,相続放棄等の熟慮期間の延長を希望する方へ』をご覧ください。
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成立後は撤回できない
いったん相続放棄が認められると、後からそれを撤回することはできません。
まとめ
相続放棄の手続きを成功させるには、書類を正確に揃えることが必要です。実際に手続きを行う際は、この記事を参考にするだけでなく、管轄の家庭裁判所に問い合わせるなどして「最新の情報」を確認するようにしましょう。