【事例】遺産分割協が終わった後、遺言が発見された場合、遺産分割協議は有効と考えることができるのか。
【遺贈の遺言の場合】
(1)包括遺贈の場合
①単独包括遺贈の場合は、遺産分割の対象たる遺産は存在しないことになるので、既になされた遺産分割は無効です。
②相続人ではない者に対する割合的包括遺贈の場合、受遺者を除外してなされた分割協議は、分割協議の当事者の一部を除外してなされたものであるので無効です。
③相続人に対する割合的包括遺贈の場合で、この遺贈を受けた相続人がこのような遺贈があることを知っていれば当初のような分割協議をすることはなかったであろうと考える場合は、当初の分割協議は錯誤により無効となる可能性があります。
(2)特定遺贈の場合
特定遺贈された財産は遺産分割の対象ではないため、その限度で分割協議は無効又は当初の分割協議全体が無効となります。いずれになるかは、遺産全体の中での遺贈財産の割合が影響するといえます。
【「相続させる」旨の遺言の場合】
(1)「包括して相続させる」旨の遺言の場合
この場合も包括遺贈の場合と同じく、遺産分割の対象たる遺産は存在しないことになりますから、すでになされた遺産分割は無効となります。
(2)特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言の場合
このような遺言がなされた場合につき、判例は、「この遺言は遺産の分割方法を定めた遺言であるとしつつ、何らの行為を要せず、被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものであり、分割協議又は審判を経る余地はない」と判事しています。この場合も特定遺贈の場合と同様に、分割協議が特定の遺産又は全体について無効となります。
【相続分の指定、遺産分割方式の指定、遺産分割の禁止の遺言が存することが判明した場合】
これらの場合、分割協議の当事者が、このような遺言があることを知っていれば当初のような分割協議をすることはなかったと考えられるか、あるいは遺言の有無にかかわらず同様の分割協議をしたと考えられるかによって、当初の分割協議は錯誤無効となるか、有効となるかが決まると考えられます。
【遺言により相続人資格に変更が生じる場合】
(1)認知の遺言の場合
この場合、民法第910条が類推適用され、遺産分割は無効とならず被認知者は価額賠償の請求ができるにすぎないとする説が有力です。
(2)廃除の遺言の場合
この場合は、直ちに廃除の効力が生ずるのではなく、遺言執行者の過程裁判所に対する廃除の請求により廃除の審判がなされ、これが確定することによってその効力が生じることとなります。そして、遺産分割協議をなした相続人の1人につき、廃除の判定が確定した場合は、相続人でない者を加えて遺産分割がなされた場合として、その分割協議の効力が判定されることとなります。正当な相続人が遺産分割協議に参加できなかった場合は、遺産分割は無効となります。