遺留分制度をめぐる諸問題

【事例】自被相続人Aが死亡し、相続人として、妻B、子供CDEがいます。しかし、遺言で、Aは、全ての財産をCに相続させるという遺言書を作成しています。BDEは自分たちの取り分を確保するこはできないか?

 

【遺留分制度】
遺留分制度とは、被相続人が有していた相続財産について、その一定の割合の承継を一定の法定相続人に保証する制度です。遺留分とは、被相続人の財産の中で、法律上その取得が一定の相続人に留保されていて、被相続人の自由な処分(贈与、遺贈)に制限が加えられている持分的利益のことです。


【遺留分制度の趣旨】
遺留分制度は、被相続人の財産管理の自由と遺族の生活保障及び遺産形成に貢献した遺族の潜在的持分の清算という相続人の保護との調整を図る趣旨の規定です。


【遺留分権の行使】
遺留分を有する人の主張は、個々の遺留分権利者の自由意思に委ねられています。遺留分を主張したい場合は、遺留分の行使をすることになります。もっとも、遺留分の行使は、親族間の紛争を惹起することになりますので、慎重に遺留分行使をするか否かについて検討することが好ましいとおもわれます。

 

 

遺留分侵害請求権

【事例】遺留分侵害額請求権は具体的にどのように行使するのですか

【遺留分侵害額請求権者】 ①配偶者、②子、③直系尊属で遺留分を侵害された者です。

【遺留分侵害額請求権の行使方法】

(1)遺留分侵害額請求権 訴えの方法によることを要しません。相手方に対する意思表示によってなせば足ります。ただし、事後の立証のため配達証明付内容証明郵便をもって、遺留分侵害額請求権を行使すべきです。

(2)遺留分侵害額請求の記載内容

①請求をする本人と相手方

②減殺の対象となる遺贈・贈与・遺言の特定

③遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求する旨

④請求の日時

■記載例 例えば、「私は、甲の相続人で遺留分権者ですが、貴殿が被相続人甲から平成〇年〇月〇日付遺言書により遺贈を受けたことによって、私の遺留分を侵害しているので遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求します」と記載します。

■対象となる遺留分侵害行為(贈与や遺贈等)の特定 厳密には、侵害請求の範囲を定めるには、複雑な遺留分の算定をしなければならないし、その対象を定めるにも、侵害請求の順序が問題となります。そこで、念のため判明した遺留分侵害行為を全て侵害請求しておきます。

■目的物の特定 事実上、全ての目的物を特定するのは困難なので目的物の特定は不要です。

■遺留分額ないし割合額の表示 遺留分額の算定・表示は不要です。

【遺留分侵害額請求の相手方】

(1)原則 遺留分侵害額請求権行使の相手方は、原則的には、遺留分を侵害する贈与又は遺贈を受けた者です。 (2)遺言執行者が存在する場合 判例は、包括遺贈の場合に関し、遺言執行者を相手としてよいとの見解を示しています。特定遺贈の場合にも、遺言執行者を相手方に侵害額請求を成し得るとする下級審判例もあります。しかし、反対説も有力です。 したがって、遺言執行者だけでなく、遺留分を侵害する贈与又は遺贈を受けた者の全てに対し、内用証明郵便をもって侵害額請求の意思表示をするのが安全です。

 

 

遺留分侵害請求権の時効

【事例】遺留分侵害額請求権に時効はありますかのですか

【遺留分侵害額請求権の趣旨・請求】 遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から、1年間これを行わないとき、若しくは、相続開始の時から10年を経過したときに、事項によって消滅します。

【1年の時効の起算点】

(1)受遺者・受贈者に対する侵害額請求権の時効の場合

①改正前民法第1042条の「減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時」の解釈として、判例は「単に贈与又は遺贈があったことを知っただけでは足りず、減殺しうることを知ったことを要する」としています。

②遺産の全額ないしそのほとんどが遺贈されていて、それを遺留分権利者が認識している場合には、原則として「減殺しうることを知った」といえます。しかし、それ以外の場合は、「減殺しうることを知った」といえるには相続人が具体的な遺産の内容を知ることが必要となります。

【10年の時効の起算点】 相続開始の時から進行します。

 

 

 

遺留分の放棄・放棄の撤回

【事例】遺言が後から撤回されないように、遺留分を相続人に放棄してもらうことはできるか

【遺留分の放棄】 遺言を残しても、遺留分を侵害していると、遺留分権利者から遺留分侵害額請求がなされ、遺言どおりの遺産ぶんかつができない恐れがあります。そこで、一定の手続を経て、相続開始前に遺留分を放棄してもらうことが可能です。

【遺留分の放棄の手続】

(1)相続開始前の放棄

①手続 相続開始前の遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を必要とします。その管轄は、被相続人の住所地の家庭裁判所になります。

②家庭裁判所の許可を求める趣旨 旧民法下の家督相続を否定する新民法の下では、相続権も遺留分権も純粋の個人的な財産権であるから、その処分は自由ですが、これを無制約に認めると、被相続人が親の権威をもって遺留分権利者の自由意思を抑圧し、その放棄を強要することが起こり得ます。それでは、遺留分権利者の生活安定及び家族財産の公平な分配という新民法における遺留分制度の趣旨を無にする危険があることから、相続開始前の遺留分権の放棄は、家庭裁判所の許可を得た時に限りできるものとしています。

③許否の判断基準 具体的には、ⅰ)放棄が遺留分権利者の自由意思に基づくか否か、ⅱ)遺留分を放棄する理由に合理性・必要性があるか否か、ⅲ)放棄と引き換えになされる代償が存在するか否か、を考慮しているとされています。

(2)相続開始後の放棄 被相続人の相続が開始した後は、遺留分権利者は、その有する個々の遺留分侵害額請求権、あるいはその総体としての遺留分権全体を、自由に放棄することができます。

【遺留分の放棄の効果】 遺留分の放棄がなされても、共同相続人の遺留分が増加するのではなく、その反射的効果として放棄の範囲内で被相続人の自由分が増加するのみです。遺留分を放棄した相続人であっても相続権は失いません。したがって、遺産分割協議の当事者となることもできますし、相続開始後に相続放棄・限定承認の申述をしなければ積極財産は相続せずに負債のみ相続するという事態が起こります。

【遺留分の放棄と代襲相続】 遺留分の事前放棄をした者に代襲相続が発生した場合は、代襲相続人は遺留分のない相続権を代襲するにすぎません。

【相続開始前の遺留分放棄の撤回】 遺留分放棄の許可の審判後に発生した事情の変更を理由として許可の取消を求めることはできるでしょうか。 裁判所は、遺留分放棄許可の審判がなされた後は、原則として放棄の撤回をすることはできませんが、審判の基礎となった客観的事情に明白かつ著しい変化が生じ、許可の審判を維持することが著しく社会的実情に合致しなくなった場合は、相続開始前に限り、遺留分放棄許可の審判を取消すことができるとしています。

 

 

 

遺産分割のやり直し

【事例】遺産分割協議は既に終了しましたが、今一度、やり直しを行うことはできますか

【民法上の遺産分割のやり直しと課税関係】 遺産分割協議はひとつの契約ですから、相続人全員が合意すれば、やり直しは可能です。しかし、税法上は、一旦有効に成立した遺産分割協議によって、所有権が確定していると解され、この場合には、遺産分割による新たな財産の移転について贈与や交換とみなされて、追加課税される可能性があります。特に、贈与税は高額になる税金ですから、遺産分割のやり直しは民法上みとめられても、新たな税負担の観点から、実質的に困難であると考えることが適切です。

(1)詐欺・錯誤等の民法に定める意思の缺欠を理由とする無効取消 遺産分割協議も意思表示の瑕疵について民法の適用を受けます。したがって、通謀虚偽表示の遺産分割協議や錯誤のある遺産分割の場合、その遺産分割協議は無効・取消の対象になります。 この他、民法で契約を無効取消としているものには、公序良俗違反、強行規定違反、心理留保、通謀虚偽表示、錯誤、詐欺・脅迫、それに当事者の行為能力が欠けている場合等です。 この場合の課税関係についてですが、「その申告又は税額等の計算の基礎となった事実に係る契約が解除権の行使によって解除され、若しくは当該契約の成立後生じたやむをえない事情によって解除され、又は取り消された」場合には、更生の請求ができることとされています。

(2)遺産分割の債務不履行を理由とする解除 遺産分割協議に加わった一部の相続人の債務不履行を理由として、遺産分割協議を解除することを否定する判例があります。「相続人の1人が他の相続人に対して遺産分割協議において負担した債務を履行しないときであっても、他の相続人は民法第541条によって右遺産分割協議を解除することができない」とされています。

(3)合意解除 合意解除とは、相続人全員の合意により、遺産分割をやり直すものです。判例でも、「共同相続人の全員が、既に成立している遺産分割協議の全部又は一部を合意により解除した上、改めて遺産分割協議をすることは、法律上、当然には妨げられるものではない。」とされています。 ただし、税法上では、上述したように更正の請求が認められるためには、「やむを得ない事情」を必要としています。したがって、単なる合意解除では遺産分割のやり直しはみとめられず、遺産の再分配は贈与や資産の譲渡と認定される可能性があります。税法上も遺産分割のやり直しが認められるためには、合意解除と事実だけではなく、その前提になる錯誤取消の事由が必要と考えられますし、そのためには隠されていた遺産の金額的な大きさが問題になり、更には、それが当事者間で争われ、民事判決、あるいは調停が経由されていると考えたほうが安全です。

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